第73話 <大都へ>
馬車は大都に向かって街道を進む。
小さな丘に差し掛かる。
ゆっくりとのぼる。
越える。
視界が開ける。
上から平原が見えた。
広い。
どこまでも広い。
地平線が広がる。
遠くに街。
さらにその向こうに川。
ハンスが感心する。
「広い大地だ」
「そして立派な道」
フロムも頷いた。
「ここは大陸」
「そしてシユウ帝国は交易国家よ」
「人も物もよく動く」
確かにそうだった。
行商人。
荷車。
旅人。
何度もすれ違う。
ヤマシロ王国でもハン王国でも見ない光景だった。
昼。
馬車は小さな村で休憩を取る。
ミリアは露店に向かう。
「見て見て」
妙な形をした果物。
「食べられるのかな」
店主。
「食べ物だ」
ハンス。
「当たり前だ」
その頃。
ヨウド。
酒を売る店の前で停止。
「燃料」
ハンス。
「却下」
「補給は重要である」
「二本買ったばかりだろ」
「備蓄も重要である」
小さな岩山帯に行き当たる。
街道は岩山の間を抜けて伸びていた。
一行は馬車を進める。
しばらくすると前方に大きな隊商が見えてきた。
十台近い荷馬車。
積荷を満載にしている。
護衛らしい男達もいる。
ハンスが感心した。
「でかいな」
フロムが答える。
「シユウ帝国では珍しくないわ」
「大都へ向かう隊商でしょうね」
ちょうど追い抜く時だった。
隊商の男が声をかけてくる。
「兄ちゃんらも大都か?」
ハンスが頷く。
「そうだ」
「気を付けろよ」
「何がだ?」
男は周囲を見回す。
声を少し潜めた。
「魔物だ」
空気が少し変わる。
リンが聞く。
「この辺にも出るの?」
「ああ」
男は顔をしかめた。
「昔はこんなこと無かったんだがな」
「ここ数年だ」
「街道の近くにも出るようになった」
別の商人も話に混ざる。
「しかも群れだ」
「旅人が丸ごと消えることもある」
ミリアが少し青ざめる。
「怖っ」
「だから隊商組んでるんだよ」
男は苦笑した。
「昔は護衛なんて二、三人で十分だった」
「今じゃ十人いても安心できん」
ヨウドが呟く。
「状況は悪化傾向である」
「そういうことだな」
商人は頷いた。
「ところで兄ちゃん達はどこまで行くんだ」
ハンス。
「大都だ」
「エース商会に用事があってな」
商人は感心したように口笛を吹く。
「へ~そうか。あそこは東の国の商会だったな」
「珍しいもん扱ってる」
「商売がうまくいくといいな」
一行は隊商から離れ始める。
別れ際、商人はふと思い出したように言った。
「そうだ」
「もし夜に獣の声を聞いても外へ出るなよ」
「最近は妙な魔物が出る」
そう言って笑い。
別の街道へ向かっていった。
その姿を見送りながらリンが呟く。
「魔物が増えている……」
フロムが静かに答えた。
「同盟軍が動いている証拠かもしれないわね」
誰もそれ以上は話さなかった。
一行は山の間を進む。
夕方。
リンは地図を確認する。
「大都まではまだ遠いのね」
クロウ。
「推定三日」
「長い」
「歩行なら更に長い」
「そういう問題じゃないわ」
日が沈む。
野営。
焚火。
穏やかな夜だった。
ミリアが呟く。
「先生」
炎を見る。
「本当にいるのかな」
誰も答えない。
麒麟は生きていると言った。
だが。
それが本当かどうか。
まだ分からない。
その夜。
クロウは見張りだった。
空へ飛ぶ。
月明かり。
静かな森。
しかし。
数キロ先。
森の縁。
何かがいた。
青白い眼。
複数。
クロウの瞳が光る。
「警戒」
「監視対象を確認」
狼ではない。
犬でもない。
その姿をクロウは知っていた。
魔犬。
さらに後方。
黒い外套の影。
クロウ。
「同盟軍、新型魔人を含む敵勢力接近」
小さく呟いた。
平原の闇の中。
何かが動き始めていた。




