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維新〜総員決起せよ〜  作者: 棚瀬 賢
乙章
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第14話 別項事案と演習

作戦「乙」も佳境になった。これによって政府は事態の重みを知ることになるだろう。

思うとここまで1人でよくやってきたと思う。しかし、これが終わってもまだまだ先がある。あくまで自分は序盤の少し前に土地をならしているだけだ。

これからが大切なんだ.....


彼は、彼が所属する場所では基本的に着ることの少ない服を着て、まっすぐ密林の中へと歩みを進めた。

2月2日 現地時間22:06 北朝鮮のとある田舎町



その部屋の中は入り口に掲げられた重苦しい部署名とは裏腹にほとんど備品らしい備品は無かった。最低限あるのは机と椅子と部屋にある唯一の電話機。それも、どこか昭和の日本でよく見かけたようなボタンしか無い古い方の事務用電話機だ。電気が点いていないこともあるが、部屋全体が暗いのはそれだけじゃ無いだろう。

部屋の中には1人の男がいた。暗くて表情や服装は見えないが、とにかく痩せこけていることは肩の形から分かる。その男はある黒い塊を磨いていた。念入りに磨き上げるその姿は、まるで趣味の大切な物でも磨き上げているようにも見えた。

しかし、それが違うことは男の憎しみに満ちた瞳が証明していた。何かを塗りこむように、まるで自分の想いをすり込むように磨く男は孤独だった。



翌日 現地時間正午過ぎ


ある建築途中の広場に人だかりができていた。その中心にいるのは黒いコートを着た恰幅の良い男。その表情は笑顔に満ちていたが、それに呼応するように笑みを浮かべる周りの人間の表情はどこか引きつっているように見える。いや、そもそも黒いコートの男と違い、周りの人間...一目で軍人と分かる緑色の制帽とコートを着用した者や黒い背広を着た男たちはあまりにも痩せこけている。いや、何人かはある程度の肉つきがあるがそれは少数だ。軍事訓練の賜物として痩せたというより、あまり食べていないためだろう。

また、民間人であろうか、その中にいた人民服を着た男は軍人達とは比べ物にならないくらい痩せている。齢60を超えたであろうその体にはあまりにも細い。

その人民服の男に黒いコートの男が話しかける。すると人民服の男は、畏まったような表情をしてメモを取り始めた。どうやらこの現場の責任者らしい。

その黒いコートの男に忍び寄る軍人がいた。警備担当であるこの軍人に警戒をする者は誰もいないが、階級章から見て西側諸国で言うところの少尉の肩書き持つことが見て取れる。それとは反対に、黒いコートの男を取り囲むのは人民服の男を除いて、皆将官レベルで下を見ても中佐以上だ。さすがに肩書きが違いすぎる。必要以上に近づくのはマズイのは誰にでもわかる。

と、その中の大佐クラスの男がやはり少尉に気づいた。咎めるため口を開こうとした大佐は、その口から言葉を発することが出来なかった。

少尉は、腰に差した68式拳銃を抜いた途端躊躇わず大佐に発砲。左胸に弾が命中した大佐が倒れるよりも早く、狙いを黒いコートの男に変えた少尉は躊躇わず引き金を引こうとした。

少尉の目には銃声に気づいて振り向いた黒いコートの男が、まるでこの世の終わりのような表情をしていることが映っていた。

が、彼が引き金を引くより早く、少尉の後ろにいた背広の男が撃つほうが早かった。

少尉の肩甲骨付近に命中した9ミリ拳銃弾は心臓を貫く形で貫通した。

後ろからの衝撃と、力を失った少尉の体はもはやただの肉の塊だった。意識を失う寸前に少尉は頭の中で5年前に餓死した妹の顔を思い浮かべた。その妹は5年前から変わっていない幼い表情で少尉を光の中へ迎え入れようとしていた。その細長い手から差し出された掌を5年ぶりに、いやこんなにも健康そうな掌は見たことが無かったがそれでも握ろうと少尉も手を伸ばそうとした。

が、止めとばかりに放たれた9ミリ弾が少尉の脳を粉砕し左目を潰す形で貫通した。


唾を吐き、死体に蹴りを入れる。そして死体を仕留めた保衛部の大尉を労ってから、大佐の安否を確認した黒いコートの男はもはやここにいる気は無かった。

とりあえず、大尉と死んだ大佐には最高勲章を贈呈し、大尉には家族の一生涯と末代までの保護、食料1年分と望む物があれば限度ある範囲内での贈呈、平壌市内への最高マンションへの入居許可。大佐には2階級特進と名誉役職を与えて国葬を執り行う。

反対に死体の少尉には与えられるだけ全ての罰と国賊としての扱い、親戚一同の処刑と上官の更迭、所属原隊の処遇について査問をかけ必要ならば同僚全員に処罰を与える。死体は牛か豚にでも食わせるか、少尉の親族にでも食わせる。

以上を指示し終えてから、安全な自分の部屋へと帰るためにヘリへと彼は急いだ。



同日 日本時間 14:05 陸上自衛隊北富士演習場



雪が降り積もり生まれたこの広大な雪原。広く、そして自然しかないこの土地はまるで太古から現代にその土地だけがタイムスリップしてきたかのような、現代には似合わない非現実的空間を演出する。その目の前には広大な富士の山がそびえているとなれば、もはや時代は「戦国」と言われてもまさしくそんな気しかしてならない。

