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崩壊世界の再生人類  作者: Beta
大陸編「大都への道」

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第83話 <谷底>

10/25 この<谷底>から<別れ>までの話を<離散>から<交信>までの話と入れ替えました。

リンの話を先行させた方が流れがいい気がしたからです。

少し話の順序が変わっています。

ざあざあという水音が絶えまなく響いている。

冷たい水だった。


少し時を遡る。

崖下を流れる谷川。

ハンスは激しく咳き込んだ。


口の中に泥の味が広がる。

肺に入った水を吐き出す。

全身が痛かった。


「ぐっ……」


薄く目を開く。

谷底。


ハンスはゆっくりと身体を起こした。

右肩が痛む。

背中も痛い。

腕にも無数の擦り傷があった。

だが生きている。

それだけは分かった。


「ったく……」

「最悪だ」


起き上がって辺りを見回す。

どうやら川の中に落ちたらしい。

だんだん意識がはっきりとしてくる。


上を見る。

空は遥か遠い。

切り立った崖が両側にそびえている。

「あそこから落ちたのか」


少し先にハンスの大剣が沈んでいた。


「痛ててて」

立ち上がって大剣を拾う。

その時、近くで石が転がる音がした。


振り返る。

そして止まった。


人が倒れている。

半身川の中に沈んでいるが

黒い軍服。

黒い剣。

ケイだった。


ハンスはしばらく黙っていた。


「何でいるんだよ……」


そう言いながら近付く。

ケイは動かない。

死んでいるようにも見えた。

だが。

微かに肩が上下している。


生きていた。


ハンスは思わず息を吐く。

肩に手をやり水から出そうとする。


その瞬間。

ケイの瞳が開いた。


鋭い視線。

ハンスの手を払い反射的に剣を掴む。

立ち上がろうとする。


しかし。


「っ……!」


右脚が崩れた。

そのまま片膝をつく。

骨までは折れていない。

だがまともには歩けそうにはなかった。


しばらく沈黙。


二人は互いを見つめる。

敵。

その認識だけは変わらない。


ハンスは手を差し出す。

「ほら」

「起きろ」

「とりあえず水から上がろうぜ」


ケイはハンスを見る。

差し出された手。

しばらく無言で見つめる。

理解できないものを見るような目だった。


だが視線を自分の右足に移す。

ハンスの手をとった。


立ち上がるが一人では歩けない。


「捕まれ」

ハンスが肩を貸す。

二人は小さな岸辺にあがった。


ケイは座り込む。

ハンスはケイを警戒しながらも少し離れたところで上着を脱ぎ水を絞る。

体を拭き肩の傷を見る。


「たいしたことねえな」

あらためて上着を着なおして座る。


沈黙。

ざあざあという水の音だけが響く。

しばらくして先に口を開いたのはケイだった。


「何故だ」


短い言葉。

ハンスは眉をひそめる。


「何がだ」

「何故助けた」


谷底を風が吹き抜ける。

ハンスは少しだけ考えた。

そして肩をすくめる。


「知らねえよ」

「身体が勝手に動いただけだ」


ケイは理解できないという顔をした。

「理解不能だ」


「そうか」

「俺もお前らのことは理解できねえ」


再び沈黙。

水の流れる音だけが聞こえる。


やがて空が白み始めた。

日が昇った。

谷の全体が見えるようになった。

出口はない。

少なくともすぐに登れそうな場所は無かった。


ハンスが崖を見上げる。

「あいつらもう行っちまったかなぁ」


ケイは答えない。

その代わり。

剣を握り直した。

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