異物は消えない
主要戦力が倒れた!
こっちは持ちこたえたのに、一番重要なあっちが大変なことになってる!
……待てよ。
あそこが口だったのか?
じゃあ、あの頭の上にある巨大な塊はいったい何なんだ?
エイデンは魔物の首を鮮やかにもう一体斬り落としながら、頭の中で必死に考えていた。
突然の展開に、ロイたちの戦闘のリズムはわずかに乱れた。
だが、指示は必要なかった。
三人は互いに目を合わせただけで、次に何をすべきかを理解していた。
ノーマンは腰のポーチから球状の魔道具――魔法爆弾をいくつも取り出し、安全装置を外すと、魔物の王の口の中へ正確に投げ込んだ。
異物が口内へ飛び込んできたことに気づいた魔物の王は、反射的に口を固く閉じる。
その一瞬を逃さず、タチバナは魔物の王に巻き付いていた巨大な蔓を強く締め上げ、その巨体を拘束した。爆弾を吐き出す暇すら与えない。
次の瞬間、魔法爆弾が口内で炸裂した。
腐り落ちた口腔が内側から弾け飛び、大量の血と腐肉が四方へ飛び散る。崩れかけた上下の顎はほとんど吹き飛び、わずかな蒼白い皮膚だけで辛うじて繋がっていた。
その裂け目の奥で――
エイデンは、腐肉の深部から白い何かが一瞬だけ覗いたような気がした。
初めてだった。
魔物の王が倒れた。
激痛にもがくように、巨大な肉塊は地面をのたうち回る。
黄緑色の膿。
鮮紅の血。
そして白い蛆虫。
それらが無数に傷口から零れ落ち、周囲の緑の草原を、枯れ果てた不毛の大地へと変えていった。
ロイは植物の壁を構成していた蔓をわずかに緩め、その配置を変えて、先ほど吐瀉物を浴びた兵士たちを内側へ引き込む。
「まだ息がある者を先に引き込め! 急げ!」
植物は素早く左右へ分かれ、生存者だけを後方へと運んでいく。
全身に吐瀉物を浴びた兵士のほとんどは、すでに肉体が溶け、息絶えていた。
ソールのように四肢の一部を失った程度で済んだ者だけが、辛うじて救命できる状態だった。
一方その頃。
エイデンとヨウタの連携によって、魔物の王が呼び寄せた魔物たちは、ほぼ殲滅されていた。
エイデンがふとヨウタを見ると、ヨウタもまた、倒れた魔物の切断面をじっと見つめている。
その表情は異様なほど冷静だった。
だが、それは初めて真実を知った者の顔ではない。
秘密を知って驚いた者ではなく――
ずっと疑っていたことを、ようやく確信した者の表情だった。
ヨウタが何を見たのか、エイデンには分からない。
だが一つだけ確かなことがある。
ヨウタもまた、魔物たちの毛皮の下に隠された秘密に気づいている。
だからこそ、エイデンは気になった。
ヨウタは、この真実を前にして、どう動くのだろうか。
しかし、魔物の王の再生力は常軌を逸していた。
しばらくすると、あの腐肉の塊が再び脈打ち始める。
その巨体の奥深くで、強靭な心臓が再び鼓動を刻み始めた。
巨大な頭部の下に埋もれていた、あまりにも細い四肢が再び動き出し、巨体を支えようと持ち上がる。
「……王族……」
魔物の王は低く唸った。
その声には、砕け散ったような弱々しさが滲んでいた。
ヨウタとエイデンはロイたちのもとへ駆け寄り、再び魔物の王を見据える。
「そういえば……レインはどこへ行った?」
不意にロイが口を開いた。
その声にはまだ力がなく、タチバナに身体を支えられながら立っている。
レインはもう……ずっと昔に亡くなったのではなかったか。
誰もが怪訝そうな顔でロイを見る。
「覚えているか? レインの遺体は剣へと錬成され、魔物の王を封印するために使われた。」
その言葉を口にした瞬間、ロイの表情が初めて変わった。
「……あの剣は、どこにある?」
エイデンは一瞬、言葉を失った。
剣……?
その瞬間、先ほどの爆発で魔物の王の口が裂けたとき、一瞬だけ見えた白い物体が脳裏によみがえる。
そして、不意に昔の記憶が蘇った。
十二歳のある日。
王妃エリカとヒルダがナオミ・フリーマン夫人を訪ねることになり、エイデンとティムも一緒に連れて行かれた。
時間が空いたとき、ナオミ夫人は、自ら新設した部署――創傷処置科の役割について二人に説明してくれた。
「傷は、きちんときれいにすることがとても大切なの。痛くても、中に残った異物はできるだけ取り除かなければいけないわ。」
ナオミはそう言った。
「もし取り除かなかったら、どうなるの?」
ティムが興味深そうに尋ねる。
「傷はいずれ治るわ。新しい筋肉や皮膚も生えてくる。」
「でも、中に残った異物は?」
「異物は消えないの。」
ナオミは静かに答えた。
「新しくできた筋肉や皮膚が、その異物を何層にも包み込んでしまうの。」
ナオミは一瞬だけ黙り、窓の外へ視線を向けた。
そして、すぐにいつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべる。
「そうして最後には、身体の中に残り続けて、ゆっくりと慢性的な炎症や痛みになっていくのよ。」
エイデンは再び魔物の王を見上げた。
もし本当に異物が新しい肉や皮膚に包み込まれていくのだとしたら――
あの剣は、いったい魔物の王のどこに埋もれているのだろうか。




