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ほどけない結び目

公爵家の跡取り息子、エルンストは今年で二十歳になっていた。

すべてが順調に進んでいれば、二年前には王家学院を卒業し、結婚式を挙げ、すでに領地経営の引き継ぎを始めているはずだった。

だが今もなお、エルンストは学院の寮に住み続けている。


寮へ戻る途中、何人かの学生が興味深そうに彼へ声をかけた。


「先輩、今年も学院に残るんですか?」


「そうだ」


エルンストは気取った様子で頷いた。


「最近、領地では新しい栽培方法を試していてね。もう少し関連する講義を履修しておきたいんだ」


「そうなんですね」


「先輩は、今のところ結婚のご予定もないんですか?」


「そのとおりだ」


エルンストは目を閉じ、ほとんど芝居がかった仕草で胸元を押さえた。


「僕は婚約者を信じている。彼女はきっと傷から立ち直り、最後には僕のもとへ戻ってきてくれる」


学生たちはちらりと顔を見合わせた。


「……そうですね」


「では、早く良い知らせがあるといいですね」


エルンストはそのまま階段を上っていった。

ほどなくして背後から、声を潜めた話し声が聞こえてくる。続いて、隠そうともしない笑い声。

エルンストは足を止めなかった。表情も変えず、まるでその笑い声など自分には何の関係もないかのように歩き続けた。



実のところ、エルンストはもう何年もプリンス領へ戻っていなかった。


父親が領民の反乱によって殺されて以降、領地はずっと王家から派遣された代理人によって管理されている。

だが、利益もほとんどなく、いつ再び騒乱が起きてもおかしくない土地に、代理人が熱心に力を注ぐはずもなかった。


今やプリンス領は人口も激減し、農地も産業も荒れ果てている。

そのため、人々は領地復興の希望を、エルンストの結婚に託していた。

セリーナの生家である伯爵家は、宝石商で莫大な財を築いている。

二人が結婚すれば、彼女がもたらす持参金と商業上の人脈は、衰退したプリンス領に大きな利益をもたらすはずだった。


だからこそ、エルンストが突然婚約破棄を申し出て、ディマン王国の「ジェンナ姫」と結婚すると言い出したとき、代理人や領地の官僚たちは当初こぞって反対した。


だがエルンストは繰り返し主張した。

外国の王女がもたらす金、人脈、人材は、伯爵令嬢などよりはるかに多いはずだ、と。


そして―


「ジェンナ姫」の正体が明らかになった。


婚約破棄そのものが、一つの笑い話になった。



「ジェンナ姫」の正体が暴かれると、エルンストはすぐに自分の立場を作り直した。

婚約者を捨てて外国の王女に走った男ではなく、偽の王女に騙された哀れな被害者。


そういう役を選んだのだ。

セリーナの身に起きたことについては、すでに国外へ去ったジェイドとマリーに責任を押しつけた。


しかし、裕福な貴族令嬢の中に、エルンストと結婚したがる者は一人もいなかった。

何しろ彼は、学院の大勢の学生が見ている前で婚約を破棄し、その場で自分の護衛に命じてセリーナを連れ去らせた男だ。

将来の公爵夫人という地位がどれほど魅力的でも、命には代えられない。


さらに悪いことに、学院では別の噂まで広まり始めた。

エルンストや第三王子たちは、実は最初から「ジェンナ姫」の本当の身分を知っていたのではないか。


そう疑う者が現れたのだ。

噂は尾ひれをつけて広がり、ついには彼ら数人の間にも、互いに言葉では言い表しにくい感情があったのではないか―そんな話まで囁かれるようになった。


エルンストはその噂に激怒した。

そのせいで、人々はますます本当なのではないかと信じるようになった。



結局、エルンストは再びセリーナとの婚約を結び直そうと方向転換した。

セリーナの両親は、プリンス公爵家の背後にいる王家を恐れていた。

同時に、娘に本当は何が起きたのか、それが世間に知られることも恐れていた。


だから彼らは、一度も正式な告発を行わなかった。


エルンストは学院で大声で宣言した。

たとえセリーナがあのような目に遭ったとしても、自分は彼女を愛している。

結婚し、一生面倒を見るつもりだ、と。


第三王子と宰相の息子の助けも借り、何度かセリーナの家を訪ね、本人に会おうとした。


だがエルンストを見るたびに、セリーナはほとんど取り乱すほどの恐怖に陥った。

一度など、ティーカップを叩き割り、鋭い破片を自分の首筋に押し当てたことさえある。


エルンストには今も、彼女がなぜそこまで拒絶するのか理解できなかった。


「……本当に馬鹿馬鹿しい」


思い出すだけで腹が立つ。


「自分にまだ選ぶ権利があると思ってるのか? 僕以外に、あんな汚れた女を誰が娶るっていうんだ」



