第75話 <包囲>
「上空!」
クロウの叫びが夜空に響いた。
全員が反射的に顔を上げる。
月明かりを遮る巨大な影。
羽ばたき。
風切り音。
バサァァァァァッ!!
魔鳥だった。
巨大な翼を広げながら急降下する。
狙いはヨウド。
「なっ──」
回避は間に合わなかった。
ドゴォッ!!
鋭い鉤爪が装甲を削り取る。
ヨウドの体が吹き飛ばされる。
木をへし折りながら地面を転がる。
銃が止まった。
「ヨウド!」
リンが叫ぶ。
ヨウドはゆっくりと身体を起こした。
「損傷軽微である」
立ち上がろうとする。
だが右脚が沈む。
装甲が大きく砕けていた。
数秒の沈黙。
「訂正」
「少々の損傷が発生した」
「全然少々じゃないだろ!」
ハンスが叫ぶ。
しかし笑っている余裕はない。
ヨウドが止まる。
リンも止まる。
魔犬、魔熊、魔虎が迫る。
上空には魔鳥。
そしてその後方。
ゆっくりと歩いてくる痩せた男。
極光軍の新型魔人。
赤い瞳がリンを見据えていた。
ミリアを背にかばうようにフロムが立つ。
正面にリン。
右にハンス。
左にヨウド。
それぞれが武器を構えた。
リンは周囲を見る。
逃げ道がない。
完全な包囲だった。
新型魔人が前へ出る。
「抵抗をやめろ」
「EX」
「お前がやめるまで戦いは終わらないぞ」
リンが睨み返す。
「なぜ私を狙う」
「EXだからだ」
即答だった。
「それ以外の理由は不要」
「極光様の戦略目標達成に必要な個体だ」
ハンスが吐き捨てる。
「ふざけやがって」
新型魔人は視線すら向けない。
「知能劣化個体は知る必要がない」
「必要なのはEXだけだ」
「その他は不要」
「不要個体は廃棄する」
空気が凍った。
ミリアが拳を握る。
フロムが低く唸る。
ヨウドは壊れた脚を引きずりながら前へ出た。
「その提案は受諾できないのである」
新型魔人は反応しない。
ただ右手を上げた。
魔犬が唸る。
魔熊が地面を踏み鳴らす。
魔虎が牙を剥く。
静寂。
一瞬だけ。
風も止まったように感じた。
新型魔人が手を振り下ろす。
「行け」
咆哮。
魔犬が走る。
魔熊が突進する。
魔虎が跳ぶ。
上空では魔鳥が翼を広げた。
「来る!」
リンが叫ぶ。
魔犬が飛び掛かる。
リンが斬る。
血が散る。
さらに二頭。
三頭。
だが終わらない。
魔犬の死体を踏み越えて次が来る。
魔熊の前足が振り下ろされる。
ハンスが受ける。
衝撃。
腕が痺れる。
押される。
魔虎が横から襲う。
フロムが飛び込む。
地面を転がる。
牙がすぐ横を通過した。
「数が多すぎる!」
ミリアが叫んだ。
その通りだった。
切っても。
倒しても。
撃っても。
減らない。
魔物は次々と現れる。
リンは刀を構え直した。
息が荒い。
ヨウドの弾薬も減っている。
ハンスの肩から血が流れていた。
フロムも傷だらけだった。
新型魔人は無表情だった。
すでに勝ったと思っている。
右手を前へ向ける。
「回収しろ」
魔犬の群れが一斉に走り出した。
その瞬間だった。
ダダダダダダダダダッ!!
夜を引き裂く銃声。
先頭を走っていた魔犬の群れが吹き飛んだ。
血飛沫。
悲鳴。
魔熊がよろめく。
魔虎が足を止める。
リン達は思わず振り向いた。
崖の上。
月明かりの中。
そこに五つの黒い影が立っていた。




