二十
長屋に現れたミヤ。
特に意味はないが服を払う。
そして深呼吸。
長屋に特に変化はない。
ミヤは長屋の戸に手をかける。
その様子はまるで家を出るかのようであった。
戸を開ける。
片足を地面に踏み出す。
それに従い戸から身を出した瞬間。
光。
それを視界の端で捉えたミヤ。
頭を後ろに引く。
目の前を何かの物体が上から下に通っていったように見えた。
そして足に衝撃を感じる。
見ずともミヤは察する。
斬られた。
右方向にいる。
戸をすぐ出た後、敵はいる。
足を斬られたのを確認することなく、ミヤは行動に移る。
刀を抜く。
長屋に戻っているので、刀は元の一本の状態に戻っている。
そのまま右方向からの斬撃を防げるように、外に飛び出す。
飛び出した先で見えたのは、先ほどまで戦っていた人たちと同じ服装。
だが上半身の服の色が違うため、違う人間だとはわかる。
その人物は刀を振るうではなく、突きを放った。
飛び出したことを察していたのか、動いている最中のミヤの喉に正確に向かっていく。
ミヤは回避できないことを悟る。
思考する暇はない。
ミヤは刀を振るった。
その刀は相手を斬るために振るわれたものではない。
相手の刀を逸らすために振るわれた刀だ。
突きはミヤの喉元に迫る。
そしてその喉の中心を貫こうとした瞬間、刀同士がぶつかり合った。
突きは逸れるが、ギリギリだったせいで、刀は首を掠る。
そのままミヤは刀の背に手を当て、相手の刀に擦りながら前進する。
相手は鍔迫り合いに持ち込もうとするが、ミヤの前進はそれを許さない。
そして密着するかと思えたその瞬間。
ミヤの刀が消える。
そしてミヤの両手には刀が握られている。
当然、刀が消えたせいで相手の刀はミヤに迫る。
だが、ミヤは姿勢を低くする。
上を通る刀。
ミヤは両手に握ってある刀で下から切り上げる。
十分以上に近いため、その刀は相手の体を優に一刀両断する。
だがその瞬間、相手の姿が消える。
ミヤは微妙に顔を歪ませながらも、相手の気配から、その方向に前進する。
相手は体に赤い線を二本走らせながら、迫ってくるミヤに対応しようと刀を構える。
そこでミヤは気づく。
相手の持っている刀は先ほどの者たちと違い、少し長い。
太刀だろうかと警戒する。
だがそうだったとしても、違ったとしても、短期決戦を狙うしか無い。
相手が刀を振る。
ミヤは体を微妙に横にずらし、避ける。
しかしその刀は振るわれる途中で横を向く。
最小限の動きで避けたこともあり、刀は避けられない。
いや、ミヤに避ける気はない。
自分に向かってきた刀を、片手の刀を手放して、相手の刀を掴んだ。
刀を掴まれたことに驚いているのが、覆面越しにわかる。
ミヤはもう片方の刀で切り上げる。
そこでミヤの視界に映ったものは、光。
だがこれは先ほどのような微かな光では無い。
身を焦がすほどの光量。
否、炎であった。
その炎は二人を飲み込む。
☆☆☆☆☆
ミヤは一瞬の明転から即座に目を開け、あたりを見渡す。
とりあえず倒されてはいない。
そのことを確認できたら、次は現状の確認。
目の前にいたのは、自分と同じ袴を着た男。
炎を周りに纏いながら、男は自分の身長より大きい大太刀を振るっている。
その相手は、先程の相手とも、『上弦』とも『下弦』とも違う服の色をしたプレイヤー。
「ごめんよ嬢ちゃん!
おじさんの刀かなり巻き込みが酷いから!」
カンカンと金属のぶつかる音がミヤの耳に入る。
だが目の前にいる男は明らかにその音と同じ回数刀を振るっているようには思えない。
不自然に思っていると、周りの炎がまばらに晴れることで理解する。
大太刀を微妙に動かすことによって、相手の攻撃を防いでいる。
そんなことが可能なのかと思ったが、先ほどまでの化け物じみた動きを見せられては納得もしてしまう。
ミヤは即座に立ち上がり、刀を見る。
二本の刀は散らばっていている。
近いものでも3メートルくらい離れている。
一本でも取れれば、能力を解除することで回収することは可能である。
だが今の自分の姿を見ると分かるよう、足に一本の赤い線。
体にはいくつもの赤い線。
そして自分で確認することはできていないが、首に一筋の小さな赤い線があるだろう。
ミヤはこれから擦り傷一つでもつけられると倒されてしまう。
かといって目の前の男に守られながら逃げるか、という選択肢はない。
なぜならこのゲームはFFがある。
当然ファイナルファンタジーではなく、フレンドリーファイアのことである。
つまり、味方の攻撃が当たってしまうのである。
チーム対戦のゲームではかなり珍しいことだ。
だが、ミヤは幸いにも初めてやるチーム対戦のゲームなので、慣れが早い。
「さっきのやつのキルはとっちまったから死なないように立ち回っているけどっ!
