二十三
「普通のゲームだったら人が増えても、サーバーが落ちるとかの心配しかしないと思うんだけど、このゲームだとそれ以上の心配がある」
漣は単純にそんな人が多いのに美沙が楽しめるのか? という心配だったが、秀からすれば、注目する点はそこではない。
「今回のイベントは、人が増えれば増えるほどに自然と死ぬ回数が増える。
そんなのが精神衛生上いいわけないでしょ……」
「おはよ」
秀の心配の言葉を遮るように聞こえたのは、美沙の声。
秀は即座に返事をしようとする。
だが、美沙が急いで自分の席に戻っていてしまったせいでタイミングを逃した。
「あら? 宿題でも忘れてんのかね」
漣の言葉に、秀もそうなのだろうかと考える。
現に漣の言ったことが数回起きたことがある。
今日もそういう日だったのか、と考えた秀だったが、なんとなく違う感じもした。
そしてちょうど良くなるチャイム。
漣が自分の席に戻り、先生が教室に入ってくる。
そんないつもの日なのに、秀だけはそんないつもとは違う日に感じた。
☆☆☆☆☆
ヒデヨシ:よっす
ダテ:チャットに現れるとか久しぶりじゃん
ヒデヨシ:別にいいじゃないか、器の小さいやつ
ダテ:文面だからイラつかないと思ったけどお前の顔が浮かんだわ
ヒデヨシ:よかったね、ヒデヨシカウンターが1増えたよ!
ダテ:ツッコミどころしかないカウンターだなおい
ヒデヨシ:30たまると生ハムになる
ダテ:やけに実用的で面白いな、帰りに生ハム買うわ
ヒデヨシ:しょっぱいからあんまり食えない
ダテ:酒のつまみになるんだわそれがー、で、何したん?
ヒデヨシ:あら、もう本題?
ダテ:こうやってチャットしてるのもいいんだけど、次イベの準備に忙しいから
ヒデヨシ:今回の本題それ
ダテ:お、今回は流石に逃せないよなぁ
ヒデヨシ:ミヤが参加するから仕方がない
ダテ:あれ? それじゃあミヤちゃん初イベがこれなの? ご愁傷様?
ヒデヨシ:できることなら参加を見送りたいくらい
ダテ:確かに、ヒデヨシは明らかに苦手分野だもんな
操作していた携帯から目を外し、秀はため息をついた。
今は学校が終わり、帰宅して晩飯の後。
ポンポンと続いていく会話だが、苦手分野、の所で深いため息をついた。
秀……ヒデヨシは多人数での戦闘が苦手分野である。
そのため今回のイベントは基本的に楽しむだけのスタンスだった。
しかし、美沙が参加するとなると話が違う。
二陣営イベントは、サライにおけるスタンダードなイベントの1つだ。
全プレイヤーは二陣営に分かれて競い合う。
勝利した陣営に報酬が渡され、その中で上位十人は晴れて二つ名持ちとなる。
そんなスタンダードなイベントだが、この二陣営イベントは、とある俗称で呼ばれている。
『死亡イベ』
二陣営イベントは、いくつかの舞台という名のサーバーが用意される。
基本的には一会場に全体の1%あたりの人が投入され、競い合う。
リスポーンあり、一定時間でどれだけ殺したかを争う。
シンプルでなんともサライの特徴を反映したイベントである。
故に、死ぬほど死ぬ。
それはもうリスキル当然、安置なし、二つ名持ちがいた日には地獄のような惨状になる。
「待ってほんとにどうしよう」
問題はただ一つ。
美沙がリスキル地獄に巻き込まれてしまうことだ。
ヒデヨシ:初心者がリスキル地獄に落ちない方法求む
ダテ:気合いと根性
ヒデヨシ:ちなみに俺もリスキル地獄に落ちない方法求む
ダテ:多分当日お前の方がリスキル祭りにされてそう
こういう時に二つ名持ちは大変不便である。
リスキルはこのイベントに置いて最強のキルスコア稼ぎである。
ちなみにこれで二つ名持ちになったプレイヤーは多い。
初期からあるイベントなので、ものすごい量の研究、攻略が編み出されている。
そのせいでこのイベントが初イベントというのは、鴨がネギ背負って歩いているのと同義である。
かくいうヒデヨシは、二つ名持ちとして名前が知れている。
このような大人数型のイベントが行われている時、サライで真っ先に狙われるのは誰だろうか。
そう、二つ名持ち(強いやつ)である。
普通なら弱い奴が率先して狩られていくはずなのだが、このゲームに率先してしている人は大抵変態なため、そういうことになる。
