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十七

「またね」

「うん、明日ね」


 手を振って、あの曲がり角を曲がるまで見送る。

 そうしたら、家の中に入り、洗面台に。

 手洗いうがいをし、冷蔵庫に直行。


 冷蔵庫の中から出てきたのは、りんごジュース。

 もうすぐで無くなりそうだからとコップに注ぎきろうとしたら案外量が多くて溢れそうになった。

 それをこぼさないようにコップを持たずに口をつけて飲む。

 ママからは行儀が悪いと言われたが、気にしない。


 そうして、適当な量になったらコップを持って自分の部屋に入る。


 ドサッ。


 荷物を投げ込むようにベッドに腰を下ろす美沙。

 りんごジュースの入った黄色のコップは机の上に置いてあり、適当に置いたせいか、少し不安定だった。

 美沙はため息をつきながら、携帯を起動する。

 美沙は女子にしては珍しく、不特定多数とつながるようなSNSをやっていない。

 そのため、使うSNSは基本的にリアルの友達とのやりとりに使われるものだ。

 上部に『さざな』と書かれている画面で、


みさ:帰ったー( ´△`)

さざな:お、今帰ったかー


 連絡して数秒経たずに返ってくる返事。


みさ:お、早いね返信

さざな:いやいや、あんな話があった後にだんまりなんてそりゃないでしょ笑


 流石さーちゃん。

 美沙はそんなことを心の中で呟きながら文字を打っていると、


みさ:ま、そりゃさーちゃん

みさ:あ、ごめん誤字

みさ:そうだよね

さざな:どうやったらそこからさーちゃんが生まれるのよ笑


 漣の笑い顔が脳裏に浮かんでいる美沙は、失敗してしまったと苦笑いを浮かべるが、そんな感情はメッセージに表すわけはなく、


みさ:それで、今日の秀の話だけど

さざな:……うーん。

さざな:私も若葉も長年一緒にいるけど、あんな話は聞いたことない。


 聞きたいことを先回りして答えてくるあたりエスパーかと思う反面、望む答えが聞けなくて少しがっかりする。

 だが、漣が悪いことではないのは事実である。

 そこをなんで知らないのかと聞くのは失礼もいいところであり、


みさ:秀、ほんとどうしたんだろ

さざな:確かに。

さざな:正直、あのゲームやっててそんな悲しそうな顔するようになった記憶はないし、帰り道若葉にも少し聞いてみたけど、何もわからないって

みさ:ありがとー、聞いてくれてー(´ω`)


 適当な絵文字を使い、シリアスな雰囲気を消すように努める。

 漣は基本的に絵文字とかを使わない系なので、気にしていないと本人が言っていたが、美沙が気にしてしまうタイプなので思わず使ってしまう。


さざな:とりあえず今から中学時代に仲よかった人にその秀と【豊富】って人について聞いてみるよ。

みさ:えっ、そこまでするの?!

さざな:そこまでも何も、なんだか今の秀をみると放って置けなくて

みさ:さーちゃん……


 なぜ漣がそこまでになって秀のために行動するのかは、本人曰く『腐れ縁だからよ』と言うことらしいのだが、美沙は少し勘ぐってしまう。

 さーちゃん、秀のこと……

 だが、今までもそんな妄想をしてきて、漣から何かあったことは一度もない。

 今回もそうだよな、と自身の胸の内にある杞憂を消す。


 だが、そんな杞憂が消えると同時に、新たな感情が湧き出てくる。


みさ:ちなみに、そういえば秀が中学の頃に仲の良かったって人、どのくらいいるの?

さざな:あら、そういえば美沙に中学時代の頃の話はそんなしてなかったっけ?

みさ:んー、あんまり話さなかったなぁ

さざな:ま、確かにあんたらの空気だったらしてなさそう笑

みさ:どういう空気よ笑


 漣からの言葉に、美沙は少し胸にしこりがある感じがした。

 決して物理的にしこりがあると言うわけではなく、あくまでそういう感じがする、というだけだ。

 秀の知らないことを知ろうとすればするほど、秀の知らないところがどんどんでてくる。

 そんな現状に、自分が少し情けなく感じてくる。


みさ:私、聞ける人とかいないなぁ


 それに、自分には漣のように長い付き合いもなく、若葉のように秀のコミュニティと同じところにいるわけでもない。

 自分にできることは何もない。

 誰に言われたわけでもないのに、聞こえてくる。

 そんな感情が漏れ出していると、


さざな:じゃ、ゲームすれば?

みさ:へ?


 思わず現実と連動して発信してしまう美沙。


さざな:いやさ、私たちは結局のところ友達な訳で、みさちは彼女な訳でしょ?

 なら彼女の権限とか使いまくって、ぽろっと秀がこぼしてくれないかやってみればいいじゃん

みさ:ぽろっとこぼすかな……?

さざな:色仕掛けとかすれば簡単に言ってくれるんじゃない?


 漣の言葉に、自身がはだけた服装で秀に迫っている姿を想像する美沙。

 そんな様子に自分で恥ずかしくなる。


みさ:そ、そんな服はだけるなんて?!

