十四
ヒデヨシが自身の戦いをミヤに見せたところで、いい時間だからと三人は解散した。
ミヤは自身に起こった現象の理由を教えてくれないヒデヨシに、少し不機嫌になったが、ダテがいる手前問い詰めることはできない。
それにミヤは初めて見たから、分からないのだ。
あんな複雑な顔をしているヒデヨシに、なんて声をかけたらいいのか。
「おはよ」
「あら、今日は早いじゃん」
「ん、昨日は早く寝たからね」
朝、教室にて。
いつもより早めに起きた美沙は、早めに家を出て登校していた。
昨日のあれから、ミヤも自分なりに調べては見たのだが、分かったことは数点。
・ヒデヨシの刀は二つ合わせて相手の刀を消し去る。
・使用条件に『自身の刀を消すこと』とあること。
・【豊富】と言う人物がいた?
最後の情報は偶々見つけたもので確証がない。
というか、ヒデヨシの戦い方は見ていても得られるものは少ない。
なんせ気づいた時には手元の刀が消えているのだ。
確かに、ヒデヨシの『太閤検地』を本人が持っていなかったため、二番目の条件は正しいだろう。
だがそれでも、圧倒的に情報が足りない。
「むー」
「何朝から秀の席に座ってむくれてんのよ」
「だってー、秀がー」
「ん? あいつがなんかしたの?」
美沙は漣に内容をぼかして話す。
「とりあえず、秀が美沙に隠し事しているんだ」
「イエス」
「ふーん、秀が美沙にねぇ」
漣は少し考える。
その最中も美沙は早く秀が来て話を聞けないかとそわそわしている。
「しかしまぁ、秀遅いわね」
「なんでだろ……。
まさか、私が早く来ることを察して?」
「それが分かってて本当来てないんだとしたらモノホンのエスパーよそれ……」
美沙の名推理でしょうという雰囲気で話されていく予想に漣は苦笑いを浮かべた。
でも、と漣は不思議に思う。
確かに、美沙の言う通りならば、秀は美沙に隠し事をしていることになる。
だが、漣は意外にも美沙より秀との付き合いが長い。
そのため、美沙と付き合うに当たってかなりの相談を受けた。
「ま、秀のやつもバカじゃないし、美沙はもうちょっと見守ってあげたら?」
「むー、確かにそう思うんだけどさ……。
でもあんな表情見ちゃうとね……」
「あんな表情?」
そこで教室の戸がガラリと鳴る。
ミヤの首は高速で動き、戸の方を見ると、
「うぉ、どうしたんだい宮本さん」
若葉であった。
美沙はこれ見よがしにため息をつき、秀の机で頬杖をつく。
ダテあたりなら普通に傷つく場面だが、若葉は違う。
「うん、その言葉を使わない攻撃、ナイス!」
「安定すぎて逆にこいつどうしたもんかと考える私がいるわ」
「とりあえず罵っとこ!」
「なんでマック行こう的なノリで罵らなきゃいけないのよ?!」
若葉のいつもの様子に美沙はため息をつく。
結局、秀がいないと何も分からないんだな、と美沙が自分の席に戻ろうとしたその瞬間、
「あ、そういえば昨日のサライどうだった?」
「いるやん、秘密話しそうな人」
思わず話し方が変になるが、それでも美沙の頭の中には秀のことを知りたい、その気持ちでいっぱいだった。
「秘密?」
「うん、ヒデヨシが私に隠していることがあって、それを知りたいの」
「秀が宮本さんに秘密?
それはないんじゃないかなー?」
若葉もまた、漣と同じくらい秀と一緒にいた人間だ。
それなりに仲がいいと思っているし、秀もそう思ってくれている。
だからこそ分かる秀が美沙に隠し事なんてしないということ。
「だけど、【豊富】って人のことや、『剣聖の乱』について教えてくれなかったよ?!」
「【豊富】?
確かにサライではそんな名前の人はいないね。
調べても出てこなかったの?」
美沙は首を縦に振る。
若葉はそんな美沙の真剣な表情から、本気さを垣間見たのだが、
「ごめん、【豊富】っていう人に関しては僕は知らないな。
そもそも、僕がサライに関してでの秀との付き合いはそんなにないから、そんな“ヒデヨシ”に関する質問に答えることはできないけど……」
若葉は口元に手を当て、静かに笑いを堪えながら、
「『剣聖の乱』に関しては、知ってるけど……」
ブフォ、っと笑い出す若葉に、美沙も漣も不思議そうな顔をする。
一通り笑い終えた若葉は、美沙の顔を見ながら、
「確かに、隠したくなる気持ちはあるだろうね。
でも、秀は決してやましい気持ちがあって隠しているわけじゃないんだ。
それだけは分かってあげて欲しい」
「は、はぁ」
美沙は何がそんなに面白いのかよく分からないため、曖昧な返事をしてしまう。
漣に関しては、全くわけがわからないため、静観を決め込んでいる。
「それで、教えてくれる?」
「いや、これに関しては……僕の口から話したほうがいいな。
今日は秀も交えて帰りに罵りにでも寄ろう。
そこで全部話すかな」
「待ってそれさっきのマックの話引きずってる」
漣のツッコミに若葉はあらまとリアクションする。
ミヤは、自分の知らない秀がいる気がして、少し胸に風が吹いた気がした。
☆☆☆☆☆
秀が学校に着いたのは、朝のホームルームのチャイムが鳴ってからのことだった。
珍しいな遅刻なんて、という担任からの声にごめんなさいと返す秀。
ミヤはなんだか逃げているようにも取れる秀の行動に少し不機嫌になった。
それなのに、今日の秀はいつも通りだった。
