第82話 <交信>
岩山の上には静寂が広がっていた。
風だけが吹き抜ける。
遠くの平原には月明かりが落ちていた。
ミリアは眠っていた。
フロムの身体にもたれかかるようにして。
穏やかな寝息。
フロムは動かない。
ただ静かに周囲を警戒していた。
やがて。
そっと顔を上げる。
青い光が目の奥で明滅する。
<通信回線接続>
フロムの瞳が淡く青く輝いた。
「飛行型」
返事はない。
「飛行型」
呼びかけを続ける。
しばらくして。
ノイズ。
そして。
『飛行型だ』
クロウの声だった。
フロムは小さく息を吐く。
「ようやく繋がったわ」
『交信成功』
『地上移動型』
『生存を確認』
フロムが聞く。
「そっちの状況は?」
クロウは即座に答えた。
『識別名リン』
『機械兵』
『共に生存』
『現在大都へ移動中』
フロムの耳がぴくりと動く。
「良かった」
『飛行型が支援を継続』
『明日には大都到着見込み』
フロムは空を見上げた。
「ハンスは?」
一瞬だけ沈黙。
クロウが答える。
『水域へ落下』
『以降は不明』
『だが生存確率は高い』
フロムは目を閉じた。
予想通りだった。
だが、思ったほど悪い報告でもない。
「こちらは襲撃地点より西進」
「現在、大都南方向にある岩山の上」
フロムが周囲を見回す。
「平野部からの高さは二百メートルくらいかしら」
『飛行型も現在上空二百メートル付近を飛行中』
「だから繋がったのね」
クロウも理解したらしい。
『通信成立』
『地表の曲率から計算すると直線距離にして概ね100kmと推定される』
フロムは頷く。
「大都までの距離はわかる?」
『方角、高度、クロウとの距離より地上移動型の現地点を算出する』
『大都には二日程度で到達可能と思われる』
クロウが地図データを転送する。
フロムの視界に経路が表示された。
「なるほど」
「こっちから回るのね」
「助かるわ」
しばらく沈黙。
そしてフロムが聞いた。
「マザーとの通信は?」
クロウは即答した。
『失敗』
『同盟軍支配領域』
『長距離通信困難』
「そう」
夜風が吹く。
その時。
ミリアが寝返りを打った。
「んん……」
二頭は一瞬だけ会話をやめる。
起こしてしまうかと思った。
再びクロウから通信が届く。
『リンへの伝達を行う』
『地上移動型およびミリア』
『生存確認』
『南西方向より大都へ向け移動中』
「お願いね」
フロムは笑った。
「心配しているでしょうから」
『理解』
通信終了。
クロウの声が消えた。
再び静寂。
岩山の上には月だけが浮かんでいた。
フロムは遠くを見る。
大都の方角。
やがてフロムも目を閉じた。




