十五
『さぁさぁ土日に渡る長きトーナメントも最終局面を迎えています!』
空中に投影されている映像には、町娘風の女性が写っている。
サービス開始から突っ込まれていた時代背景に沿わないマイクも、一年半も経てば誰も違和感はないようになっていた。
『今回の【剣聖杯】!
三代目【剣聖】は誰がなるのかぁ?!』
盛り上がっている町娘の女性の横にもう一人の女性が現れる。
その女性はニコニコとした表情が特徴的な女性。
白に金色の刺繍が施された和服という、これまた時代背景にそぐわない服装のその女性は、町娘の女性に、
『こらこらアインさん、しっかりと最終局面ですもの、説明しないと』
『おっとそれは確かにそうですね【剣聖】さん』
町娘の女性……アインと呼ばれた女性は、ニコニコとした女性……【剣聖】と呼ばれた女性の言葉に、コホンと咳払いをし、
「今回の【剣聖杯】
およそ一年前に突如失踪した初代【剣聖】ドラゴンさん。
本来ならば一子相伝系の武器であるはずの『聖剣』は、ドラゴンさんとともにその姿を眩ましました。
しかし、半年前の一周年イベントによって私たち運営チームは『聖剣』を再び一子相伝の武器にしようと【剣聖杯】を開きました。
そこで優勝し、聖剣を手に入れたのがここにいる二代目【剣聖】、小筆さん。
その小筆さんは、個人的事情によりこのゲームを一時的に離れることにするため、運営との相談によって、この【剣聖杯】がまたも開かれました」
ドラゴンさん、という人の話に会場にいる人間たちは一様に苦笑いを浮かべた。
会場というのは、これまたこのゲームの根本である古き日本の姿を無視した、ローマのコロシアムのような場所。
中心に誰もいない空間。
その周りを取り囲むようにいる人人人。
「そして、多数の挑戦者の中から選ばれた最後の二人。
一人は、言わずと知れたランカー。
【羽柴】の名を持ち、前代未聞のプレイスタイルを魅せる男、ヒデヨシ!!!」
そこに、アインの合図とともに、コロシアム東側から、人が歩み出てくる。
湧く会場。
当の本人は耳を指で塞ぎ、うるさいと周りをを睨みつけた。
しかしそんなことにこの大量の人間が気づくわけはなく、興奮冷めやらぬ。
『そしてぇ!
相対するもう一人は、こちらはまだランカーではないが、現在ランカー最有力候補と謳われている、亜朝ちゃんだぁ!!!』
今までも十分湧いていたと思われた会場が、さらに湧いた。
まるで神の登場のように、観客席では声をあげるものもいた。
そうしてコロシアムの西側から出てきたのは、女性。
服装はヒデヨシとは違い、少し近代的な、現実世界できていてもおかしくないような、和服テイストな服。
ゆったりとした上下はその女性……いや、女子の幼さを強調するような服装であった。
しかし女性的な象徴はしっかりとあるため、その服装には一種の惹きつけられるような魅力があった。
そして肝心のその容姿は、可愛い。
まさに万人に可愛いと言われる顔というものを体現しているような容姿
ツインテールに結った髪の毛をゆらゆらと揺らし、その一挙手一投足は、見るものを魅了し、ロリコンの世界に墜としていく。
止まない歓声に必死に手を振る亜朝。
なんだか気恥ずかしそうな様子に、見るものの幸福度数はさらに上がっていく。
『ふふふ、亜朝ちゃんガンバッテー』
『ここで二代目【剣聖】から直々のエール?!
