十三
「だんっ?!」
凡そ日常で使われることのない言葉を発しながらダテはミヤを蹴りつけた。
ミヤは後方にかかる力に逆らえず、よろめく。
ダテはその反作用によってミヤから離れることに成功する。
ダテはバックステップを交えてミヤから目を離さずに、思考を整理する。
どうしたらミヤを攻略できるのか、見つからずに接近できるのか。
どうしたら、ミヤを斬れるのか。
そう考えた瞬間、ダテの景色は高速で移動していき、
「はぁん?!」
またも日常生活で使うことのない言葉を発した。
ダテはミヤの姿を速攻で探し、自分から結構な距離離れていることを確認する。
ならばとダテが自分が元いた場所を見ようとすると、目の前にいつの間にかヒデヨシがいるのに気付いた。
ヒデヨシはミヤに聞こえないくらいの小声で、
(お前本気になるんじゃないよぉ?!)
(いやいやいやあれは普通にここにいる人くらいの性能だよ?!)
(そこを程よくやるの!)
(お前無茶苦茶じゃない!?)
小声で交わされていく会話。
ヒデヨシはダテの空気の変わった感じに注意をする。
一方のダテは自分の予想よりもミヤの反応が良かったことに抗議する。
「ヒデヨシー、邪魔しないでよねぇ!」
「あ、ごめんねー」
そこでミヤが少し怒っている、という仕草をしながら話しかけてくる。
ヒデヨシはダテを地に降ろす。
(とりあえず、蹴りつけるとかの野蛮行為をやめてくれ)
ヒデヨシはそう言ってそそくさと邪魔にならないようにはけていく。
取り残されたダテは、壁際から離れ、ミヤの方に近づいていく。
「ヒデヨシが邪魔しちゃったけど続き、お願いします」
「あ、はい」
てっきりダテは蹴られたことを根に持つような女子だからヒデヨシが注意したのかと思ったが、そうでもないことに驚いている。
それに、心なしかミヤの張り切り度合いが上がっている気がして、ダテはどうしたもんかと後頭部を掻く。
おそらく反応か速さへの慣れか、ダテの速さに十分ついていけるレベルのものを持っているミヤ。
多分ヒデヨシあたりだったら本気じゃない限り彼女追いつけるんじゃないのか、と考えながらも、
加速する。
「これでおしまいかな」
緩急。
ダテがランカーたる理由の一つである技術を使い、ミヤを斬りつけた。
だが斬りつけた後、ダテは見た気がした。
あの緩急にも関わらず自分に視線を向け、自分をとらえ続けていたミヤを。
末恐ろしい。
気のせいだとしても、そう思ったダテであった。
☆☆☆☆☆
「大人気ってもんがないの?!」
斬りつけた後に飛んできたヤジに、ダテは顔をしかめた。
当然ながら、声をかけてきたのはヒデヨシ。
その煽る声にため息をつきながら無視をする。
「あ、無視は酷いんじゃないのか?!」
ヒデヨシはブーブーとやかましくするが、ダテは無視してミヤの視界に入る位置に移動する。
「どう?
具合悪いとかない?」
「あ、はい。
確かに強力ですね、能力」
「ま、その代わりデメリットもあるんだけどね」
「はー、それでもすごいですよね」
ミヤは自分の目の前で手を振っている。
その行動は、普通の人ならばどうしたのだろうかという行動だが、ダテからすれば当然の反応。
それは、
「しっかりと『独眼竜』って感じですね。
片目の視力なくなるなんて」
ミヤの左目に、なにやら黒い靄のようなものがかかっているからだ。
その黒い靄のようなものはダテの短刀からも発せられている。
「そう、人間片目の視力なくなるだけで色々と不便でさ。
試しにミヤ、俺に触れてみて」
「ん? 分かったよ」
ダテの隣に現れたヒデヨシがミヤに話しかける。
ミヤは言われた通りヒデヨシに手を伸ばそうとするが、手前で空を切る。
「あれ?」
「人間の目は両方で距離感を正確に把握していて、片目が使えないだけで空間把握能力が大幅に下がる。
それに本人が忍者みたいな動きをするから、服装も相まって偶に【ゴキブ】さんなんて呼ぶ奴もいる」
「そのあだ名は結構傷つくからやめようね……」
ミヤはその言葉に少し納得する。
確かにダテの服装は全体的に黒を基調としていて、夜道にいれば見つからないであろうものだし、髪も真っ黒くてボサボサ。
おまけに髪が長いので、人相が少しわかりづらい。
ゴキ呼ばわりは流石に酷いが、
「確かに忍者みたい……」
「まぁ確かに忍者みたいなんだけどねぇ……」
ヒデヨシはミヤの言葉に賛同するが、喉に骨が引っかかっているような言い方をする。
ミヤがそんな話し方を気にすると、
「結構初期のランカーで、【HANNZOU】っていう人がいてね。
