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崩壊世界の再生人類  作者: Beta
大陸編「大都への道」

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第88話 <別れ>

谷を抜ける風が吹いていた。

夕暮れ。

赤く染まった岩肌が長い影を落としている。

ハンスはクレイモアを肩に担いだまま歩いていた。


全身が痛い。

腕も脚も傷だらけだった。

だが歩ける。

それだけで十分だった。

少し後ろではケイも歩いていた。

右脚はまだ完全ではない。

足を引きずりながら、それでも黙って前へ進んでいる。


二人の間に会話はなかった。

川の音も遠ざかり、代わりに谷を抜ける風だけが耳に残る。


やがて。

目の前の景色が開けた。


草原。

遠くには森。

さらにその先へ。

大都へ続く道が伸びていた。


ハンスは立ち止まった。

大きく息を吸い込む。


「やっと出られたな」


返事はない。

ケイはただ街道を見つめていた。


その時だった。

何かがやってくる。

車輪の音


ケイがじっと見る。

ハンスも見る。

二頭立ての馬車だった。


やがて馬車はすぐそばまでやってきた。


風が舞う。

最初に降りてきたのはリードだった。

そしてスタン。

ミズカネ、カドメイアが続く。


「ケイ」


短い呼びかけ。


ケイは即座に姿勢を正した。

「任務続行可能」


いつもの口調だった。

谷底で見せた表情はどこにもない。

リードの視線がハンスへ向く。

空気が変わった。


黒い兵士達が武器を構える。

ハンスもクレイモアを握った。

だが誰も動かない。

風だけが二人の間を吹き抜けていった。


「何があった」

リードが聞く。


ケイは少しだけ沈黙した。

「谷へ落下」

「極光軍と交戦」

「脱出した」


それだけだった。


「EXは」

リードの声が続く。


ケイは答える。

「谷への落下へとともに見失った」

「負傷により追跡断念」

「部隊との合流を優先した」


沈黙。


夕暮れの風が吹く。

草が揺れる。

リードはしばらくケイを見つめていた。

そして小さく息を吐く。


「そうか」


それ以上は追及しなかった。


だがスタンが前へ出る。

「待て」

「こいつを今ここで捕まえればいい」


ミズカネも嬉しそうに頷く。

「そうだそうだ」

「一人だけだ」

「死んじゃえ」


黒い兵士達がゆっくり前へ出る。

ハンスはクレイモアを構えた。

勝てる相手ではない。

それくらい分かっていた。

だが。


退くつもりもなかった。

その時だった。


「やめろ」

ケイが前へ出る。


全員が動きを止めた。

スタンが眉をひそめる。

「何?」


ケイはハンスから目を離さない。

「現生人だ」

「廃棄以外の価値はない」

「ここで倒す意味がない」


静寂。


リードは黙ってケイを見る。

ケイは視線を逸らさない。

たった数秒。

だが長い沈黙が流れた。


やがて。

「出発する」

リードが言った。

「作戦は継続だ」


それで終わりだった。

誰も逆らわない。

兵士達は馬車へ戻っていく。

スタンは不満そうに舌打ちをした。

ミズカネも何か文句を言っていた。

だが命令には従う。

ケイも仲間も馬車へ向かう。

そして乗り込む直前。

一度だけ振り返った。


ハンスが立っている。

谷底で見たままの姿。

敵。

捕獲対象。

そう教えられてきた。

それなのに。


「次は」

小さく呟く。


ハンスが眉を上げた。

「何だ」


ケイは少しだけ考える。

そして言った。

「次は倒す」


短い言葉だった。

ハンスは笑う。

「やれるもんならな」


ケイは何も答えない。

スタンが鞭を入れる。

馬車は走り出した。


風が吹き荒れる。

草原が波打つ。

そして。

黒い兵士らは西へと消えていった。


静寂。


ハンスはしばらく馬車の消えていった方向を見つめていた。

やがて空を見上げ。

息を吐く。


「さて」


クレイモアを肩に担ぐ。

「リン達を探すか」


大都へ続く街道。

その向こうでは夕陽がゆっくりと沈み始めていた。


◇ ◇


馬車の中。

流れる景色を見ながらケイは座っていた。


「本当に見失ったのか」

リードが聞く。


ケイは視線を動かさない。

「谷に落ちてからはEXに接近する術がなかった」

「断続的に極光軍の攻撃も受け対処で精一杯だった」

「それに右足損傷による戦闘力の低下」

「あの男を倒すこともできなかった」


リードは黙っていた。

しばらくして。


「それだけか」


ケイは少し考える。

そして言った。


「ヤツに発信機を付けておいた」

「遠からずEXと合流する」

「追跡は可能だ」


ガタゴトと馬車の走る音だけが響く。

リードは外へと視線を向けた。


「それが理由で生かしたのか」


ケイは答える。

「ああ」


それだけだった。

リードはそれ以上、何も言わなかった。

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