第92話 <エース商会>
「こちらへどうぞ」
アルマイトが案内をする。
「フサール支店からも連絡が来ています」
リンは少し安心した。
ここまでのところ、ちゃんと話は通っているように思える。
「ふむ」
「すぐに捕まる訳ではなさそうである」
ヨウドも答える。
奥の会議室に入った。
アルマイトはリンらの正面に座る。
「お立ち寄りくださって有難うございます」
「ボロン会長より連絡をもらっています」
「ハン王国の王都へは寄られなかったのですね」
「ええ」
「色々あって」
リンが答える。
「それが正解だったかもしれません」
「最近は少々きな臭いもので」
アルマイトは苦笑した。
リンが首を傾げる。
「何かあったのですか?」
「輸出停止です」
職員が肩をすくめた。
「突然ですよ」
「こちらにも理由は説明されません」
「以前から役人の権限が強い国でしたが」
「最近は特に酷い」
ヨウドが呟く。
「状況悪化傾向である」
「全くですね」
アルマイトも同意した。
そして再び紹介状を見る。
「あれ?」
「一行は三人と聞いていましたが」
「二人ですか?」
リンの表情が曇る。
「本当は四人よ」
「途中で仲間とはぐれてしまったの」
「でも」
「ここで合流する約束をしているわ」
アルマイトは穏やかに頷いた。
「そうですか」
「では来られたらすぐにお伝えします」
リンの肩から力が抜ける。
少なくとも。
待つ場所はある。
それだけでも救いだった。
「宿は決まっていますか?」
「必要でしたらご紹介します」
「少し待っていてください」
アルマイトは立ち上がる。
そして思い出したように振り返った。
「そうそう」
「お気を付けください」
リンが首を傾げる。
「何を?」
アルマイトは少し声を落とした。
「人が消えるんです」
「旅人」
「商人」
「労働者」
「最近は街の中でも行方不明者が増えていましてね」
リンとヨウドは顔を見合わせる。
大都に来る途中で会った隊商の言葉が脳裏をよぎった。
『旅人が丸ごと消えることもある』
偶然とは思えなかった。
「気を付けます」
リンはそう答えた。
◇ ◇
その日の夜。
紹介された宿へ入る。
久しぶりに安心できる場所だった。
ヨウドは壊れた脚を机に乗せている。
リンは工具を手に取る。
ヨウドに近づく。
「足を見せて」
「む?」
「いいから」
ヨウドは少し驚いた顔をした。
「識別名リン」
「救護兵であったか」
「違うわよっ」
リンは工具を握る。
「でも何となく分かるの」
不思議だった。
習った記憶はない。
だが。
配線。
歯車。
接続部。
見るだけで理解できた。
自然に手が動く。
ネジを締める。
切れた配線をつなぐ。
外装は直せない。
だが内部機構は動くはずだ。
やがて。
「これでどう?」
ヨウドが脚を動かす。
一歩。
二歩。
問題ない。
「うむ」
「良好である」
そう言った後。
壊れた装甲を見下ろした。
「中身がむき出しなのが恥ずかしいのである」
リンは思わず笑った。
クロウが言う。
「飛行帽」
「飛行眼鏡」
「ローブ」
「いずれにせよ奇妙だ」
「いまさら何を言うか」
「鳥!」
ヨウドが指を差した。
「口を閉じるである!」
「ヨウドは何を着ても似合うのである!」
そう言い残し。
自由に動くようになった右足をうれしそうに動かす。
「散歩――いや周辺警備をするである」
そのまま宿の外へ出ていった。