その人は忍術みたいな事をほんとたくさんしてて、ここにいる人にとっての忍者ってのがローマ字表記のNINZYAになっちゃったせいで、ね」
「しかも今もその人いるし、めっちゃ強いしで、ダテみたいなスタイルは忍者ってよりかは暗殺者、っていう認識になってるって感じ」
ダテとヒデヨシから補足説明が入る。
ほんと詳しいな、と感嘆したミヤはふと思いついたことを聞いてみる。
「どのくらいランカーさんたちと親しいの?」
「どのくらいもなにも、イベントで大体中心になってアホなことしているのはランカーだから、いやでも覚える」
「そうそう、ヒデヨシの言った通り、イベントの時はことあるごとにランカーは騒ぎを起こすから、ほんとね……」
ヒデヨシの諦めた感じの話し方に、ダテの闇の深そうな笑みを見て、ミヤは少し不謹慎だが、楽しそうと感じた。
こうやって同じ世界を見れているダテが羨ましい。
だが、今となっては自分もその景色を見ることができる。
なんだかその事実だけで、少し嬉しくなったミヤであった。
「それで、短刀はお分かりのお通り、色々と武器として劣っている分、強力な効果を発揮する。
で、基本的には相手に対してデメリットとなる効果を与える。
流石にダテちゃんみたいな卑怯な効果にはデメリットがつくけど、身体能力低下とかだったら結構普通にあるって感じかな」
「確かに俺の『独眼竜』強いけどピーキーすぎるんだよなぁ」
ヒデヨシの説明を聞き、はーいと返事をするミヤ。
「じゃあ、私が体験したのは、『憂』『結』の打刀。
それで『結』の大量重複発動して、身体能力がすごいことになるのが太刀。
ゴリさんの持っている大きい刀が大太刀。
ダテさんが使っているのが短刀」
ミヤはそれに、と付け加えて、
「あとは脇差だけだね、ヒデヨシ」
「ほれ」
ヒデヨシの方を向きながら話すミヤに、自身の腰に下げてある脇差を鞘ごと投げて渡す。
『太閤検地』
脇差しの上に表示された名前にクスッとするミヤ。
「すっごい狙っているね」
「ま、伊達に【羽柴】とは呼ばれていませんよ」
「それなら【豊富】でしょうに」
その瞬間、ミヤに気づかれないくらいに空気が微細に変わった。
分かったのはダテのみ。
そのダテは特に何も言う事はなく、
「その能力、ほんと変だよな」
「それでも使っているから強い俺」
「いや、その能力はヒデヨシが使ってこそ、一対一では強いよね」
ミヤはその刀の能力を見て苦笑いする。
『発動条件:視界に入っている事
効果:もう一本刀を装備できる。
相手の刀の能力を【太閤検地】に変更。
発動条件を【視界に入っている事】に変更
更に効果項目を【太閤検地】の効果の記載と同じにする
(なお、記載のみを変更するため効果変更、条件変更は行われない)
副作用:もう一本の刀の能力使用不可』
「え、待ってどう言う事?」
ミヤはヒデヨシの持つ刀の効果や副作用に驚く。
確かに脇差の能力は『一本刀の装備可能」だが、そもそもこの刀の副作用が矛盾している。
刀をもう一本装備できるのに使えない。
挙げ句の果てには効果の記載を変更するだけの能力。
「確かに、その刀は一本だけでは弱い」
ダテが話しながらヒデヨシをちらりと見る。
ヒデヨシは少し申し訳なさそうに、
「申し訳ないけど、あんまりもう一本の刀の能力はおいそれと公開できるものじゃなくて。
使っている様子なら見せれるけど、それじゃあダメかな?」
今までに見たことのないヒデヨシの顔。
複雑そうで、まるで過去を背負っている人間の顔。
そんな様子に何があったのかが非常に気になったミヤだが、
「ごめん、こればっかりは誰にも教えられないんだよね。
ほんと、ヒデヨシも教えたいのは山々なんだけど、ごめんよ」
ダテからの助け舟によって、ミヤは聞くに聞けなくなった。
「じゃあ私にやってみて。
それで今の所は聞くのをやめてあげるから」
「……ありがとう」
ヒデヨシのふざけていないありがとうをなんだか久しぶりに聞いた気がしたミヤであった。
そうしてその日、ミヤはヒデヨシと勝負して驚愕する。
確かにヒデヨシは一対一では最強だと。
ミヤは自身の刀がなくなってしまったせいで何も持っていない両手を見つめた。
【豊富】に関して。
いました。
それ以上のことはここでは記載不可です。
『大事なのは、予測と予防。
最後に必要なのは、ズバリ運』
『叶わないことはない。
だから叶うと考えるのではなく、したいで考える』
『前に道がないなら、素直に逃げる』
『生きてりゃ儲けもん、けど斬れなきゃ大損』
『下着だけ斬れるようになりたい』
『行くよ…………
太閤検地!刀狩り!』




