戦いの残響
ヨウタは少し離れた場所に立ち、遠ざかっていくギルドの一行と、涙を流しながら遺体を片づける兵士たちを見つめていた。
彼は当初、遺体を火葬して灰にし、その一部を拾って袋や瓶へ入れ、遺族へ返してはどうかと提案していた。
だが、兵士たちはそれを拒んだ。
ディマン王国の兵士にとって、遺体は損なわれたままでも、できる限り完全な形で大地へ還すべきものだった。
そして小指を持ち帰るのは、故郷へ戻れなかった死者の一部だけでも、家族のもとへ帰すためだった。
泣きながら仲間を弔う兵士たち。
そして、先ほど目にしたノーマンとエイデン親子の姿。
それらを眺めながら、ヨウタは何年ぶりかに、自分の家族を思い出していた。
彼らは、自分を恋しく思っているのだろうか。
これまでヨウタは、そんなはずはないと思っていた。
彼の両親は高慢で、視野が狭く、それぞれが自分の専門分野という象牙の塔へ閉じこもっていた。
子どもと関わろうともせず、互いに顔を合わせようとすらしなかった。
父親はいつも研究室に籠もり、母親は資料で埋め尽くされた書斎に自分を閉じ込めていた。
家族全員が同じ家にいても、食卓に二人以上が同時に座ることはほとんどなかった。
兄と姉も成長すると、それぞれ海外の大学へ渡り、「学問」という名の別の城へ逃げ込んだ。
彼らは、自分を思い出すことがあるのだろうか。
突然姿を消した自分がどこへ行ったのか、今も考え続けているのだろうか。
ソラなら、当然家族を恋しく思うだろう。
ソラの両親は平凡だった。
家族向けの宣伝ポスターに載っていそうなほど、どこにでもいる普通の夫婦。
子供たちの前では、まるで誰かに報酬をもらっているのではないかと思うほど、いつも楽しそうに笑っていた。
ソラには、少年漫画からそのまま抜け出してきたような弟もいた。
頭の中にあるのはバスケットボールと、兄の後ろをついて回ることだけ。
きっと、そんな家族がいたからだ。
この世界へ来てからも、ソラはずっと「家へ帰りたい」「ここから出たい」と言い続けていた。
……それでは、自分は?
ヨウタは生まれて初めて、その問いと真剣に向き合った。
自分は本当に、家へ帰りたいのだろうか。
家族は今も、自分を捜しているのだろうか。
一度でも、もっときちんと自分の子供を見ておけばよかったと、後悔したことがあるのだろうか。
――いや。
そんなことは重要ではない。
ヨウタは、浮かび上がった疑問を無理やり心の底へ押し戻した。
「神」の命令どおり、名簿に記された十人を殺せば、時間は巻き戻る。
異世界へ召喚される前まで戻り、すべてをなかったことにできる。
そして今日。
彼はすでに、二人目の名前を終わらせた。
―マイケル・フリーマン。
「リストの二人目の死亡を確認。残るは八人。」
神はそう告げた。
ヨウタが何より嫌悪していたのは、その姿の見えない自称・神が口を開くたび、その声が本物の人間とまったく変わらないほど鮮明に耳へ届くことだった。脳が生み出した幻聴だと、自分に言い聞かせることさえできない。
「残り八名。十名すべてが死ねば、お前は召喚される前の時間へ戻る。」
ヨウタには信じる以外の選択肢はなかった。
「信じる」という行為は、これほど美しく、そしてこれほど残酷なものなのだ。もしこの希望さえ偽物だったなら、自分にはもう生き続ける理由など残されていない。
若い兵士が三人、出来たての温かいスープと水をヨウタのもとへ運んできた。
食事を受け取ったタイミングで、ヨウタは口を開く。
「俺も遺体の身元確認と埋葬を手伝いたい。案内してもらえないか?」
三人は少し驚いたように顔を見合わせる。
「魔物の王の死体は、あまりにも穢れていて危険だろう。ああいう穢れを焼き払うなら、俺の炎のほうが役に立つ。」