これは最早会場は亜朝一色か?!』
ついには実況席の人間でさえも応援してしまう始末。
ヒデヨシは眠そうな顔で相対する亜朝を見る。
その小さい足取りで中心に着くのは少し長く、その間に幾人もの亜朝ファンは倒れていく。
ようやく話せる距離に着いた亜朝は、ヒデヨシを見上げ、
「ようやく戦えますね、ヒデヨシくん」
「おうともよ」
ヒデヨシは左右の腰に刺した脇差を確認する。
「あなたが一体なんでこの戦いに出ているかは知りませんけど、【聖剣】は私のものです」
「そうか」
「今までの試合、見ました。
その腰に下げている、あなたが今まで使ってこなかった刀。
そのおかげというのが実に皮肉ですが、その刀の性能を見たいという他のランカーの不参加のお陰で、今私はここに立つことができています」
「そっか」
「……もういいです。
あなたがどんなに強かろうが、私は勝ちます」
会話を求める亜朝に、それを拒むように短く返事をしていくヒデヨシ。。
会場は一気にヒデヨシ倒されろと言われるようになった。
亜朝が刀を抜く。
『さぁ、お互いに話したいことは話したようなので早速最終戦、始めます。
ここで斬れば晴れて三代目【剣聖】に』
『両方がんばってー』
『く、空気読みません? 小筆さん?』
『えー、だって二人とも頑張って欲しいから……』
『……えっと、それでは最終戦始めたいと思います』
空中投影される映像が消え、
『真剣勝負!』
いつもの野太い男の声が聞こえる。
亜朝は刀……自身の背丈を優に超える大太刀を出現させ、正眼に構える。
一方のヒデヨシは、両手をクロスさせて、左右の刀の柄尻に触れているだけ。
一見すれば、大人と子供の喧嘩のようにも見える。
しかし、ここにいる人間は決して亜朝が負けるなんて思っていない。
それはなぜか。
『始め!!!』
それは亜朝がこれまでの全試合を無傷で終わらせたからだ。
☆☆☆☆☆
最初の一手は、亜朝。
「来い! 『聖鎧』!」
亜朝の刀『聖鎧』は、大太刀であり、武器召喚系の刀である。
その能力は単純。
鎧を出現させ、身に纏う。
部位は、腕、胸、足
本来なら普通の人が身につけても、要所を守るためのちょっとした防具にしかならない。
だが、亜朝は違う。
その小さい体躯のせいで少し大きく感じる防具は、要所を守ることで大きく効果を発揮する。
相手はその小さい体躯と、鎧によって攻撃が可能な場所が限られてくる。
そして、亜朝は、その自分が攻撃されるかもしれない部分を、全て把握している。
つまり、本来なら亜朝の成功法として存在する、使われる前に倒すという選択が、今潰された。
と、この会場にいる人間は思った。
だがしかし、知らない。
まだヒデヨシの刀の力を、まだ知る者はいなかった。
「太閤検地、廃刀令」
微かに宣言した言葉。
おそらくこの会場のものは聞き取れていなかった。
亜朝に対する一番有効な手をなくしてしまい、ヒデヨシの敗北が濃厚になったこの瞬間に、ヒデヨシの発言を聞いているものはいなかっただろう。
そうして訪れる、結果。
「えっ」
亜朝の手元から消えゆく『聖鎧』。
それと同時にヒデヨシの腰から消えていく、『太閤検地』。
観客は全員息を呑んだ。
一部のものは、驚いた。
そしてみんなが産んだこの隙を、ヒデヨシが見逃すわけがなかった。
一瞬にして詰められるヒデヨシと亜朝の距離。
ヒデヨシは手に何も持っていない。
だがこれがヒデヨシの戦い方。
刀を持っていない状態で取り押さえ、その状況でとどめを刺す。
いつものやり方。
しかも隙を突いて。
決まる。
そこに、かすかな慢心があったのかもしれない。
言葉を発する間も無く、亜朝は気づいた。
でも、手遅れだ。
間に合わない。
それでも、諦められない。
そこで動いたのは、まさに努力の賜物。
それこそ、『聖鎧』があったのなら、防げたもの。
そう、『聖鎧』は腕、胸、足に鎧を装備する。
だから、
むにっ
ヒデヨシが襟を取ろうとして、間違えて亜朝の”おっぱい“を触っても、事故であるはずなのだ。
『VR席シャルハラスメント項目違反を検知。
プレイヤーネーム、ヒデヨシの身柄をVRルームに一時軟禁いたします』
会場は、静かだった。
セクシャルハラスメントとは性的嫌がらせのことであり、「性的言動」によって不利益を受けたり、労働環境などが害されるハラスメントである(Wikipediaより『セクシャルハラスメント』引用)
VRセクシャルハラスメント項目
近年増えているVRを使ったコミュニケーションの中には、両者の付いを得ずして、当人の不利益な行動を取る人間がいるため、VR法によってプレイヤーの被害削減のため、以下項目に違反した場合は一時的にVRルームに一時軟禁、事情聴取の後、正式な裁定を行います。
・VR端末に備え付けられている『不快度指数』が一定以上(審査により個別に制定されている)の増幅を満たした時に、他者からの接触が確認され、なおかつ各ソフトごとに定められている『ハラスメント条項』に違反がある場合
(一部抜粋)




