花の声が消えるまで
ジャスミーヌの隣で、セルリナは自分の右胸から伸びる桃色の細い糸を引き寄せ、一本ずつ、そっと断ち切り続けていた。
桃色の糸は、彼女が想像していたよりもはるかに多かった。
その一本一本が、身体に花を咲かせた別の少女へと繋がっている。
薔薇。
ゼラニウム。
向日葵。
カスミソウ。
チューリップ。
セルリナは知らなかった。
自分と同じような少女が、外の世界にこれほど大勢いることを。
まだ種を植え付けられたばかりの者。
すでにしばらく時間が経ち、身体が少しずつ植物へと変わり始めている者。
そして、それよりもさらに多くの少女たちが、すでに《羊の花》の最終形態へと変わり果てていた。
糸を通して、セルリナには彼女たちの姿が見えた。
完全に花へと変貌した女性たちは、もはやほとんど人間の面影を残していなかった。
太い茎が脊椎から突き出し、宿主だった肉体からほとんどすべての栄養を吸い尽くしている。
肩はとうに裂け、骨の上から巨大な枝が伸び、左右へと広がっていた。
その先ではさらに細い枝が幾重にも分かれ、瑞々しい緑の葉をびっしりと茂らせている。
両脚は深く土へ埋め込まれ、そのまま根を張り、複雑に絡み合いながら地中へと広がっていた。
本来なら人間の胴体があるはずの場所には、異様なほど巨大な花が咲いている。
三歳ほどの幼児と変わらない大きさだった。
花弁は鮮やかで、ふっくらと瑞々しく、普通の花よりもなお美しい。
けれど、それは冒涜的な美しさだった。
花が完全に咲き切ると、人間だった身体は急速に萎びていく。
最後には、そのすべてが花の茎に呑み込まれる。
やがて外から見ただけでは、そこにかつて一人の人間が存在していたことさえ、誰にも分からなくなる。
果てなき部族では、《羊の花》を植え付けられた少女を受け入れると、まず本人にすべてを説明し、選ぶための時間を与える。
もし本人が望むなら。
完全に《羊の花》へ変わる前に、できる限り穏やかに、この世界から旅立たせる。
かつてジャスミーヌに救い出され、セルリナと共に果てなき部族へ連れてこられた少女たちは、皆その道を選んだ。
本当の植物へと変わり、半ば意識を残したまま苦しみ続けるくらいなら。
死を選ぶ、と。
《羊の花》については、昔から一つの大きな論争があった。
それを生み出した華唐国は、花が完成する頃には人間の宿主はすでに死亡していると主張していた。
だが、それを信じない者も多かった。
そして今。
糸に触れたセルリナには、彼女たちの声が聞こえていた。
セルリナはようやく理解した。
華唐国は、ずっと嘘をついていたのだ。
彼女たちは死んでなどいなかった。
身体が歪み。
臓器が萎縮し。
本当の名前も、かつての顔も失ってなお。
彼女たちは、まだ生きていた。
花の太い茎の中へ押し込められたまま、声にならない悲鳴を上げ続けていた。
「お母さん……」
「お父さん!」
「誰でもいい……助けて……」
「痛い……」
「花になんて、なりたくない……」
「お願い……」
「殺して。」
けれど、その大半はすでに言葉を失っていた。
ただ意味もなく叫び続けているだけだった。
いや。
その悲鳴でさえ、現実の世界には存在していない。
空気は震えない。
音は生まれない。
誰の耳にも届かない。
ただ、かろうじて残された意識だけが―
自分は今、叫んでいるはずだと覚えている。
あまりにも長い間、茎の中へ閉じ込められていたために、彼女たちの身体では「植物には必要のないもの」が少しずつ退化していた。
目は必要ない。
鼻も必要ない。
耳も必要ない。
口など、もちろん必要ない。
叫びたい。
それなのに、彼女たちにはもう、声を出すための口さえ残されていなかった。
セルリナが我に返った時には、頬に涙が伝っていた。
もしあの時、ジャスミーヌが自分を見つけてくれなかったら。
もしそのまま国外へ売り飛ばされていたら。
自分も、同じ姿になっていた。
これは、本来なら自分が辿るはずだった結末なのだ。
セルリナは俯き、自分の右胸から伸びている無数の桃色の糸を見つめた。
悲しみ。
痛み。
怒り。
さまざまな感情が頭の中で絡み合い、引き裂き合い――
最後には、一つの強烈な衝動へと変わった。
セルリナは、一本ずつ桃色の糸を断ち切り始めた。
一本切るたびに、その動きは速くなる。
一本切るたびに、一つの悲鳴がセルリナの意識から消えていく。
「助けて。」
――消えた。
「お母さん……」
――消えた。
「日本に帰りたい……」
――消えた。
「殺して。」
――消えた。
最後に残ったのは、静寂だけだった。
美しい静寂。
安らぎをもたらす暗闇。
セルリナの隣では、ジャスミーヌがすでに大半の黒い糸を処理し終えていた。
ジャスミーヌは、面倒事を後回しにするのが嫌いな性格だった。
学院に通っていた頃も、与えられた課題は必ずその日の夜までに終わらせていた。
この復讐のためだけに二年も待たされたこと自体が、すでに彼女の忍耐をほとんど使い果たしていた。
その間、胸の奥から込み上げてくる怒りをどうしても抑えられない夜には、机に向かい、自分で作った復讐計画を何度も読み返しては書き直した。
だから今さら、少しでも先延ばしにするつもりなどない。
黒い糸の先に繋がった人々は、今も何も知らず、それぞれの日常を楽しんでいる。
自分たちに何が起ころうとしているのかも知らずに。
残っている黒い糸は、もう多くなかった。
触れて確かめる必要さえない。
向こう側に誰がいるのか、ジャスミーヌには簡単に想像できた。
第三王子。
ジェイド王子。
マリー。
エルンスト。
ジャスミーヌは、その黒い糸に指先でそっと触れた。
その動作は、むしろ優しいとさえ言えるほどだった。
残る問題は、たった一つ。
―誰から始めようか。




