第93話 <大都の夜>
大都の街。
夕暮れは終わり夜の帳の降りた街には無数の灯がともる。
人通りは多い。
露店。
飲食店。
行商人。
旅人。
近くには歓楽街もある。
昼以上に賑わっているところもあった。
ヨウドはローブを深く被って歩いていた。
飛行帽。
飛行眼鏡。
明細フェイスマスク。
機械の顔を隠している。
そして軍服。
そこからのぞく機械の身体。
いずれもこの社会では未知のものだ。
そこはローブを被って隠す。
しかし傍から見ると明らかに怪しい。
だがヨウドはつぶやく。
「変装は完璧である」
「吾輩はかっこいいのである」
誰も聞いていない独り言だった。
その時。
「おっちゃん」
子供の声。
振り向く。
少年がヨウドを見ていた。
「その格好暑くない?」
「それに何か変だね」
「怪しいよ!」
ヨウドは考える。
「暑い」
「だよね」
「変なミイラのおっちゃん!」
少年は笑いながら走り去っていった。
ヨウドは少しだけ肩を落とした。
「子供の言うことである…」
しばらく歩き続ける。
いい店があった。
酒屋。
ヨウドの目が光る。
「補給地点発見」
迷わず入店した。
棚を見回す。
瓶。
瓶。
また瓶。
実に素晴らしい光景だった。
「これである」
「うむ。糖や酸も少ない」
「高度数の蒸留酒」
「発電用に最適である」
一本手に取る。
その時だった。
店の奥から男達の話し声が聞こえた。
「聞いたか?」
「また人が消えたらしい」
ヨウドの耳が反応する。
無意識に動きを止めた。
「今度は城南街だ」
「商人らしいぞ」
「最近多いな」
「役所も知らん顔だ」
男達は声を潜める。
「魔物じゃないか?」
「だったら死体くらい残るだろ」
「じゃあ何だよ」
誰も答えない。
沈黙。
ヨウドは黙って話を聞いていた。
行方不明者。
旅人。
商人。
断片的な情報だが何かが頭の中で繋がり始める。
「状況悪化傾向である」
ヨウドは小さく呟いた。
◇ ◇
一方。
宿。
リンは窓際に座っていた。
大都の夜景が見える。
大きな街だった。
どこを見ても灯りがある。
だが。
いま、部屋にいるのはリンひとり。
クロウも気が付けばいなくなっていた。
森から逃れようやく落ち着いた。
少し余裕ができた。
とたんにハンスやミリア、フロムのことが気になりだした。
「クロウは無事って言っていた」
「すぐにみんなここに来る」
「今すぐにだって顔を出すかもしれないわ」
リンは部屋で一人つぶやく。
その時。
コンコン。
扉が叩かれた。
リンは立ち上がる。
心臓が跳ねた。
「まさか!?」
急いで扉を開く。
だが、そこにいたのは宿の従業員。
「夕食です」
「……そう」
リンは少しだけ肩を落とした。
従業員が不思議そうな顔をする。
だが何も言わず去っていった。
リンは静かに扉を閉める。
窓の外。
大都の灯が揺れていた。
どこかで。
ハンスが歩いている。
フロムとミリアも。
きっと同じ空の下にいる。
リンは小さく息を吐いた。
「待っている」
誰に向けた言葉でもなかった。
夜はまだ長かった。




