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花咲く国で ― 異世界転移者と転生者、その傍らで生きる者たち  作者: KIWI
こうして私たちは漕ぎ続ける。流れに逆らう舟のように。
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旅の途中で昔話を

ほとんど過剰と言っていいほど盛大な見送りを受けたあと、ジャスミーヌはようやくソラとともに帰路についた。


アンナたちから半ば無理やり持たされた大きな袋いっぱいの贈り物だけではない。ジャスミーヌの両手には、さまざまな菓子や花まで抱えきれないほど持たされていた。


あまりの量に、ジャスミーヌは思わず疑ってしまった。

ジュリアは、自分が果てなき部族を離れる前に、菓子で腹をいっぱいにして動けなくするつもりなのではないだろうか。


それに比べると、ソラのほうはずいぶん身軽だった。

なぜなのか、人々は彼とは一度握手さえできれば、それだけで十分満足らしい。


「申し訳ないけれど、婚儀で生じた魔力の流れが大きすぎたんだ。これからも部族の安全を守るために、ここでは転移用の魔法具を使わせるわけにはいかない」


カロリンが二人に説明した。


ジャスミーヌは理解を示して頷いた。婚儀を始める前から、そのことはすでに聞かされている。


「船で海峡の向こうにあるルビー港まで送るよ。そこからなら鉄道車に乗れる」


「それなら問題ありません」


ソラはあっさりと了承した。



港へ向かう馬車の中で、ジャスミーヌは来たときと同じように目隠しをされた。

布が外されたのは船に乗り込み、果てなき部族の港から十分に離れてからだった。


久しぶりに美しい海面を目にした途端、ジャスミーヌは今度は船酔いのことが心配になった。

幸い、ソラは最初から準備していたらしい。渡された薬草を飲むと、対岸へ着くまで一度も吐き気を覚えることはなかった。



航海の途中で、ジャスミーヌとソラは変装を整えた。

二人とも身分が少々ややこしい。人目を避けるに越したことはない。


ソラはゆったりとした濃色の長衣に着替え、重そうな薬箱や束ねた乾燥薬草で二人分の荷物を隠した。

出来上がった姿は、いかにも気難しそうで、ひと目見ただけで誰も自分から話しかけたいとは思わないような旅の薬草商だった。


ジャスミーヌは、着ているものをすべて変えたわけではない。

真珠王国の伝統衣装に使われているショールを折り直し、髪と肩を覆うように巻くだけで、女性の旅装に使われる長い外套のように見える。


本来なら二人とも魔法空間に荷物を収納できるのだが、長距離鉄道車では安全上の理由から魔法空間の使用が禁じられている。

そのため、大量の荷物も変装の一部として隠して運ぶしかなかった。


二人で並んで立てば、旅をしている薬草商の父娘にしか見えない。



ジャスミーヌはしばらくソラを見つめた。


ソラは少し居心地悪そうに長衣の裾を引っ張る。


「君にはちゃんとお父さんがいるだろう? あまり親しくもない相手と急に父娘のふりをするのは、少し気まずいんじゃないかと思って」


「あ、私は平気です」


ジャスミーヌは慌てて首を振った。


ただ考えていただけだ。


まさか自分がいつの日か、エリカ王妃の伴侶にして、リタール王太子の実父でもある人物と、父娘のふりをすることになるとは。


……エイデンがこの話を聞いたら、いったいどんな顔をするのだろう。



船はほどなくして対岸の港へ到着した。


ルビー港はアーカハン大陸でも指折りの富裕な港町であり、交易の拠点として各地から大勢の人々が集まっている。


船が完全に接岸するより先に、港商人の呼び声、荷運び人たちの威勢のいい掛け声、街角の芸人が奏でる音楽、それに遠くを走る鉄道車の長い汽笛が、海の向こうから重なって聞こえてきた。

肌の色も、服装も、話す言葉の訛りも異なる人々が雑踏を行き交っている。


巨大な貨物箱は軌道に沿って次々と倉庫へ運び込まれていた。


二人はその人波に紛れ、ほどなくリタール王国との国境方面へ向かう長距離鉄道車に乗り込んだ。

予約したのは、寝室のついた二人用の個室だった。



列車がルビー港を離れると、窓の外に密集していた建物は次第に減り、代わりに畑や丘陵が広がっていった。


ジャスミーヌは窓辺に座り、後方へ流れていく景色を眺めながら、いつの間にか『古い夕陽』を口ずさんでいた。


ソラは奥の寝室へ入っている。

どうやら珍しい通信魔法具を使い、エリカ王妃と連絡を取っているらしい。



その歌を口ずさんでいると、ジャスミーヌはまたセリーナのことを思い出した。

けれど今は、亡くなった親友を思い浮かべても、身体が痺れるほどの痛みや、叫び出したくなるような苦しさはもう薄れていた。


すべてを拒み、何もかも否定したくなるような怒りも消えている。

今、残っているのは淡い哀しみと、それよりもずっと濃い恋しさだった。


これはきっと、生涯消えることのない傷になるのだろう。

この出来事をエイデンに話すこともできる。

いつかこれから先、親しくなった誰かに話すことだってできるだろう。


けれど、どれほど言葉を尽くしたとしても、実際に経験した者にしか理解できない悲しみというものは、きっとある。



いつの間にか、ソラが寝室から戻ってきていた。

彼はジャスミーヌの向かいの椅子に腰を下ろした。


「その歌、ずいぶん好きなんだね?」


「私もセリーナも大好きなんです。何年か前、アンジェラが真珠王国で公演をしたとき、二人で観に行ったんですけど、そのときの一曲目がこれだったんです」


「そうなんだ……」


なぜだろう。


ソラがほんの少しだけ気まずそうな顔をしたように見えた。


ジャスミーヌはすぐに、各国でまことしやかに囁かれている噂を思い出した。

リタール王国随一の歌姫アンジェラと、絶大な権力を握るエリカ王妃のあいだには、長年にわたる曖昧な関係があるという。


もしあの噂が本当なのだとしたら、目の前にいるこの人の立場は、確かに少しばかり微妙なのかもしれない。


ジャスミーヌはこっそりソラの表情を窺った。


「アンジェラとはお知り合いなんですか? ずいぶん昔から王家劇団にいると聞きましたけど」


「もう長い付き合いだよ。彼女は最初から歌手だったわけじゃなくて、昔はヘクトール伯爵夫人の屋敷で侍女をしていたんだ」


ジャスミーヌが心配したような様子はまったくなく、アンジェラの話をするソラは自然な表情で、むしろ懐かしそうに笑っていた。


「たしかエイデンが生まれた前後だったかな。そこから本格的に舞踊と歌を習い始めて、そのあと王家劇団に入ったんだ」


「それなら、『古い夕陽』がいつ作られた曲なのかも知っていますか? ずっと作曲者について調べているんですけど、どうしても情報が見つからなくて」


ソラは不思議そうな顔をした。


「どうしてそんなに、作曲者が誰なのか知りたいの?」


「それはですね……」


ジャスミーヌは少し考えた。


「本当に最初から話すなら、たぶん私が六歳のときに誘拐されたところからになります」


「……え?」


「正確には、本当の誘拐ではなかったんです。あとになって、王家が仕組んだ偽装誘拐だったとわかったので」


「……は?」


「でも、その途中で私は本当に迷子になりました」


「ちょっと待って。情報が多すぎる」



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