その中をまるでぶち壊すかのように無限軌道キャタピラの走行音と特有のエンジン音が空間を駆け巡る。それに付き添うように走る人間たち。時には伏せ、時には駆けるその姿は訓練された兵士である事がよくわかる。そして、時には激しい爆音を撒き散らしながら撃ち、撃破し勝利かと思えば被弾し煙を上げるその姿は正しく「戦場」である。

そう、まるでそこは「戦国」ではなく現在進行の「戦場」であるかに見えた。


「1中隊、目標地点“赤の台”制圧に成功。ただし、敵からの火力激しく、現時点で長期の占領は困難。増援要請を確認」

「よし、1中隊支援のため、同地点に向け3中隊を前進させ」

「了解、“赤の台”に3中隊を前進させ、1中隊支援を行わせます」


陸上自衛隊北富士演習場内にて行われている演習は2日目に突入していた。

内容は「機械化部隊による侵攻時の防衛と敵拠点制圧」と題し、「防衛側」と「奪還側」に分けられた2つの部隊が富士の裾野でぶつかり合っていた。もちろん使われる弾薬は弾丸を取り外した空砲と、「交戦訓練教材バトラー」と呼ばれる装置を取り付けた戦車や銃火器による、あくまで“演習”だ。

とは言っても参加する自衛官らは全員が実戦と同じ気持ちで事に臨んでいる。参加部隊も凄かった。

「防衛部隊」として、陣地防衛に挑んでいるのは滝ヶ原駐屯地に駐屯している『部隊訓練評価隊・評価支援隊』の演習用編成である『第一機械化大隊』に予備の1個中隊を加えてフル編成とした『"第一機械化戦闘群"』。

「奪還部隊」として、陣地奪還に挑んでいるのは富士駐屯地に駐屯している『戦車教導隊』から2個中隊と滝ヶ原駐屯地に駐屯する『普通科教導連隊』から1個中隊や『教育支援施設隊』から引き抜いき、戦車教導隊隊長指揮の元編成された『"富士戦闘群"』。

この2つの臨時演習部隊が富士の裾野で激突していた。両部隊は陸上自衛隊においても頂点に立つ、言わば「陸自最強の戦闘部隊」としての模範と「絶対に勝つ部隊」としての自負がある部隊であり、両隊とも簡単には負けられなかった。というか、勝たねばならなかった。


が、一方で「武器同士の戦い」以外にも「支援」という戦いもある。前線で戦闘が行われている後ろで飯を作ったり、負傷した人間を治療したり、弾薬の補給を手配するなどである。


そして今、戦車教導隊本部管理中隊通信小隊小隊長の成宮亨二尉は、無線機に噛り付いている部下達の後ろで続々と集まり進んでいく情報を整理し、直属の上司にあたる戦闘群第2部長に対し報告を行うため情報を整理したところであった。

ひとしきり終えた後、突然排尿をしたい感覚に襲われた。これが初期ならば我慢するが、状況開始からすでに6時間。我慢して我慢して我慢しきった。もう限界だった。

「すまん、ちょっと小便!」

先任の陸曹長に任せて、立ちションをしようと外に出た。さすがに見張りの前でするわけにもいかず、茂みに隠れてしようかとすぐ脇の森の中へと入り、適当な茂みを見つけてからファスナーを開けて、さっそく“状況”を開始する。

終了し、戻ろうかと振り向いた矢先、不思議な光景を目撃した。

迷彩服...まぁ演習中であるからおかしくはないが、どうも不思議な若い隊員を目撃した。

いや、何がおかしいのかよく分からない。しかし、なんかおかしい...。辺りを見回してから背中に背負っている背嚢を下ろして何かを弄り始めた。

まさか“大きい方のトイレ”...“散布地雷”でも投下するわけじゃないよな...と思った。

何かが足りない。なんなんだ、この違和感。そして、ようやく気付いた。小銃を持っていないのだ。

普通科、施設科などの職種の幹部以外の自衛官は全員が小銃を携帯している。これは武器庫から出したら常に携帯し、特別な許可がない時以外は肌身離さず持っていなくてはならない。

背嚢を背負っている以上、少なくとも機甲科(戦車)ではないだろうし、あれくらいの歳での幹部は今回の演習では見覚えもない。やはり、妙だ。

まさか不法侵入のマニアではないだろうな...と思いつつ声をかける決心をした成宮は、そっと近づきつつ相手の様子を伺った。やはり、小銃はどこにもなかった。

「おい、貴様っ!そこで何をしている?」と声を放った。

“ギクッ”とこちらを見つめた瞳は、素人やマニアではない“自衛官”の目だった。

その際、成宮は随分と彼が鼻が高く、目も大きい美少年イケメンだな、と思ったがとりあえず部外者ではないだろうということに安堵した成宮は声の調子を戻した。

「俺は戦教本管の成宮二尉だ。別に貴官を怒鳴りつけに来たわけではない。ただ、何をしているのかと気になって」

相手に安心感を与えさせるために、極めて低姿勢で話しかける。否応もなしに上から怒鳴りつけるのは時代遅れだ。教育隊ならまだしも、現場で怒鳴りつけて相手を萎縮させてから話を始めるなんてなし。ましてや鉄拳制裁も。

「さぁどうしたんだ?」

相手の目の前に近づき言葉をかけた時、その“自衛官”は無言で立ち上がった。そして、右手をあげた。

てっきり、敬礼するのかと思った成宮はその動作を特には注視しなかった。

そして、右手が成宮の首筋に叩き込んできた。

手慣れた動作で叩き込まれた手刀によって、成宮はわけがわからないまま昏倒する羽目になった。

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