見つめられなかった男
歌はジェイド王子の天幕にも届いていた。
天幕の中はすでに見る影もないほど荒れ果てている。ジェイドは怒りに任せ、壊せるものはほとんど叩き壊してしまっていた。
メアリーを除く護衛たちは、とっくに無言のまま天幕を後にしていた。
彼らが命令を受け、給金を受け取っている相手はソロモン皇太子であって、ジェイド王子ではない。ジェイドはこれまで彼らの忠誠を勝ち取れるほどの功績を立てたわけでも、相応の恩賞を与えたわけでもなかった。
ジェイドの護衛になる前、彼らはある噂を耳にしていた。
――ジェイド王子は嫉妬深く、自分のそばから男女すべての使用人を追い払い、メアリーだけを傍に置いている。
その話はディマン王国ではよく知られており、未婚の少女たちの間では「一途な愛」の象徴として憧れられていた。
最初こそ護衛たちもその噂を信じていた。
しかし実際に仕えてみれば、誰もがすぐに理解した。
―あれは、愛などではない。
メアリーがジェイドへ向ける眼差しには、隠しようもない恋慕が宿っている。
だが、ジェイドがメアリーを見る目も、その接し方も、忠実で優秀な猟犬に向けるものに近かった。
命令を果たせば褒美を与える。
果たせなければ、容赦なく叱責する。
二人の歪んだ関係に、護衛たちは薄ら寒さを覚えていた。
だから誰一人として、この男女にはあまり近づきたくなかった。
天幕に残った二人は、護衛たちが立ち去ったことにすら気づいていない。
ジェイドはなおも怒りをぶつけるように手当たり次第に物を投げつけ、メアリーはただその場に腰掛けたまま、遠くから聞こえてくる歌に聞き入っていた。
「全部あいつらのせいだ! あいつらはみんな、俺を見下している!」
ジェイドは怒鳴り散らした。
野鹿を魔物の王と勘違いするという失態を犯したこと。
そして勇者ヨウタに何度歩み寄っても相手にされなかったこと。
その二つが重なり、彼の精神はひどく不安定になっていた。
彼は苛立ちのままティーカップを壁へ叩きつける。飛び散った紅茶は、メアリーが丁寧に畳んで脇へ置いていた衣服を汚した。
「母上と祖父上が無能だったせいで、俺は幼い頃から女として生きるしかなかった! でなければ、こんな屈辱を味わうこともなかったのに!」
ジェイドが何よりも嫌悪していたのは、人から見下されるような視線だった。
彼の記憶の中で、最初にそんな目を向けてきたのは、母であるヴィクトリア側妃だった。
ヴィクトリアはいつも、傷ついた小動物でも見るような憐れみの眼差しで彼を見つめ、優しく囁くのだ。
「いい子だから、ちゃんと女の子を演じるのですよ。あなたは生まれつき美しいのだから、その美しさを上手に使って人に愛されなさい。そうでなければ……あなたのように弱い子は、生きていけないのですから。」
別荘の使用人たちも同じだった。
真実を知ってからというもの、彼らは哀れみと嘲笑の入り混じった表情を浮かべ、ジェイドの見えないところでひそひそと噂話を交わしていた。
誕生日になるたび、皇太子である父は、美しいドレスや甘いケーキ、そして宝石のように輝く装飾品を贈ってきた。
父が別荘を訪れる日になると、ヴィクトリア側妃は甘えるように夫へ寄り添いながら、ジェイドに命じる。
「早く着替えなさい。」
そう言われるたび、ジェイドは耐え難い屈辱を覚えた。
それでも母の命令には逆らえない。
父にも、周囲の誰にも、自分が男であることを知られてはならなかった。
皇太子の意向どおり、使用人たちが彼にその衣装を着せ、髪を整え、宝飾品を身につけさせるたび、ジェイドには彼らの視線がはっきりと見えていた。
笑いを堪えながら、それでもどこか哀れむような、あの眼差しが。
その中でも、メアリーはとりわけ露骨だった。
初めて出会った日、メイド服姿のメアリーは、彼を見下すような目で見つめ、その後も隠そうともせず彼を虐げ続けた。
ところが、ある日を境にメアリーは突然変わった。
まるで別人になったように、話し方も、立ち居振る舞いも、表情も、物事の考え方までも一変した。
新しいメアリーは、不思議なほど母によく似ていた。
だが、一つだけ変わらなかったものがある。
―あらゆることを知っているとでも言いたげな、あの人を見下すような眼差しだけは。
真珠王国の学院でも同じだった。
彼の周囲に群がる貴族の青年たちは、その美貌に魅了され、「秘密の姫君」から欲しいものをすべて手に入れようとし、自分なら彼女を思いのままにできると信じて疑わなかった。
ただ一人だけ、そうではない女性がいた。
彼女は一度も、そんな目でジェイドを見たことがなかった。
彼女の接し方は、他の級友たちと何も変わらない。
彼女の視線はいつも、大切な友人たちへ向けられていた。
ジェイドが彼女の婚約者――あの思い上がった王子を誘惑したときでさえ、彼女はなおジェイドへ目を向けようとはしなかった。
だからこそ、メアリーが公爵家の息子を唆し、あの白い花のように儚く、ひどく病弱な少女を傷つけようとしたとき、ジェイドは止めなかった。
(これでようやく、あの女も今までとは違う表情を見せるだろう。)
そう思ったのだ。
だが結局、あの日以来、彼女が真珠王国へ戻ってくることは二度となかった。




