十六
「え、結局それでどうなったの?」
「VRルームに軟禁されて、どう考えてもおっぱいに手を伸ばしただろうと言われ、一定期間の垢凍結、さらにはVRルームを経由した謝罪文の送信……」
「でも、凍結三日目にして、その亜朝さんっていう人がVRルーム統括って所に連絡して、事故なことを説明して大ごとにはならなかったって話」
事の顛末を話した若葉の様子に、冗談を言われなかったことにホッと胸をなでおろす秀。
基本的にはドMのはずのこの若葉という男は、以外に茶目っ気というかSっ気があるから安心して任せることができない。
しかし、と秀は考える。
ここまで若葉が事の顛末を話したが……
「僕はその時にゲームをやってなかったんだよね」
「え、まるであんたその現場にいましたみたいな話し方だったけど」
「いやね、その【剣聖の乱】の後にあったソフトの追加販売で僕は始めたからね。
それに、その時サライはすごかったよ。
そもそも秀の事を話題に出す人がいなくて。
僕は秀のゲーム友達の人から聞いたから知ってたけど、本当に何もなかったんじゃないかってくらいに話されないの」
「そりゃまたどうして。
普通こういうことが起こったら第一に騒ぐのがゲームじゃないの?」
「【剣聖杯】自体が一大イベントで、その頃やっていた人は見ていない人の方が少なかったんだって。
それに、その時の秀の戦いは、色んなプレイヤーからの注目の的だった。
それで、ランカーの人たちが積極的に何もしなかったから、普通のプレイヤーもわざわざ囃し立てるようなことはしなかったし、デマ情も出回らなかったんだって。
なんかむしろ、その時は秀の戦い方に対する考察の方が流行っちゃって、早く戻ってこい、なんて言われる始末だったんだって」
そこで漣は我に帰る。
なんだかんだ色々話していたが、省略すると、秀がおっぱいを触ってゲームできなくなりそうになった、という話だ。
これがそこらの男だったらえ、引くわーと言う感じだったろう。
だが、これをやったのは秀だ。
秀と漣の付き合いは美沙と秀のものより長い。
今までの秀を見てきた経験から、秀が決して自分からおっぱいを触るような人間でないことは分かる。
それに、漣の隣ではオーバーフローしている美沙がいる。
美沙は基本的にこんな焦るというかいっぱいいっぱいになること自体が少ない。
そんな友人の姿は珍しいのも合わさって、おもわず笑ってしまう。
「漣…………?。
なんで笑ってるの……?」
美沙が壊れた機械のように漣の方を向く。
だが、漣の笑いは止まらない。
むしろ美沙の様子にさらに笑いがこみ上げてくるくらいだ。
さらに笑いを加速させた漣の両肩を持って揺らす美沙。
がたがたと揺らされる漣に、若葉もつられて笑い出す。
「なんで若葉も笑うのよぉ……」
「だって、漣の笑うのでもう秀が面白くて……。
てか秀も大概肩身狭そうにするのがもうっ……」
美沙の泣きそうな声に若葉は秀を指差す。
そこにはなんだか申し訳なさそうに肩身を狭くしている秀がいる。
美沙は秀のそんな様子にため息をつき、二人が笑い追えるのを待った。
☆☆☆☆☆
しばらく笑った若葉と漣の二人。
だがそれで秀の縮こまっている様子が改善されるわけはない。
落ち着いた漣は、ふとした疑問をぶつける。
「そう言えば、秀はなんでそんなに気にしているの?
その……ぷっ、あ、ごめん。
胸を触っちゃったことをさ」
「あ、そうそう。
それに関しては僕も気になった。
あの件に関して、秀やけに気にするじゃん。
別に事故だったからいいんじゃないの?」
その話を振られた秀は、ビクッと肩を震わせる。
美沙はその様子に、何かあることを察した。
「秀、話してくれるかな?」
「あっはい」
確かに秀は隠さないで話すとは言ったが、それは聞かれた場合のみと考えていた。
だから聞かれなかったら話さなくてもいいよね、なんて最初は秀は考えていた。
だが付き合ってお互いの事をかなり知っているせいで、変に鋭くなっているのが仇となったなと、他の人が聞いたら惚気だろうと言われるような事を秀は心の中で呟いた。
「えっと、実はその話続きがありまして。
後日、亜朝さんは聖剣をゲットした訳で。
でも本人的には納得の言っていない結末らしく、勝負を挑まれたんですよ」
「え、そんなこと聞いた事なかったよ?」
「ま、完全に非公開の個人戦だったから、知られていないんですよ。
でもまぁ、その個人での試合で亜朝さんが、なんか前のことを思い出して緊張しちゃって……」
「なんかあったの?」
若葉も知らない話なのか、聞く側に回る。
「なんか最初から終始亜朝さんはドジばっかりで、何もないところで転んだり、話すにしてもカミカミだったり……」
「ま、あの人ドジっ娘でもあるよね。
現に何回かイベントそれで落としていたし」
「そうすると、なんか亜朝さんがこちらを意識しているのが分かって……。
