閑話:灰
あの事件が起きてから数日、自分たちは事故調査と現場検証という事で、強制的に街に逗留する羽目になり、同じ様に調書をとるためにと向かった狩人組合にて、偶然にも出会った師匠との古い知り合いというウージさんと共に、併設されていた酒場で食事という酒の席をとっていた。
そんな折、ちょうど共通の話のタネともなる、師匠の事を聞き出していたりしたのだが‥‥‥
やれ、竜の山に登ってみては卵を担いていたせいで群れで襲われては命からがら逃げきっただの、深緑の魔森で数週間ほど迷い、オーガの縄張りに入り込んでしまって包囲されながらもなんとか撃退できたなど、枚挙に遑がないとはこの事をいうのだろうか‥‥‥
過去の無茶話を聞かされては、"あの師匠ならあり得る"と、ダットと二人でさらにゲンナリする恰好になってしまってはいたが、そんな師匠と組んで仕事をしていたウージさんたちがいた事にも驚きを感じてはいたが、「オレも若かったからな‥‥‥」という一言で済ましているウージさん自身も、実は師匠と同類だったのでは?という疑問を抱かされるのには十二分だった。
そんな話のタネを撒いていると、ちょうどいい具合なほろ酔いになり、あの事件の事になり、師匠とは事情聴取という事で再び出会う事にはなったのだが、その再びあったその姿がいつもよりオカシイという事で、ダットと共に何があったのか?という疑問を投げかけていた。
「ウージさん」
「ん、なんだ?」
「師匠、どうしたのか知りませんか?」
「何がだ?」
「何かあれ以来、不意に上の空というか……」
今日も叱責される格好につながるヘマ話をしてしまい、いつもの制裁が飛んでくる!という覚悟を決めていた時、ふと、「自分も助けられた身だったな」とか言っていたかと思えば、どこか遠くを見つめる様な態度をとっては、その制裁が下りない事に、ダットと二人で"なんか、おかしくね?"という意見でまとまっていたりしていたのである。
「まぁ、実際に見てもいないのに、アレほどの死を感じさせる威圧を掛けれる相手がいたんだ。命の有難味を感じ取っては、何か考えに浸る事もあるだろう。お前らもそういう感覚にはなっただろ?」
「え、えぇ・・・」
「はい・・・」
「それはまぁ、そうなんですが‥‥‥」
「なら、生きている事が出来たなら良い経験が出来たと割り切ってしまえばいいさ」
「いや、そういうんじゃねぇんですよ、なんというか…‥‥こう‥‥‥あぁ、もう説明しづらい」
「いつも叱咤してくる師匠じゃなくてですね‥‥‥」
「そうそう、師匠じゃなくて、アレは何というか一人の人というか、何というか‥‥‥」
「それは、恋煩いだと思います」
唐突にアイネスから放たれた言葉に対し、テーブルを囲んだ全員から、その不意なる発言を行った人物に向かって視線が集中しては、一瞬の間が発生したかと思えば
「「「ブファッ」」」
「きったないわねぇ・・・」
「あっぶねぇ」
自分を含めた数人の男野郎たちから、口に含ませていたエールや夕食を口から噴き出していたが、残る数名はその噴き出したモノから自身の食事を守るために、すばやい回避行動で事なきを得ていたが、その数名の周りには、泡と液体と固形物が無残にも広がっているという状態であった。
「ありえない」
「それは無ぇって、アイネス」
「ゲッホゴッホゴッフ・・・」
「うーん、そうでしょうか?テオーネお姉さまのあの表情、そういった女性特有の顔付きだと思いますけれど?」
そう、先ほど爆弾すぎる発言をしていたアイネスは、人差し指をほほに当てながら"う~ん"といった表情で考えこんではみたものの、
「やっぱりそうですよ!」
と、両手を合わせて自信たっぷりに笑顔で告げたかと思えば、その両手でエールの瓶を持ち上げては、その口に運んでいた。
「そこの嬢ちゃんも、結構なモノを言うんだな‥‥‥」
「いや、たぶん酔ってるだけだと思いますけどね」
「そういや私、アイネスがお酒を飲むのは始めて見たわね」