その言葉を聞いた兵士たちの表情は、一気に明るくなった。
―勇者様が、自分たちと一緒に来てくださるのか。
―命令するのではなく、自ら手伝ってくださるなんて。
彼らは、日輪の勇者がこれほど部下を気遣う人物だとは思っていなかった。
実際、魔物の王の遺体はあまりにも異様で、不気味だった。
誰もが恐ろしく感じており、最後まで手をつけるのをためらっていたほどだ。
勇者が力を貸してくれるというのなら、これほど心強いことはない。
もっとも、彼らは知らない。
ヨウタが本当に確かめたいものは、別にあったことを。
ヨウタは満足そうに小さく頷いた。
療養の時間を利用して、この兵士たちと親しくなっておく。
今後のことを考えれば、そのほうが都合がいい。
ふと思い出したように、彼は続けて尋ねた。
「ジェイド王子はちゃんと天幕にいるのか?」
若い兵士三人は顔を見合わせ、誰が答えるべきか迷っているようだった。
その瞳に浮かぶ、まだ若さゆえ隠し切れない憎しみを、ヨウタは見逃さなかった。
「は、はい……勇者様。ちゃんと、ぐっすり眠っていただいております。」
「ええと、その……祖母の秘伝を少々使いまして。」
「ご安心ください、勇者様! うちの村じゃ祖母の薬は有名なんです。どんな大イノシシでも、その毒を塗った矢が当たれば一発で気絶します!」
「ほ、本当に眠ってるだけです! 保証します!」
ヨウタは半信半疑で三人を見つめた。
「呼吸と脈は安定しているんだな?」
三人は一瞬だけ黙り込んだあと、まるで打ち合わせでもしていたかのように一斉にうなずいた。
「もちろんです! いびきまでかいてます!」
ヨウタは追及しなかった。
生きてさえいれば、それで十分だった。
まずはソルの無事を確認し、そのあとでジェイド王子の様子を見に行けばいい。
ジェイドが最後に叫んだ言葉が、再び脳裏によみがえる。
―メアリーが言ったんだ。夢の中で一冊の本を読んだって。
―その本の題名は『日輪の勇者、最後の戦い』! そこには、お前が魔物の王の毛皮の秘密を見抜き、その毛皮を剥いで倒すけど、お前自身も死ぬって書いてあった!
魔物の王―いや、マイケル・フリーマンは死んだ。
だが、ヨウタは生き残った。
皮膚も毛皮も激しく腐敗し、肉体そのものも著しく損壊していたため、生前どれほどの改造を施されたのかは、もはや知る術がない。
だが、一つだけ確かなことがある。
魔物の王の毛皮は本質ではない。
せいぜい改造の一部に過ぎなかった。
あんな曖昧な夢を信じ込み、勝手に森へ踏み込み、護衛全員と、貴重な情報を握っていたかもしれない侍女まで死なせたジェイドの愚かさを思うと、笑いすら込み上げてくる。
メアリーの夢とは、一体何だったのか。
予知夢か。
それとも、自分の元いた世界のネット小説にあるような、転生ややり直しといった類なのか。
よりにもよって、死んだのが彼女だったのは惜しかった。
まあいい。
ソルや負傷兵たちの治療を理由に、数日はここへ留まれる。
それまでに、王子の口を割らせる方法くらい見つけられるだろう。
三人の兵士は道中ずっとじゃれ合いながら歩き、ヨウタをソルの天幕まで案内した。
面白いものだ、とヨウタは思う。
さっきまで仲間の遺体の前で泣き崩れていた者たちが、親しい者の無事を知っただけで、また笑っている。
この三人は幸運だった。
同じ故郷から来た友として、そろって生き残ることができた。
だが、次の戦いでは、三人とも帰って来られる保証などどこにもない。
「ここまででいい。みんなのところへ戻って片付けを手伝ってこい。」
三人は嬉しそうに敬礼すると、遺体の収容を続ける兵士たちのもとへ駆け戻っていった。