こいつ強すぎるから本気でやりたいんだけどっ!
どうかならんかい?!」
剣戟によって途中途中区切りながら話す大太刀の男に、ミヤは考える。
どうすればいいか。
今の様子からどう打開できるか考える。
いや、打開する必要があるのか?
ミヤは、視界が開けたような感覚とともに、動き出す。
「なっ?!」
大太刀の男は驚く。
後ろに引く、離れる、といった選択肢を取ると考えていた大太刀の男。
だが、ミヤはそのどれでもなく、相手に向かっていくという選択肢を取った。
大太刀の男も、ましてや対峙している敵でさえも、思考が止まる。
その空白の時間でミヤは敵の腰にタックルする。
当然それを避けることはできずに、腰にタックルが当たる。
敵は尻餅をつき完全に無防備になる。
大太刀の男はその尻餅の音と同時に、ハッと我に帰る。
「ありがとよ嬢ちゃん!」
大太刀は炎を纏い、その光量であたりは包まれる。
「【円炎】!!!」
その言葉とともに、ミヤの視界はまたも光に包まれる。
☆☆☆☆☆
馬小屋から出てきた二人の女性。
その二人の表情は対照的である。
白く長い髪の女性は、少し悔しそうな顔をしている。
薄紅色の堂々とした出で立ちの女性は、すっきりとした顔をしている。
「うー、トイナさんばっか倒して羨ましいです」
「あはは、ミヤさんだってあの『夜中』たちに対して善戦していたじゃないですか」
「そういうお世辞はいいんですよ……」
「いやいや、『夜中』は本当に強くて、引き分けたのでさえ奇跡に近いんですからね」
ミヤは口を尖らせながら話している。
それに対して、トイナはそんなミヤをなだめている。
「あ、そういえば」
ミヤはその話の最中、何かに気づいたように声をあげる。
「【真夜中】って結局なんだったんですか?」
「あれ、見れなかったんですか?」
「見なかった?」
「えぇ、私と戦っている時に【満月】が使っていましたけど、遠くからで確認できませんでしたか?」
トイナの話に見に覚えがないのでミヤが問いかける。
「えぇ、終了30秒前だったんですけど」
「あ、それなら私倒されていたんで……」
「あ、ごめんなさいミヤさん……」
いいですよ気にしなくても、とミヤは返す。
トイナはそのミヤの様子に本当に気にしていないことを悟る。
「それで、【真夜中】というのは、あの中の誰かを指す言葉ではなく、刀を指す言葉なんですよ」
「刀?」
「そうです。
『夜中』はメンバーこそ変わりませんが、メンバーの持っている刀はコロコロ変わります。
それこそ、今日の『上弦』と『下弦』の持っている刀は今日初めて見ました」
「そうなんですか……」
「で、【真夜中】の話なんですが、『夜中』の中で一人だけは確実にある刀を持っているんです」
「ある刀っていうのは?」
「それこそが、【真夜中】」
「……ってことは、【真夜中】っていうのは刀の名前?」
「いえ、その刀の名前は正確には【真夜中】ではないんです。
ただ、そうやってみんなが呼んでいるせいで、そう呼ばれるようになったんですよ」
ミヤはトイナの話を聞いて、少し残念だなと思った。
それと同時に、トイナが少し羨ましく思えた。
「それで、【真夜中】の能力って?」
「あー、それはですね……」
トイナはなぜか言い淀んでいる。
ミヤはその様子に気づき、
「どうしたんですか?」
「いえ、私だけということはなく、全員がそうなのですが……」
トイナは苦笑いしながら、
「わからないんですよ」
「わからない?」
トイナはしっかりと頷き、
「そうです、分からないんです。
【真夜中】と戦ったものは、全員がその刀の能力を記憶することができない。
能力を発動されたことも、戦ったことも分かるのに、能力がどんなものなのかわからない」
「……不思議な能力ですね」
「だからこそ有名になった、というのもあるんですがね」
トイナは少し微笑みながら、
「それでも、そんなこのゲームが私は大好きなんです。
記憶を無くすって恐ろしいことですが、これはあくまでゲームです。
そんな経験ができるのはゲームだからです。
そんな不思議な体験ができるのはほんとうに、このゲームだけなんですよ」
トイナの言葉はミヤだけに言ったものには聞こえない。
そこにはいない、誰かにも言っているように聞こえた。
FFに関して。
チーム対戦型のゲームでは珍しく、サライはフレンドリーファイアを採用している。
当然悪いことをする人はいたが、その場合には特別措置が発令される。
それは『特別対戦』
悪意あるFFを行なったとみなされるものは、その時点で参加プレイヤー全員から敵指定され、ゲームのルールそのものが変わる。
……この設定に関しては今後使う可能性があるので、記述が変わる可能性があります。
ちなみにここの記述が変わっても通知はいたしません。
本編でもう一回説明が挟まれることになるので。




