第71話 <追撃命令>
ハン王国北部。
大河沿いの森。
かつてそこには巨大な都市が存在していた。
今はない。
道路は土に埋もれ。
建物は森に飲まれ。
人の姿も見えない。
だが。
完全に滅びた訳ではなかった。
森の奥。
崩れた建物の一角。
外から見ればただの遺跡。
しかし内部では今も機械が動いている。
低い駆動音。
そこは同盟軍の前線基地。
訓練室。
黒い兵士が一人。
剣を振っている。
鋭い斬撃。
空気を切り裂く音。
H兵ケイ。
リンらに一度捕えられた敵兵。
何度も。
何度も。
同じ動きを繰り返す。
「熱心だな」
背後から声。
振り返らない。
声をかけたのは同じH兵。
真っ先にリンらに立ち向かった男。
リードだった。
ケイ。
「別に」
リードは肩をすくめる。
「対象の進路が分かった」
「海路だ」
「テンの街へ向かうと思われる」
ケイの動きが止まる。
「いつ出発する」
「作戦命令待ちだ」
しばらく沈黙。
リードが笑う。
「あの連中が気になるか」
「特にあの大男」
ケイ。
「油断しただけだ」
「次はあのような失態はしない」
リード。
「そうか」
「まあ無理はするな」
「呼び出しだ」
「麒麟様からの連絡だ」
会議室。
黒い兵士達が並ぶ。
リード。
ケイ。
スタン。
ミズカネ。
カドメイア。
五名。
正面の壁。
古びたディスプレーが起動する。
ノイズ。
やがて。
声だけが響いた。
「H兵各位」
感情はない。
機械の声。
麒麟だった。
「EX鹵獲命令を発令する」
全員が直立する。
「対象は現在海路移動中」
「進路予測」
「テンの街」
「その後は大都もしくは西部方面カンヨ市と判断される」
壁面に地図が表示される。
「飛行艇使用を許可する」
「大都生体兵器開発基地まで飛行」
「以後は現生人交通手段を利用」
「現地における指揮権限はリードへ移譲する」
リード。
「了解」
麒麟は続ける。
「任務」
「EX鹵獲」
「優先度:最高」
「鹵獲後」
「大都生体兵器開発基地へ移送」
少し間。
「H兵製造設備へ搬入せよ」
沈黙。
ケイの瞳が僅かに揺れた。
だが何も言わない。
麒麟。
「質問は認めない」
「以上」
通信が切れる。
部屋が静かになる。
スタンが小さく笑った。
「この前は奇妙な手りゅう弾で出し抜かれたが今度こそ終わりだ」
カドメイアも頷く。
「ヒヒヒ」
「EXさえ捕まれば」
ミズカネ
「死んじゃえ。いや捕まえてやる」
「それであのふざけた現生人には痛い目を見てもらうわ」
リードは立ち上がった。
「準備を始めろ」
「出発する」
兵士達が動き出す。
その中で。
ケイだけが立ち止まっていた。
脳裏に浮かぶ。
収容施設。
脱走。
そして。
大男。
ハンスとかいった。
ケイは静かに拳を握る。
「次は油断しない」
「私の手で倒す」
そう呟くと。
飛行艇格納庫へ向かって歩き出した。
シユウ帝国へ。
EXを追うために。