美沙にホームルームが終わると声を掛けてきて、世間話をして、クラスメイトの冷やかしを適当にあしらって。
美沙は昨日のゲームは本当に現実のことなのか? と思い始める。
確かに、昨日のことがなければ美沙は秀が隠し事をしていることなんて知る由もなかった。
もう無かったことになればいいのに、とさえ思ってしまいそうになる。
そうして、放課後。
昼休みだって普通で、体育だって普通で、秀が苦手な国語の授業の時は普通に寝ていた。
これ以上ない、いつもの日々。
「さ、マック行こか」
「そうだね。
おーい、秀ー」
放課後になって漣と若葉がマックに行こうと誘ってくる。
美沙は、迷っていた。
なんだか、秀の知らないところは、知られたくないところだから、隠しているわけで。
元を辿れば赤の他人である自分に聞く権利はあるのだろうか。
美沙は悩んで、悩んで、
「いいよ」
「え?」
「秀が話さないってことは本当に大事なことがあると思うんだ。
だから、本人が話してくれるまで、待ってようかなって」
確かに美沙のその選択は、間違いではない。
だが、若葉と漣はだからこそ思う。
だからこそ、美沙は秀に踏み込まなきゃいけないのに。
そんなお互いがお互いの顔色を伺うことが、付き合うってことなのだろうか。
漣と若葉がアイコンタクトをして、連れて行こうとしたその時。
「あ、待って」
二人の声ではない。
ならば、今ここで美沙に話しかける人物は、
「昨日のことで、話したいことがあるんだ」
美沙がゆっくりと秀の方を向く。
秀は少し困った顔をして、
「昨日は結構悩んで、どうしよかと思ったけど、話すよ。
だけど、ごめん。
話せないこともある。
だけど、それに関しても、時が来たら絶対に話す。
だから、話を聞いてくれない?」
オドオドとした様子で話す秀に、美沙はクスッと笑い、
「分かった。
その代わり、約束ね」
「うん、約束」
二人はお互いの手の甲を軽くぶつける。
秀が決めた、二人の約束の証であった。
☆☆☆☆☆
マスクハンバーガー。
学生御用達の全国チェーン店で、今日は平日だというのに、席はほぼ満席という混みようだ。
四人はなんとかして席をゲットし、座る。
それぞれがドリンクを買い、男子組がポテトを買う。
そんないつものことが、少し久しぶりだなと感じた美沙は、微笑む。
四人席、二人ずつが対面するtクリになっている席に、男二人が並び、対面に女二人が並ぶ。
「それで、ハキハキ吐きなさいよ」
「え、なんか俺悪いことしたみたいになってるけど?」
「秀、カツ丼がわりのポテトでもお食べ」
「え、なんで取り締まり風になっているの?」
ちゃっかり若葉から差し出されたポテトを受け取りつつ、口に放る秀。
そんな様子に美沙はふふっ、と笑った。
「あ、笑った」
「ん?」
「いや、今日美沙全然笑わないなぁ、って思っていたから」
「惚気はエヌジー」
「ひどい?!」
漣からの理不尽な発言に態とらしく悲しそうな声をあげる秀。
「ま、とりあえず今回集まったのは他でもない、秀ことヒデヨシ君の隠し事暴露タイムです!」
「ん、ちょい待ち、なんで若葉が話す流れになっているんだい?」
せっかく秀が頑張って美沙を説得したのに、話し始めるのは若葉という状況に秀は疑問を覚えるが、他のメンツが若葉の話を聞き入っている様子を見て、秀は口を出してはいけないやつだということを悟った。
それと同時になんで自分のことを他人に暴露されているのか分からない秀でもあった。
「時は遡ること一年半前。
サービスが開始してから一周年のイベントの後だったね」
なんか長くなりそうだな、と秀は考えた。
確かにあの時はいろいろな要素が混じりあって複雑だから長くなるのも当然か、と思ったが、
「とあるサライのイベントで、秀ことヒデヨシは、そのイベントでVRセクシャルハラスメント項目に違反して、アカウントが一時期凍結されていたんだよ!」
「VR……」
「セクハラ?」
「つまりヒデヨシは女の人にエッチなことをしちゃったってこと」
「待て待て待て待てぃ!!!」
流石の秀も止めに入った。
「なんでよここから細かい話をしていくのに」
「いや、あってるんだけどそこだけくり抜かないでくれるかなぁ?!」
「え、でもここから話したほうがいいでしょ?」
「は?」
「だって信頼を地に落として落としておけば後は上がるしかないからね!」
若葉の謎理論に秀は頭を抑える。
確かに間違っていないため、修正は難しく、もしかしたら若葉に任せておいたほうが簡単に話がつくのかもしれない。
が、
「あ、美沙が固まっちゃった」
頭から煙を上げている(様に見える)美沙に、秀は頭を抱えた。
漣について
本名:鳥本 漣
性別:O型
髪型:ボブポニーテールって調べると出てきます。
部活:無所属
成績:中の上(数学を除く)
秀とは中学校時代からの友達。
中学校時代は秀、若葉、朝霞、漣の四人組でよく遊んでいた。
部活には所属してはいないが、いくつかの習い事をしている。
ピアノ、書道、バイオリンと文科系の習い事が多く、よくいる『あの人よく課外活動で表彰されてるなぁ』という感じの人。
しかし自他共に認める絵心なし。
若葉によく絵心に関して嫉妬していて、それを秀と朝霞に笑われている構図が多い。
高校に上がってからは鳴りを潜めているが、実のところ美沙も同じだったりしているためその話題にならないだけである。




