第8話 <封鎖された村1>
夜は、短かった。
深く眠ることはなかったが、問題はない。
目が覚めたとき、空はすでに明るかった。
女は立ち上がる。
迷いはない。
「行くか」
宿を出て女は歩き出す。
どこからともなくクロウがやってきて肩にとまる。
「どこへ」
「……大きな街だ」
「理由は」
「情報だ。あの男は、“鍵”と“戻る”の話を出したとき、『お前、王都の学者か何かか?』といった。王都には本気で”鍵”と”戻る”のことを調べているヤツがいるっていうことだ。大きな町に行けばもっと情報が手に入る可能性がある」
クロウの目が青く点滅した
「このあたりで一番大きいのは…」
「交易都市だ」
「人も、物も、情報も集まる」
「……都合がいいな」
女はそれ以上何も言わず、歩き出す。
「悪くない」
クロウは肩に留まったままそう言った。
荒野を進む。
風は変わらない。
景色も同じだ。
だが——
少しずつ、色が増える。
草が混じる。
地面が柔らかくなる。
木が現れる。
「……森か」
女はあたりを見回した
「最短経路だ」
「遠回りは」
「時間がかかる」
クロウは相変わらず女の肩にとまったまま答える。
女はそのまま進む。
森に入る。
空気が変わった。
風が弱い。
音が消える。
女の足が止まる。
——静かすぎる。
(……おかしい)
視線を巡らせる。
気配がない。
獣がいない。
鳥もいない。
視線だけが動く。
空気を、測る。
(……止まっている)
クロウが低く旋回した。
「どうした」
「……静かすぎる」
「そういう場所もある」
「違うな」
短く言う。
クロウは何も言わなかった。
少し進む。
柵が見えた。
木で組んだだけの、簡素なもの。
だが——閉じられている。
外に、人。
武器を持ち、構えている。
「止まれ」
男が一歩前に出る。
「それ以上近づくな」
女は立ち止まる。
間合いに入らない。
「何が起きている?」
男は顎で、中を示す。
音がした。
低い、濁った呻き。
何かを引きずる音。
「……感染か」
女が言う。
男は黙ってうなずいた。
「三日前だ」
「魔犬にやられた」
「対処が遅れた」
短い言葉。
それで、全部分かる。
——よくある話だった。
珍しくはない。
だからこそ——
「閉じるしかねぇ」
別の男が言う。
女は何も言わない。
ただ、中を見る。
そのとき。
「開けてくれ!!」
叫び声。
柵の内側。
一人の男。
必死に叩いている。
「まだ大丈夫なんだ!」
「噛まれてねぇ!」
声が崩れる。
「下がれ」
外の男が言う。
「開けるな」
別の声が重なった。
「開ける必要はない」
振り返る。
一人の男。
「感染者が出た時点で、この村は終わりだ」
静かな声。
揺れがない。
「そんな……!」
内側の男が叫ぶ。
「まだ助かる!」
「隔離すれば——」
「無駄だ」
「発症時間が一定じゃない以上、管理できない」
「全体を切るのが最適解だ」