「私だって、お酒ぐらいは飲みますよ?」
ウージさんから、冷ややかとも笑いのタネをぶっかけられたともいう感じで言ってはきたが、アイネス自身が酒を飲んで、ここまでの冗談ともいう事をいった試しはない。
ないが為に、逆にそれが本意なのか真意なのかがはかりかねてしまう。
「あいつが恋なんてしたところを見た覚えがないなぁ‥‥‥」
「ですよね!それらしい人なんて見た事ないですし」
「それは、アレですよ。ほら、あの騎士に助けられたと仰ってましたし」
「ああ、あれか?ユーロス様ってやつか?あれはおとぎ話の存在だろ?」
「けれど、それらしき人を見たという方が他にもおられましたし、昨今の噂になってますよ?」
「噂だろ?噂。そんな英雄様がそういるわけないだろう」
『灰翼のユーロス』
白色の鎧に灰色の翼をもち、その額には金色の角を携えている"世界"の御使い
世界に"負"に満たされた時その"負"を払拭し、
世界が"正"に溢れた時その"正"を戒める。
二代聖典ともよばれる"白の経典"や"黒の経典"にも記載されていない、
大陸伝承として伝え残っているお伽話の"御使い"シリーズの一つの英雄
「その"ユーロス"って何?」
名前すら知らないといった感じのラウザは、エール瓶を両手で持ちながら、此方へと詰め寄る様に聞いてきた。
「ラウザは知らないか、そういやラウザって北方大陸出身だっけ?」
「そうよ?デューとそこから一緒だし」
「んだな。北方大陸でてから、ひと、ふた、みの・・・結構なるな」
酒のアテを口に含んではエールをあおり、その後に勝手知ったるという口調でエールをお替りしているデューと、どこか何かしらを思いだすラウザだったが、先ほどの質問に答えるために、酔い始めている頭を抱えては記憶をたどり始めていく
「"ユーロス"ってのは、えーっと中央大陸の御伽話で"御使い"っていう物語の一つに出てくる英雄の一人で、天の騎士様の名前だな」
「そうそう、怖い思いをしていたら、ユーロス様が助けてくれるし、あまりにも行き過ぎた法には逆に戒めとして、民に変わって裁きを下してくれる‥‥‥最後は、世界を主にしてる騎士っていう〆で終わってたな」
「何だそりゃ?それじゃまるで、世界騎士様とでもいうのか?そんな騎士様は一体どんな恰好してんだ?」
ケラケラと笑いながら、デューはエールを片手にその話の続きを促してきていた。
「俺が昔聞いた時のは、白い鎧を着てて」
「たしか、背中に灰色の翼をもってて」
「金色の角を生やしてるんだったか」
「「そうそう」」
「懐かしいな…」
「ウージさんも知ってたんですね」
「まぁ、ガキの頃の話だ。ただ、今も変わってないのものなんだな」
「そうみたいですね」
懐かしい、昔の冒険のきっかけになったとか、そういう物語の一つの定番ともいえる物語。
自分もその物語を何度も読み返した子供の頃の覚えがある。
そんな哀愁にも似た、懐かしい思いとともに、エールを口に含んでいたら
「ねぇ、そのユーなんとかの騎士様って、あんな感じなの?」
エールの瓶から口を放したラウザが、首をかしげながら狩人組合の受付の方を指さしてそう伝えてきたため、その指先を眺めるように視線をそちらの方にむけてみると、そこには
「背中に灰色の翼をもってるな」
「金色の角を生やしてますね」
「白い鎧を‥‥‥ああ、あんな恰好に‥‥‥」
テーブルを囲んだ全員から、その指先が指し示す人物に向かって視線が集中し、再び、一瞬の間が発生したかと思えば
「「「いたぁ!!」」ゲホゴフゥァ」
その姿を語っていた自分を含めて数名から、まったく同じ声が漏れ出され、口に含んだエールを飲み込む事が失敗するほどに驚いてしまった。
なにせその視線の先には、つい先ほど述べていたその姿そのままといえるぐらいの存在が、何か受付で受け答えをしている最中であったのだから。
文字数みてたら、なんか長引きそうなエピローグになりそう‥‥‥




