陽が沈む前の花嫁たち
「どうして、そちらの婚礼ではそんなに大量の金飾りを用意するの?」
ジャスミーヌは怯えたような目でアンナを見た。
そのアンナは今、巨大な金色の冠を両手で掲げている。
冠には紫晶花、巨大な怪物、そして天空を流れる雲の意匠が彫り込まれていた。
一つ一つの彫刻は見事なのに、それらがすべて組み合わさると、どこか言葉では説明しにくい異様さがあった。
「それを被ったら、私の首が折れるわ!」
アンナは心底残念そうな顔をしながら、冠をそっと下ろした。
「これは神話にならったものなの。」
「伝説では、闇の神が天から降りてきて、まだ人間だった頃のウィルミナ女神と出会った時、彼女の故郷へ黄金をもたらしたんだって。その黄金を礎にして、後の果てなき部族が築かれたの。」
「なるほど……。」
ジャスミーヌはようやく納得して頷いた。
今の彼女の頭には、紫晶花と小さな花々を編み込んだ花冠が載せられ、耳や手首にも金色の装飾品がいくつも輝いている。
華やかでありながら、どこか神秘的な姿だった。
「よし、それじゃあもう一人の花嫁のところへ行こう!」
「馬車でも少しかかるから、中に飲み物とお菓子を用意してあるよ。」
「待って。」
ジャスミーヌが不安そうに口を挟んだ。
「婚儀は、どこで行うの?」
少女たちは一度顔を見合わせ、それから声を揃えた。
「海辺!」
ジャスミーヌは、以前アンナと街を歩いた時に感じた、わずかに潮の混じった湿った匂いを思い出した。
―やっぱり、この土地は海に面しているのね。
ジャスミーヌは外から来た人間であるため、馬車の窓には厚い幕が下ろされていた。
外の景色を見ることはできなくても、馬車が進むにつれ、周囲の環境が変化していくことは分かった。
やがて道は少しずつ上り坂になり、車輪の下も次第に荒れていく。
砕けた石や濡れた落ち葉を踏み越える音が車体の下から響き、湿った土と草木の匂いが車内へ流れ込んできた。
しばらくすると、今度は道が下り始めた。
そして、潮の香りを含んだ湿った海風が、窓の隙間から入り込んでくる。
風に煽られ、窓を覆っていた幕がふわりと揺れた。
今にも外の景色が覗きそうになる。
「もう開けてもいいよ。」
アンナはそう言うなり、勢いよく幕を引いた。
ジャスミーヌの目の前に広がったのは、息を呑むほど壮大な海だった。
空は澄み切った淡い青。
果てしなく広がる青の中に、わずかな白い雲だけが浮かんでいる。
その淡い空と境界を接するように、深い青の海が広がっていた。
けれど、ただ「深い青」と呼ぶだけでは足りない。
その海は一つの色には属していなかった。
緑。
紫。
黒。
そして深い藍。
あらゆる色を、その大きな水面の中へ抱え込んでいるように見えた。
窓の向こうには、海だけではない景色も広がっている。
山間を縫うように伸びる川。
澄んだ水はそのまま遠くまで流れ、やがて海へと注いでいた。
今はちょうど引き潮らしく、防波堤の向こうでは岩礁が姿を現し、その間にできた浅瀬を色鮮やかな魚や小さな生き物たちが泳いでいる。
何人もの子どもが、小さな桶や釣り竿を手に、夢中になって浅瀬を覗き込んでいた。
ジャスミーヌは魅入られたように、その景色を眺めた。
「綺麗でしょう?」
隣に座っていたアンナが尋ねる。
「昔、私たちの祖先が船でここへ辿り着いた時、この景色を見て、すぐに『ここが自分たちの行き着く場所だ』って分かったそうよ。」
「本当に、綺麗……。」
ジャスミーヌは素直に頷いた。
道の終わりで、馬車は止まった。
少し離れた平屋の前では、ジュリアたちが、一人のヴェールをまとった少女を囲んで待っていた。
「セルリナ!」
ジャスミーヌは親友のもとへ駆け寄った。
セルリナは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
頭には腰まで届く淡い桃色のヴェールをかぶっている。
縁には繊細な金糸の刺繍が施され、小さなスパンコールや珠飾りが散りばめられていた。
ヴェールの内側には、紫と金の糸で紫晶花の意匠が丁寧に縫い込まれている。
ジャスミーヌが身につけている紫色のストールと、ちょうど一揃いになるような意匠だった。
真珠王国の伝統衣装を身につけたジャスミーヌとは対照的に、セルリナが着ているのは果てなき部族の白い長衣だった。
裾には紫色の花模様が広がり、その上からは、以前からずっと身を包んでいた、ジャスミーヌが贈ったショールを羽織っている。
「こんなに綺麗なヴェールを作ってくれたのに……私があなたに作ろうとしてた方は、結局、完成させられなかった……。」
セルリナはしょんぼりと俯いた。
彼女が言っているのは、今も住まいの机の上に置かれたままになっている、桃色の花を刺繍した白いヴェールのことだった。
婚儀を行うことが決まってから、セルリナはどうにか完成させようとしていた。
けれど、最後まで仕上げることはできなかった。
身体が日に日に弱っていったからだけではない。
針と糸を手に取るたびに、自分にはもう決して訪れない結婚式のことを思い出してしまう。
そして、無理やり奪われた未来のことも。
ジャスミーヌには、セルリナが何を言いたいのか分かっていた。
彼女は、あの者たちを決して許さない。
ほんの軽い気持ちで下された決断によって、セルリナは心にも身体にも、取り返しのつかない傷を負わされた。
とりわけ、《羊の花》の種を植え付けられたことだけは、ジャスミーヌには到底許せなかった。
もし《羊の花》さえなければ。
セルリナは、いつか少しずつ回復できたかもしれない。
たとえ二度と以前と同じ自分には戻れなくても、少なくとも生き続けることはできた。
新しい場所へ行き、新しいものを見て、新しい誰かと出会うことだってできたはずだ。
けれど、《羊の花》はそのすべてを奪った。
セルリナに残されていた、あらゆる選択肢を。
これまで、《羊の花》を植え付けられた者の中で、生き延びた者は一人もいない。
セルリナと共にここへ連れてこられた女性たちも、全員が半年以内に命を落とした。
残ったのは、セルリナだけだった。
その少し離れた場所で、年老いた女祭司カロリンは満足そうに二人を見つめていた。
怒り。
悲しみ。
悔しさ。
哀しみ。
感情が強ければ強いほど、効果は高まる。
痛みが深ければ深いほど、儀式はより完全なものになる。
―かつて、《涙の聖女》が行ったあの時と、同じように。




