第85話 <共闘1>
昼頃。
ハンスは川辺に生えている実を見つけた。
赤い実。
ひとつ口へ放り込む。
「酸っぺぇ」
ケイが見ていた。
「何をしている」
「飯だ」
「補給物資ではない」
「当たり前だ」
ハンスはもう一つ取る。
「食うか」
ケイは首を振った。
「不要だ」
ハンスが呆れる。
「腹減らねえのか」
ケイは少しだけ考えた。
「減る」
「じゃあ食え」
赤い実を投げる。
ケイは受け取った。
しばらく見ている。
まるで意味が分からない物を見るように。
そして。
渋々口へ入れた。
「……」
顔をしかめる。
「どうだ」
「酸っぱい」
「だろ」
ハンスにやりと笑う。
思わずケイも口元を僅かに動かした。
初めて。
ほんの少しだけ。
会話になった。
夕方。
谷は次第に狭くなっていく。
川も細くなる。
その時だった。
ケイが突然叫んだ。
「伏せろ!」
ハンスは考えるより早く伏せた。
次の瞬間。
バサァァァァッ!!
巨大な影が頭上を通過する。
魔鳥だった。
一羽。
いや。
二羽。
いや。
三羽。
低空飛行。
完全に発見された。
魔鳥が急降下する。
岩が砕ける。
ハンスが飛び退く。
「くそっ!」
魔鳥は再び空へ上がる。
ハンスとケイは岩陰に隠れる。
空を見上げた。
「最悪だな」
ケイが立ち上って戦おうとする。
だが。
足が崩れる。
地面に片膝をついた。
ハンスが眉をひそめる。
「無理すんな」
ケイは睨み返した。
「命令するな」
「じゃあ勝手にしろ」
少しだけ沈黙。
その間にも魔鳥空を舞い、隙あらば攻撃しようとする。
結局、ケイは立ち上がれなかった。
ケイは投擲剣を抜く。
「私はこれで攻撃をする」
「ああ、さっきも助かったぜ」
その言葉にケイは不思議そうな顔をする。
その時、一羽。
後方から川沿いに襲ってきた。
ハンスが気付く。
遅い。
鉤爪が迫る。
そして。
ハンスはケイへ体当たり。
二人とも転がる。
魔鳥の爪が岩を砕いた。
ケイは倒れたまま呟く。
「何故」
また同じ言葉だった。
ハンスは立ち上がる。
「何度も聞くな」
「何となくだ」
「死なれたら気分悪いしな」
再度、魔鳥が降りてくる。
二人は同時に武器を構えた。
巨大な嘴。
鋭い鉤爪。
ハンスが前へ出た。
クレイモアを構える。
「来い!」
魔鳥が急降下する。
ドォン!!
地面が砕けた。
直撃は避けた。
だが風圧だけで身体がよろめく。
敵同士。
それは変わらない。
だが。
今だけは。
目の前の化け物の方が優先だった。
魔鳥が旋回する。
空高く舞い上がる。
次の瞬間。
二羽同時に急降下した。
ハンスが反射的に動く。
一羽を避ける。
だがもう一羽。
正面。
避けられない。
ケイの投擲剣が飛ぶ。
銀閃。
嘴に命中する。
魔鳥の軌道が逸れる。
その瞬間。
ハンスが踏み込んだ。
「おおおおっ!!」
クレイモアが唸る。
血飛沫。
悲鳴。
魔鳥が地面へ叩き付けられた。
轟音。
土煙。
だが。
まだ二羽残っている。
二人は武器を構えた。
敵同士。
そのはずだった。
だが今だけは。
背中を預ける相手もまた。
その敵しかいなかった。




