第7話 <遺物の町3>
場所は、街からそう遠くなかった。
街を出て東に向かい、1時間ほど歩いて小さな森を抜けると川に出た。
割としっかりした吊り橋がかかっている。
吊り橋を渡って川を越える。
川を越えると直ぐに右側に折れて川沿いに進む。
下流に向かってしばらく歩く。
小さな丘のすそを抜け更に進むと、開けた場所に出た。
川はここで緩やかに右側に流れを変えながら川幅を大きく広げてゆっくりと流れるようになる。
左手に向かって大きく森が広がっていた。
よくある川沿いの森
だが——
空気が変わる。
腐った匂い。
獣の気配。
そして静寂。
だんだん低くなる崖に沿ってしばらく歩く。
川から離れ、森の中へと入っていく。
川の音が消えた。
風も、ない。
葉が揺れない。
だが生き物の気配だけが、ある。
「——まともじゃない」
女は立ち止まる。
剣には手をかけない。
ただ、目を細めた。
何かの建物が半分埋もれて立っていた。
入口のような穴。
周囲に、骨。
動物のもの。
人のもの。
「……ここか」
女が言う。
クロウが一度旋回し、低く降りた。
その目が、一瞬だけ強く光る。
「ああ、ここか」
ぽつりと言う。
女の視線が向く。
「知ってるのか」
「……昔のもんってことは知ってる」
それ以上は言わない。
女は追わない。
穴に積もった土を書き出し、人ひとりが入れるすき間を作る。
穴から中へ滑り込む。
暗い。
空気が重い。
足元に何かが転がる。
踏みそうになる。
避ける。
奥へ進む。
やがて——
頑丈そうな鉄の扉が見えた。
多分、施錠されて閉まっていたのだろう。
だが、すでに錠前も蝶番も朽ちている。
扉は半分外れかかっている。
女は慎重に扉の端に手をかけて力を入れた。
少し抵抗はあったが、扉は傾き、大きな音とともに自重で倒れた。
中はほぼ真っ暗だ。
持っていたロウソクに火をつけ、部屋の中に入る。
そして——
同じ形の黒い筒。
拳銃、自動小銃、弾薬が入ったとおぼしき木箱。
弾け玉と呼ばれる卵のような玉の詰まった箱。
大量の。
「……」
女は一歩進む。
そばにあった机の上にロウソクを立て、持ってきた背負い袋に拳銃、小銃、それに弾薬を詰める。
さすがに重い。
「これぐらいにしておこう」
女は袋を担ぎ部屋を出る。
周囲を見る。
相変わらず音はない。
だが——
何かの気配がある。
ゆっくりと背負い袋を置き、剣に手をやった。
次の瞬間。
影が動いた。
「ッ!」
飛びかかる何か。
剣が走る。
斬る。
倒れる。
魔犬。
それだけじゃない。
奥からさらに動く。
魔人。
「……やるか」
呟く。
動きは迷わない。
斬る。
避ける。
いつもならそれほど難しくはない。
しかし薄暗く狭い場所、
足場が悪い。振りが遅れる
「やりにくいな」
襲い掛かる魔犬と魔人は10体以上にのぼった。
ただ幅、高さとも3メートル程度の“洞窟”だ。
一度に向かって来る数には限りがある。
向かってくるヤツを順番に切っていく。
1時間ほども続いただろうか。ようやく全てが終わった。
きわどい戦闘だった。
かなり疲れた。
女は荒い息が収まると、再び袋を背負う。
そして——
壁を見る。
そこに文字があった。
剥がれかけた表面。
かろうじて読める。
女は目を細める。
「……極東地区防衛局第12号弾薬庫」
読める。
意味は——分からない。
だが、記憶の奥で何かが引っかかる。
いつの間にか来ていたクロウが、その文字を見る。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、動きが止まる。
だが何も言わない。
外に出る。
日が傾き始めていた。
戻る。
あの男のところへ。
「おう、戻ったか」
笑う。
「生きているとは思わなかったぞ」
女は袋を男の足元へおろした。
中身を確認する。
男の目が輝く。
「……こりゃ当たりだ」
興奮を隠せない。
だがすぐに押さえる。
女が聞く。
「鍵は」
男はあっさり言った。
「知らねぇ」
沈黙。
「戻る話も、な」
「俺は単なる発掘屋だ。ちょっと遺物に詳しいだけの」
軽く肩をすくめる。
「そんなもん見たこともねぇ」
女は、しばらく何も言わなかった。
怒らない。
驚かない。
ただ見ている。
男がわずかに怯む。
「……半分は、約束だ」
金を置く。
女はそれを受け取る。
「ただな、この銃ってやつ、遺物っていやあ銃だ。ちゃんと動きゃあ剣より強い。魔人だってあんまり怖くねえ」
「お前にも見せただろ、あの紙束。もっと強い銃もある」
「戻るってのは何だ? 魔人がいなくなる? 鍵ってのはこの銃じゃねえのか。これで魔人も魔物もみんな倒せばいい」
「……そうか」
女はそれだけを言う。
外に出る。
すでに日は沈み、辺りは闇に包まれていた。
クロウが降りてくる。
「……なんだ、お前いたのか」
「いた」
「あの遺跡、知ってたのか」
「ああ、知っている。昔のもんだろ」
「……ふざけんな」
小さく吐き捨てる。
だが、それ以上は聞かない。
金は手に入った。
だが——
“鍵”は、まだない。
クロウは女の肩にとまった。
女は気にせずそのまま歩き出す。
——まだ、終わらない。