だからと言って、弱いプレイヤーが狩られないというわけでもない。
弱いプレイヤーは呼吸をするように殺される。
だが、美沙はゲームを始めてから短期間でかなりの強さになっている。
それは強敵と戦うことによって身についたものだ。
だが、いくら美沙が短期間で強敵と戦って経験を積んでいたとしても、今回のイベントは根本が違う。
数の力と質の力は圧倒的に違うのだ。
「かくいう俺も生き残れる自信がない……」
一人情けないことを言っている秀は肩を落とす。
今日はこの後少し美沙とサライをする約束がある。
もうすぐテストを控えている秀も美沙も、長い時間プレイはできない。
だから短い時間で美沙に多人数との戦闘に慣れてもらわないと、楽しくイベントを過ごすことができない。
何か短時間で多人数との戦闘に慣れてもらう方法はないかと、秀は頭を悩ませる。
結局、秀はゲームを始めるまでにいい案は思いつかなかった。
☆☆☆☆☆
ゲームの中に入り、ミヤがログインしていないチェックするヒデヨシ。
「まだ来てないのか」
先に道場にでも行くか? そんなことを思いながら、ゆっくりと歩く。
「うげ、やっぱりか……」
その最中、ヒデヨシはフレンドメッセージを確認する。
そこにはたくさんのラブレター……もとい探り合いの文面。
『今回のイベント出る感じかー?
なら今度ちょっと一緒に会って話そうぜ。
もし同じチームだったらいいんだけどな!』
これはまだいい方だ。
挨拶がてら、挨拶のついでな感じがするから嫌な感じはしない。
『乙乙、久しぶりー。
うちは今回深淵に着くけどそっちはどっち?』
ストレートに聞いてくれている分好感が持てる。
だけど深淵に着く、というのが文面のみの表示なのでちょっと信頼性が足りない。
『吐け、どちらのグループだ?』
論外。
でも知ってる相手で逆らえないと吐かざるを得ないってのがタチが悪い。
二陣営イベントは、たくさんの同じチームのプレイヤーと共に戦う。
だがしかし、この二陣営イベントは、フレンド同士でプレイすることが出来る。
そう、意図的に同じサーバーでプレイすることが出来る。
友人とプレイすることを配慮に入れたものなのだろうが、これがイベントをより一層複雑にしている。
そうして引き起こるのが、情報戦。
自身のフレンドが同じ陣営なのか。
フレンドでもないにしても、知っているプレイヤーがどちらの陣営か。
プレイ時間を合わせる。
勝てる攻略を共有する。
弱いプレイヤーを相手の陣営に誘導する。
強いプレイヤーはどちらなのか把握する。
イベントの実施は来週。
それまでに最低10人は組める人間を探すのが、この二陣営イベントを攻略するための方法だ。
「ボンゴレビアンコにでもしようかな」
その全てにボンゴレビアンコと返信しようとするヒデヨシ。
ヒデヨシは基本的にイベントには積極的ではない。
だが一人でも最大限に楽しむようにしているため、他のプレイヤーからすれば何をするかわからない地雷の様な扱いだ。
だからこそ、ヒデヨシさえとり込めれば、と考える人間は多く、毎回イベントが始まる前に情報戦が始まると、こうなる。
結果、ヒデヨシはイベント当日に袋叩きに会うことが多い。
ヒデヨシは送信を押す直前で手を止める。
「あー……」
頭を過ぎるのは、ミヤ。
このふざけた返信のせいで狙われることが少なからずあるので、ミヤに被害が出ては行けないと思い、
「すいません、今回の友達とイベントに参加するので協力できません、と」
丁寧な文面に変更して返信した。
これで少量だが襲ってくる人間が減ってくれると助かるなぁ、とヒデヨシは考えていた。
「あ」
そんな時、曲がり角で誰かに見つかる。
ヒデヨシが顔を上げると、そこにいたのは、
「ヒデヨシさん!」
超絶美少女(外見推定10歳)だった。
二陣営イベントについて。
二陣営イベントはプレイヤーが二つの陣営に別れて対戦を行います。
幾つものサーバー(舞台)を使い、1つのサーバーに平均50人程度の人間が集まり、イベント事に設定された方法で戦います。
(イベント毎、と言ってはいるが大体はチーム乱闘)
ちなみに、二陣営イベントは開戦当時誰がどちらのチームかは見た目で判別が不可能です。