そうやって気になられるとこちらも、その色々と思うところがありまして……。
結局何やかんやあって、その個人戦は亜朝さんが勝ったんですけど、それでも亜朝さんは納得がいっていない様子で……」
「え、なんかその展開ってラブコメみたいだけど……」
「えぇえぇぇ?!」
完全にその子のことが気になるんだルートな感じの話に漣は少し面白そうにする。
一方の美沙は、漣の言葉に驚き、大声をあげて驚く。
そのせいで店内にいる客に一斉に睨まれることになり、美沙は全方向に謝り倒し、秀の方を向き直した。
「いや、その件に関してはそこまでで、お互いに気にしないようにしましょう、ってなって、終わったんだよ。
だけど、その後が面倒で……」
「その後?」
若葉が思い当たる節がないか顎に手を当てて考える。
しかし、若葉は思いつかなかったのか、秀に話すように促す。
「えっと、今『聖剣』を持っているのは実は亜朝さんじゃなくて……」
「あ」
若葉は明らかに思い当たる節があるような顔をする。
「四代目【剣聖】トイナ。
これまた女性なんだけど、その人どうも亜朝さんとリアルで交友があったらしく、ぽろっと亜朝さんがトイナさんに漏らしちゃったらしいんだよね」
「補足すると、今の【剣聖】トイナは、騎士道精神を体現した人間だと言われていて、めちゃくちゃ厳格」
「で、その人が【剣聖の乱】を知ってもう怒り心頭激おこ、って感じになってしまって。
事あるごとに俺のことを目の仇にしてくるんだよね」
若葉は同情するような顔をする。
その様子にイマイチ理解が追いついていない女子組は話の続きを聞く。
「それで、トイナさんの戦い方はとても俺と相性が悪いし、あっちはすごく俺のことを意識して、俺を絶対斬る、って言っていて」
「秀はゲームで強いから、秀に関する情報は基本的にトイナさんに向かう」
「で、俺がもしサライ内で個人的にあってお互いに話し合って、みたいな話をするとどうなる?」
「確かにトイナさんのヒデヨシ絶対倒すオーラ尋常じゃないもんなぁ」
「それで、秀が結局話さなかった理由ってのは、そのトイナさんから目をつけられないようにするため?」
漣はゲームのことを知らないため、自分の理解した内容であっているのか聞く。
その内容に秀は、
「半分はそれ理由。
もう一つの理由としては、今のサライにいる人たちが決してあの【剣聖の乱】に関して情報を広めないと言う確証はないから。
俺だけに被害が来るんだったらまだしも、亜朝さんもまた蒸し返されても嫌だろうな、って思って」
「ま、どんな理由にしろ言えば騒いになるから言いたくないだけね」
漣のなんてことないじゃないの、と言わんばかりのため息に秀はホッとした。
美沙も、思っていたよりヒデヨシの話す内容の軽さにホッとした。
向かい合った秀と美沙は、お互いに何かがおかしいのか笑い合う。
その様子に、漣は元の二人かな、と胸をなでおろした。
二人でゲームをすると言う話は聞いていたが、秀がやっているゲームは正直変なゲームであると思っていた。
それを美沙がやって大丈夫だろうか、と最初は心配していた。
するとその予想は的中し、やって数日でいろいろなことが起こった。
美沙にゲームをやるのを止めるべきか。
数日そう考えていた漣が、テーブルの上にある氷が少し溶けたドリンクを手に取った瞬間、
「あ、そういえば、【豊富】さんは?」
美沙のふとした質問。
ヒデヨシと中学生の頃に出会った漣。
その当時は美沙はいなく、若葉、秀、朝霞のメンツで遊んでいた。
中学二年生の頃、秀がゲームを始めたと言っていた。
その頃はなんともなかったし、漣達もふーん、と言うリアクションで済ませていた。
だが、ここで漣は後悔する。
あの時、自分が秀と一緒に同じ景色を見ようとしていれば、こんな顔は見なかっただろうに。
秀の表情は、笑顔だった。
けど、分かる。
それは笑顔なんじゃない。
それは、『泣いている笑顔』だ。
「ごめん、その【豊富】に関してが、今は言えないこと。
もう少し、もう少し待ってほしい」
「後三ヶ月後に来る、【三周年イベント】
それが終わったら、全部を話すよ」
マスクハンバーガーについて
ジャンクフードショップとして、全国チェーン店を大量に展開している企業。
特徴としては、店員全員の素顔が隠されていることである。
全員が覆面マスクという完全に怪しい店なのだが、現代の人との関わりに疲れた人には、素顔が見えないと言うのは好評らしい(ちなみにマスクハンバーガーのマスクは完全自社製品であり、製法を知るものは二人の社長しかいないと言う噂である)
名物はマスクアンドマスクという、普通のハンバーガーに特性塩ベースのタレに漬け込んだバンズのハンバーガー。
ちなみに一時期秀が短期でバイトをしていた。
本人曰く「マスクをかぶるとまるで生まれ変わったみたいに仕事ができた」っと言っている。




