第80話 <フロムとミリア>
一方、魔物と爆炎に遮られ別行動となったフロムとミリア。
夜の森をひたすら走っていた。
背中のミリアは必死で毛を掴んでいる。
すぐに後方から唸り声が聞こえた。
グルルルル……
ギャウギャウ!
魔犬だった。
追いかけてくる。
だが距離は徐々に開いていく。
ミリアを乗せていてもフロムの移動速度は魔犬を大きく凌駕していた。
フロムは振り返らない。
ひたすら前へ。
木々の間を抜ける。
岩を飛び越える。
枝をかき分ける。
やがて。
前方が明るくなった。
森の出口だった。
フロムは最後の加速をする。
月明かりの平原へ飛び出した。
草原が広がる。
どこまでも続く夜の大地。
背後を振り返る。
魔犬達は森の縁まで追ってきた。
だがそれ以上は出てこない。
フロムが言う。
「振り切ったわね」
「リンたちに追いつくわよ」
「早く合流しなきゃ」
ミリアが大きく息を吐いた。
「助かったぁ……」
そして。
フロムの瞳が一瞬だけ青く光る。
ほんの一瞬。
「了解したわ」
小さく呟く。
ミリアが首を傾ける。
「どうしたの?」
「何でもないわ」
フロムは平然と答える。
良くわからない。
だがミリアはそれ以上聞かなかった。
フロムはひたすら平原を走る。
夜が明け始めた。
空が少しずつ白くなる。
やがて街道が見えた。
その横には川。
さらに向こうには小さな村。
煙突から煙が上がっている。
フロムは速度を落とした。
フロムだけならまだまだ走り続けることができる。
だがミリアに限界が感じられた。
「あそこで少し休みましょう」
「リンたちなら大丈夫よ」
「うん」
ミリアが答える。
村へ向かう。
入口の手前。
フロムが立ち止まった。
「ミリア」
「なに?」
「疲れた?」
「少しね」
「歩くことはできる?」
「うんまあ…」
「ここからは歩いた方がいいと思うの」
「狼に乗っているのって」
「目立つわ」
「そりゃそうね」
ミリアが降りる。
一人と一頭は村へ入る。
小さな村だった。
朝の準備をする人。
荷車を引く農夫。
井戸へ向かう子供。
平和な光景だった。
ミリアは露店を見つけた。
「パンください!」
食料と水を買う。
店主がフロムを見た。
「でっかい犬だな」
「ええ」
ミリアが答える。
フロムは聞こえないふりをした。
食料を受け取った後、ミリアが店主に尋ねる。
「ねえ」
「大都ってこの方向でいいの?」
店主は首を傾げる。
「大都?」
「そっちは違うぞ」
ミリアとフロムが顔を見合わせた。
「え?」
店主は道を指さす。
「その先はカンヨ市へ向かう街道だよ」
「大都ならさっきの分岐を北へ曲がらないと」
ミリアは振り返る。
遥か後方。
顔をしかめる。
指し示したのは襲われた山の方向。
「違う方向に来ちゃったみたいね…」
「戻りたくないな……」
思わず本音が出る。
店主が苦笑した。
「だったら遠回りだがこのまま西へ進むとそのうち岩山が見えてくる」
「その先で街道が二手に分かれるから右に行けば大都に行けるぜ」
「分かった」
「ありがとう」
ミリアは店主に礼を言って別れた。
フロムとミリアは村の外れの木陰で休む。
パンを食べる。
水を飲む。
疲れは残っている。
それでも少し元気になった。
ミリアは立ち上がる。
「よし!」
「出発!」
フロムも立ち上がった。
「さあ」
「大都へ向かうわよ」
「フロム、お願いね」
ミリアが背中へ乗る。
フロムが走り出す。
広大な平原。
果てしなく続く草原。
遠くには小さな村々。
真っ直ぐに伸びる街道。
風が二人の横を流れていく。
ヤマシロ王国とは違う。
広大な大地を走り続けた。