さざな:話飛びすぎだけど笑

さざな:でももし美沙が秀に色仕掛けするなら服をはだけさせるんだということは分かった


 自身の失態に気づき、ベッドに寝転ぶ美沙。

 足をバタバタと動かし、一通り悶えた後に、


みさ:よし、それじゃあちょっくらゲームして情報集めたいと思います!

さざな:お、やる気になったなみさ

みさ:私やるときはやるんですよ

さざな:ヤるとき?


 もし中年のおじさんあたりだったら確実にセクハラ案件だが、相手は現役のJK。

 美沙は言い返せずに、そのままスタンプを送って携帯を閉じる。

 少しのやりとり。

 だが、秀のこととなるといろいろ考えてしまう。

 美沙は少し疲れたなと思い、ベッドに寝転がりながら、今度のデートのことを考え始める。


 何を着て行こうかな。

 あ、リップ切れてたんだった、買いに行かないと。

 それならもういっそ秀と行く?

 いや、だから今切らしているから秀に会いに行く前に買うんだって。

 今何時……あ、もうちょっとでご飯だ。


 移ろいゆく思考。

 とめどない思考の流れは、自身が本来やらなければいけない事を思い出し、


「今日は一人でログインしてみようかな」


 独り言を呟いた。



☆☆☆☆☆



「おー、今宵はいい月ですな」


 長屋から出る白髪の女性、ミヤ。

 その赤い袴は白く輝いているようにも見える髪も合わさり、夜道に映える。


 サライの時間は二日ごとに切り替わる。

 昨日と一昨日が昼であったため、今日と明日は一日中夜である。

 現実と連動していないため、昼と夜の片方しかログインできない人のための配慮である。


「とりあえず来たけど……」


 漣の言葉に自分のできることをしようとサライにログインしたミヤだったが、何をすればいいのかわからなかった。

 そもそも自分はログインしてから三日目。

 調べようにも基本的な情報はネットで集まってしまう。

 その中で自分にしかできないこととはなんだろうと考える。


「どうかしましたか?」

「うーむ」


 腕を組んで悩んでいると、声をかけられた。

 ミヤが話しかけられた方向を見ると、そこにいたのは自身の身長を優に超える背丈の人。

 ちょうど背後に月を据えていることもあり、その人の顔が少し見えづらい。


 そこでちょうどよく、月を覆っていた雲が晴れる。

 光量が減り、しっかりと見えたその顔は、


「綺麗」


 思わず口からこぼれてしまった言葉に、少し恥ずかしくなった。


 ミヤに話しかけてきたのは長身の人物。

 中性的な顔に、少し長めの髪。

 その髪色は少し茶色がかっていて、薄紅色の和服をしっかり着ている。

 下手に着崩すより好印象に見えるその姿。


 だが、体のラインが非常に女性的であった。


 思わず自分の体のラインと見比べる。

 和服というのは、胸はない方が着やすく、また基本的には胸は小さめに見えてしまうことが多い。

 ミヤはそれなりに体のラインに自信があったが、目の前に人物の爆弾には叶わない。

 そんな和服にも関わらず主張の激しい胸に、ミヤが嫉妬を覚えていると、


「と、どうかしましたか?」


 目の前の人物は困ったように再度聞き直してくる。

 ミヤはすぐに表情を作り、


「それでどうかしましたか、っていうのは……?」

「いえ、長屋の前で腕を組んで困っていらしたので、声をかけただけです」


 どういうこと? と純粋に疑問に思いながらも、ミヤはその様子に警戒しつつ、


「あの、ごめんなさい、このゲーム始めたばかりでよく分からなくて……」

「あ、初心者の方ですか」


 そうしてミヤの目の前の人物はにこりと微笑んで、自己紹介をする。


「私、トイナといいます。

 このゲームではよく、【剣聖】なんて呼ばれています」


 作り笑顔が凍りつくのを感じた。



☆☆☆☆☆



さざな:そういえば


さざな:中学の頃、私たちで秀のやっているゲームやろう、って話になったんだけど、


さざな:その時秀のやつすごい必死で話逸らそうとしててさ


さざな:あの時はちょうど、他のゲームも発売しててそっちの方をみんなでやることになってたんだよ


さざな:だからみさちはそのゲームを秀と一緒にできてるって時点で、すごいと思うよ



一人の女の子の、ため息が空気に溶けていく。

携帯に関して

今と大差ないです。

しかし文字入力に関しては、思考入力というものが導入されていますが、かなりコツがいるし、指で入力した方がいいといった理由により、あんまり栄えていない。

ですが、地味なところの進化はしていたりします。

完全ワイヤレス遠距離充電、現実と連動したAR機能(カメラを通して見ることにより、より鮮明に現実を補助してくれる)等、今の時代にはないものが多くあります。

一部の機能はVRの機器からの転用物などがあるので、この時代の携帯はVRゲームなしでは生まれえなかったとも言えるでしょう。

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