第79話 <北へ>
昼が過ぎ。
夕方になり。
やがて夜になる。
リンは荷台の隅に座っていた。
景色を見る気にもなれない。
ハンス。
フロム。
ミリア。
離ればなれになった仲間たちのことばかり考えていた。
街があった。
この辺りの中心都市のようだ。
ヨウドが手綱を引く。
「本日はここで宿泊するである」
リンは小さく頷いた。
もう反対する気力も無かった。
宿を見つける。
入る。
古かった。
だが寝る場所はある。
それだけで十分だった。
ベッドへ入る。
目を閉じる。
静かだった。
とても静かだった。
これまでなら。
ミリアが騒いでいた。
フロムが文句を言っていた。
ハンスが適当なことを言っていた。
今はそんな声も聞こえない。
思い出す。
三年と少し前。
それ以前の記憶は無い。
気付いた時には父と呼ぶ男と暮らしていた。
名前も。
過去も。
何も知らないまま。
そして父は魔物に殺された。
一人になった。
ずっと一人だった。
だが。
クロウが現れた。
ハンスと出会った。
ミリアと出会った。
フロムと出会った。
ヨウドも加わった。
気付けば賑やかになっていた。
一人でいる事に慣れていたはずなのに。
今は皆がいない事が怖かった。
「また失うのかな……」
小さく呟く。
答える者はいない。
窓の外では風が木々を揺らしていた。
リンはなかなか眠れなかった。
目を閉じる度にハンスが谷へ落ちる光景が浮かぶ。
爆煙の向こうへ消えるフロムとミリア。
耳に残る悲鳴。
そして。
ようやく眠りについた頃には空が白み始めていた。
◇ ◇
翌朝も馬車を走らす。
北へ。
大都へ。
馬を休ませるために小休憩を取った以外は走り続けた。
街道の両脇は地平線まで続く草原。
ヤマシロ王国では見られない光景だ。
やがて陽が沈む。
街道脇で夜営をする。
「吾輩が夜警をするからリンは休むである」
ヨウドが銃を抱えて焚火のそばに座る。
リンはその横でうずくまって横になる。
リンが眠ったのを確認するとクロウは空へと飛び立った。
そして。
襲撃の夜から数えて三日目の朝が明ける。
リンの横で突然の声。
「識別名リン!」
クロウだった。
リンが慌てて起き上がる。
青い瞳が静かに光っている。
クロウが朝一番に戻ってくる時は大抵ろくでもない報告だ。
「どうしたの!?」
するとクロウは即座に答えた。
「ミリアは無事だ」
一瞬。
理解できなかった。
そして。
「本当!?」
思わずクロウに迫る。
クロウは頷く。
「支援機同士はデータ共有が可能」
「ミリアとフロムは共に行動中だ」
リンの表情が明るくなる。
「どこにいるの!?」
「ここより西の街道」
「別ルートで大都方面へ移動中」
「エース商会を目指している」
リンは大きく息を吐いた。
力が抜ける。
生きていた。
フロムも。
ミリアも。
それだけでよかった。
「よかった……」
思わず笑みがこぼれる。
ヨウドも頷いた。
「予想通りである」
リンは思わず微笑む。
「絶対心配していたでしょ!」
ヨウドは咳払いをした。
「ゴホン」
リンに背中を向ける。
「あんな口の悪い犬」
「それに爆発娘のことなど心配する訳ないのである」
馬車に少しだけ笑顔が戻った。
そして――
その日もひたすら平原を北へと走った。
抜けるような青空が広がる。
どこまでも続く草原。
その中を真っすぐに抜けていく街道。
やがて。
午後になって遠くに巨大な城壁が見えた。
リンは思わず立ち上がる。
「見えた……」
大都だった。
シユウ帝国の首都。
巨大な外壁。
立ち昇る煙。
これまで見たどの街よりも大きかった。
「ここで待っていれば必ず会える」
リンは祈るような思いで街を見つめた。




