十八
時間と忙しさの関係上、本話の改稿がなされる可能性があります。
大幅な変更に関しては最新話の前書きにて説明致します。
トイナ、剣聖。
その二つの言葉にミヤの笑顔が引き攣りそうになる。
「えっと、どうかしましたか?」
「いえ、見た目からは想像もできない名前だなって思って」
「あはは、私からしたら呼ばれ慣れた名前なんですけどね」
あはは、と笑うトイナ。
一方で、こんな状況に笑えないミヤ。
ちなみに、今日は水曜日。
秀とは、流石に毎日ゲームするのもどうだろうということで、今日はゲームを控えておこうということになっている。
秀は今日は苦手な国語の宿題があるし、早めに片付けとくかー、なんて言っていたため、恐らく今日はログインはしない。
ミヤは少し安心し、
「そういえば、トイナさんは今日は何をするつもりだったんですか?」
「私ですか?」
自分に向けられた話を逸らす。
逆に質問されたトイナは、少し考えてから、
「このゲーム、月が綺麗で結構好きなんですよ。
イベントでない時は特に綺麗に見えるので、ちょっとログインしてみたんですよ」
「月?」
ミヤが空を見上げる。
そこには煌々と輝く月が。
確かに現実のものと比べると光量が多く、くっきりと見える。
「そうなんですよ、私このゲームが好きで変なところに目をつけちゃうんですよね」
「変なところ?」
ミヤの笑顔は、かなり人当たりが良さそうに見える。
そんな笑顔でトイナの話を聞き返していると、
「えぇ。
史実を元に当時の様子をできる限り取り込んで作った建物。
それにサンドボックス系のゲームに取り入れられているゲームエンジンの『ディザスター』によって現実のものと限りなく近い再現度を持つ太陽や天候を作り出し、さらにはその『ディザスター』に当時の太陽の様子を再現させることにより、見えないところで見える形でその時代を再現しているんです。
さらには空気感にも凝っていて、人間がいることによる環境的影響を現実の二倍にすることによって、人間がいることをより顕著に、そして環境に投影できるようになっています。
そのおかげでこの独特の空気感の、独特な世界観が出来上がっているわけなんですよ。
更には人間が存在する影響力を強めることによって、このゲームはほかのゲームと違い、感情というものが顕著に現れるようになっていて、その感情がまた環境に影響を与えるのが、これまた醍醐味なんですよ」
情報の飽和。
小学校の頃に水に溶ける砂糖の量は一定だという実験をやったことはないだろうか。
それは人間の脳でも近いことは起き、砂糖の代わりに情報をたくさん脳に与え続けると、
「へ?」
「へ?」
思考を止める。
ミヤの言葉をオウム返ししたトイナは、そこで自分がしたことに気づく。
「す、すいませんっ!
私、ついつい話しすぎちゃって……」
「いえ、大丈夫ですよ。
私も話についていけなくてごめんなさい」
「いや、普通そんな話をされたらついていけないですよね……。
姉にもよく言われるんです……」
トイナが勝手に負のスパイラルに突っ込んでいく様子にミヤはとりあえずフォローをと、
「でも、面白そうではありましたよ」
「え?」
「トイナさんの話、ちょっとしか分からなかったけど、面白そうでしたよ」
「…………ありがとうございます」
話しかけてきた時は凛としていたのに、今となっては只のちょっとダメな感じの女の子だな、とミヤはトイナを見てそんな感想を抱いた。
トイナは、ミヤのフォローに少し嬉しそうに微笑み、
「ほんとすいません。
けど、そう言ってくれる人って結構少なくて、嬉しいです」
「いやいや、次は私もちょっとでも話についていける様に勉強してきますよ」
「あ、なら私が教えましょうか?
……あー、でも私勝手に暴走しそうですよね」
自分で立候補しておきながら、苦笑いしながら辞退していくトイナに、ミヤは面白い人だなー、なんて思っていた。
だがそれと同時に、これがヒデヨシ絶対殺すマンなんだ……と、ミヤは少し遠い目をする。
「とりあえず、いきなり話しかけてすいません。
代わりに、今度なんかのイベントとかで助太刀して欲しかったら呼んでください。
この『聖剣』にかけて、助けに行きますよ」
男らし。
ヒデヨシは助ける様な状況を作らないように全力を尽くす系なので、このようなかっこいい言葉はあんまり聞かない。
今度ヒデヨシに言わせてみよ、なんてミヤがくだらないことを考えていると、トイナはまた今度、と言って去ろうとした。
そこで、ミヤはいいことを思いついた。
もしかして、この人と仲良くなればヒデヨシ狙われなくなる?