部屋へ戻ると、エルンストは苛立ちに任せて椅子を蹴り倒した。

机の上のカップも掴み、そのまま床へ叩きつける。

カップは木の床で砕け、中に残っていた茶が飛び散った。


以前なら、カップが床に落ちただけで、物静かな使用人がすぐにやって来て片づけてくれた。


今は、誰も来ない。

セリーナの件のあと、彼女を連れ去った護衛たちは管理人によって処分された。

さらに学院側も、それ以降は学生個人が私兵を校内へ連れ込むことを禁じている。


呼び鈴を鳴らせば、学院の当直の使用人を呼ぶことはできた。


だが、エルンストはそうしたくなかった。

表面上は恭しく振る舞いながら、目の奥に嘲笑を隠している彼らの顔など、もう見たくなかった。

ジャスミーヌがセリーナを連れ去ってから、エルンストの人生は完全にその場で止まっていた。



プリンス領へ戻る気にはなれなかった。

あそこには面倒事と借金と、自分が処理しなければならない厄介な問題しか残っていない。


宮廷へ入ることも嫌だった。

王家の憐れみや施しにすがって生きるなど、耐えられない。


結局、彼は学院に残った。

表向きの理由は、「セリーナと過ごした思い出を偲ぶため」。

そして、いつか婚約者が自分のもとへ帰ってくるのを待つため。

少なくとも、その理由ならまだ聞こえはよかった。


第三王子は王宮へ戻った。

どれほど失敗しようとも、所詮は国王の息子だ。

当然、守ってくれる者がいる。


宰相の息子に至っては、元婚約者マラに受け入れられ、今では何不自由のない暮らしを送っている。


「どうして僕だけが、こんな暮らしをしなきゃいけないんだ……」


エルンストは恨めしそうに呟いた。


教師にも、同級生にも、話を聞いてくれる者すべてに繰り返し語った。

セリーナさえ戻ってきてくれれば、今度こそきちんと愛する。

彼女のためなら、何だってしてみせる。

何度も何度も口にしているうちに、ときにはエルンスト自身でさえ、それを信じそうになることがあった。


確かに、今になって思えば後悔している。


あのとき「ジェンナ姫」へ近づかなければ。


セリーナとの婚約をそのまま維持していれば。


すべては、こんなことにはならなかった。


学生も教師も、皆が陰で笑っている。

それでもエルンストには、こうして同じ日々を繰り返し続ける以外、どうすればいいのか分からなかった。



エルンストは落ち着かない様子で部屋の中を何度も歩き回った。

やがて寝間着の上からガウンを羽織り、階段を下りて、中庭を散歩することにした。


夜の中庭は、不自然なほど静かだった。

高い塀と鉄柵が、学園全体を取り囲んでいる。深夜になれば正門は固く閉ざされ、出入りはそう簡単ではない。


暗闇の中では、魔法灯だけが弱々しい光を放っていた。

歴代の偉人。

英雄。

神々。


彼らをかたどった石像が、庭園のあちこちに無言で立っている。

昼間なら荘厳に見える像も、これほど静まり返った夜には、まるで無数の目となって、一人で中庭を歩くエルンストを見つめているようだった。


エルンストは、天空神の像の前で足を止めた。

芸術家は天空神を、逞しい肉体を持つ美しい男として彫り上げていた。上半身は裸で、その手には太く長い槍が高々と掲げられている。


その像を見上げているうちに、エルンストはふと昔の出来事を思い出した。


まだ「ジェンナ姫」が学院にいたころのことだ。


セリーナから婚約を破棄させるため、彼はわざわざ等身大の女の人形を作らせた。

人形には服を着せず、顔にはセリーナの特徴を描き込んだ。

そして最後には、ひどく卑猥な姿勢で天空神の槍に固定した。


翌朝。

学院にいたほとんど全員が、それを目にした。

エルンストは、あのときのセリーナの表情を今でも覚えている。


思い出すと、思わず笑いが漏れた。


「ジェンナ姫」が最後にもたらした厄介事さえ別にすれば――


あの頃は、間違いなく人生で一番楽しかった。



その瞬間だった。

何か冷たいものが、エルンストの手首に巻きついた。


「……何だ?」


エルンストは慌てて手元を見る。

だが、それが何なのか確かめるより早く、束縛は一気に締まり、両手を激しく背中側へ引き絞った。


「うわっ――!」


続けざまに凄まじい力で身体ごと上へ引き上げられる。

両足が地面を離れた。


ガウンの裾が乱れ、エルンストは本能的に身体をよじって暴れた。

だが、抵抗すればするほど、手首の拘束はさらにきつく食い込んでくる。

まるで誰かが、極めて慣れた手つきで、絶対にほどけない結び目を彼の手首に作ったようだった。


野営で。


荷物を縛るときに。


あるいは―


暴れる獲物を拘束するときに使うような、そんな結び方だった。



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