チープな発想だが、無くはない。
しかもミヤ的にもゲーム内での友達は欲しい。
確かにトイナは変な人だ。
少しニコニコと対応していただけで、百の情報が帰ってきた。
それでも、ミヤの目には普通にいい人に見える。
なら、
「あの!」
「はい?」
ミヤは、少し勇気を出してみた。
☆☆☆☆☆
『白兵戦』
馬小屋にて、とりあえずと二人で触った手網で、ミヤとトイナは長屋の中に現れる。
「まさか会ったばかりの人に『白兵戦』一緒にやろうなんて言われるとは思いませんでしたよ」
「私もびっくりでしたけど、楽しみですね、ちょっと」
「ふふ、楽しそうですね」
「このゲーム、楽しいじゃないですか。
なんかこう、人間が生きているのが分かる、って感じで」
「確かにそうですね。
このゲームの人間の存在影響は『白兵戦ッ!』あ、始まりますね」
ミヤが咄嗟に出た引き止めの言葉は、『私と白兵戦しませんか?』だった。
正直、意味のわからない誘い文句だったが、トイナはそんなミヤ言葉に、いいですよと返事をしてくれた。
ミヤとしては恥ずかしいことこの上ないのだが、なんだかトイナは楽しそうにしている。
「そういえば、武器は何を使っているんですか?」
「あ、まだ『憂』のままだ……」
そこでミヤがトイナと話しながらここまで来た感想は、いい人だな、というものだった。
少し話しすぎる節はあるが、気遣いもできる、こちらの話にしっかりと耳を傾けてくれる等、ヒデヨシが苦手な人物とは程遠い印象だった。
「じゃあ今のうちに変更したらどうでしょうか?」
「え、今できるんですか?」
「えぇ、以外に知られてないんですが、ここだと戦闘最中に武器の入れ替えができるんですよ。
ま、普通の人は使い慣れた刀を使うことが一般的なので、知られていないだけですが」
「へー、詳しいんですね」
「うーん、このゲームかなり細かく作られていて、調べれば調べるほど面白いことが分かるんですよね」
ミヤはウィンドウを操作して、自信の持っている刀を見ていく。
『憂』が使いやすいのは分かるが、ミヤは回復するのが自分にとってあまりメリットにならないと考えていた。
刀を振り、ヒデヨシとダテと軽く戦ってみて、分かったのは、"近づかれ、相手の流れになったら終わり"。
だから自分の流れを生み出すような刀か、もっと対応力の高い刀でないときっと太刀打ちが出来なくなると考えていた。
ちなみに、その考え方はまともに刀を振れるようになったプレイヤーが上のプレイヤーに勝てないという問いの答えなのだが、その答えをミヤは始めたばかりでたどり着いていた。
「もうそろそろ始まりますよ。
早く決めた方がいいですよ」
「えっ、意外に早い」
前ヒデヨシと入った時は長く感じていたのにな、とミヤは心の中で呟きながらも、刀を選ぶ。
そうして見つけたのは、この前武器屋で見つけた刀
自分が見つけた刀ということで、ほかのものより少し愛着があったので、能力を見ずにそれを選択。
「さ、行きましょう」
「はーい」
トイナの言葉に間延びした返事を返す。
そして、長屋の戸はいきなり開く。
☆☆☆☆☆
「ありゃ、面倒な所を引きましたね」
戸を抜けるとそこは、荒野だった。
草ひとつ生えていない、土の露出した大地。
現代を生きる人間では見ることの無い風景。
「ここは?」
「『跡地』と言います。
見ての通りただの荒野なんですが、ここは合戦によってここまで荒れ果ててしまった、という設定があります」
「ほほう」
眺めるように見てみるが、一面荒野。
横を見ると、赤色の袴の和服の男性が両サイドから一人ずつでてきた。
「あ、【剣聖】くんだ」
髷を結い、羽織を着ている右の男性が、トイナを見てそう話した。
「お、【剣聖】くんだ。
珍しいね」
逆側の、極度にはだけた和服に、身の丈以上ある大太刀を持った男性も、同様に声をかける。
「こんばんは。
頑張りましょう」
「おっけー」
「了解」
トイナの呼びかけで、両側の男性は刀を構えた。
「あ、すいません、このステージの最大の特徴を言ってませんでしたね。
このステージの最大の特徴は……」
ミヤはそこで、音を感じた。
音の方向は、前。
「このステージ最大の特徴は、小さいことです。
つまり……」
その方向にいたのは、人影。
全員緑色の袴に、坊主頭。
その頭からヒラヒラと舞っているのは、ハチマキ。
「うっわ、【真夜中】と【夜中】か」
「面倒臭いぞこれは……」
両側の男性達は面倒臭そうに、だが楽しそうに話す。
ミヤはその話の意味が分からず、首を傾げていると、
「夜の日の夜の時間帯で主に活動しているちょっと有名なプレイヤーです。
すいませんが、もしかしたらミヤさんを守りきれないかも……」
「大丈夫ですよ」
トイナが心配そうに声をかけてくる。
それをミヤは制し、
「頑張るんですから」
自分の刀を抜く。
トイナな心配そうにしていた表情を崩し、
「それじゃあ、私も頑張ります」
その腰の光り輝く『聖剣』を引き抜いた。
☆☆☆☆☆
『無銘和泉守藤原兼重』
『能力:無銘金重、和泉守藤原兼重を出現させる。
副作用:使用中は無名和泉守藤原兼重は消える。
使用条件:刀の背に手を添える』
本日は設定解説お休みです。




