第70話 <閑話 湖畔の休日>
テンの街を出た馬車は北へ向かっていた。
街道は広かった。
よく整備されている。
馬車も揺れない。
珍しく何も起こらない日だった。
小さな森と湖が見えてくる。
天気は晴れ。
さわやかな風が吹き抜ける。
街道を少しだけ外れ、湖畔で一行は休息を取ることにした。
うららかな午後。
湖は静かだった。
風も穏やか。
魔物の姿もない。
フロムは水辺にいた。
いつものように少し離れた場所。
前脚を揃えたまま湖面を見つめている。
まるで景色を眺めているようだった。
ハンスは木にもたれて座っている。
リンは剣の手入れ。
ヨウドは手足に油をさして稼働確認。
ミリアは遺跡で拾ったガラクタを分解していた。
そして。
クロウはテーブル代わりに出していた木箱の上で寝ていた。
翼を大きく広げ。
ぺたりと伏せている。
ハンスが呆れる。
「お前」
「隙だらけだぞ」
クロウは目も開けない。
「充電中だ」
「高効率太陽光発電を実施している」
「活動継続に必要な工程である」
「鳥らしくねぇな」
「鳥ではない」
「高性能飛行型支援機だ」
その時だった。
ミリアが立ち上がる。
こそこそ。
こそこそ。
後ろからクロウへ接近する。
ハンスが気付く。
「おい」
「やめとけ」
ミリアは聞いていない。
クロウの尾に生えている羽を見つめる。
青い。
ほんの僅かに光っている。
ミリアの目が輝く。
「綺麗なのよねぇ」
そして手を伸ばす。
ひょい。
プチっ!
一本引き抜いた。
「ギャッ!!」
湖畔に叫び声が響いた。
クロウが飛び上がる。
「敵襲!!」
「攻撃を開始する!!」
「敵を発見!!」
「敵はミリア!!」
ミリア。
「だって欲しいって言ったじゃない!」
「クロちゃんの羽!」
「青く光ってて綺麗なんだもん!」
「却下だ!」
「拒否した!」
「正式に拒否した!!」
ハンスが腹を抱えて笑う。
「何やってんだお前ら」
クロウは尾を確認している。
「損傷確認!」
「損傷確認!」
「戦力低下を確認!」
フロムが近付いてくる。
湖水を滴らせながら。
そして冷静に言った。
「問題ないわ」
「ミリアが抜いたのは通常の羽」
「光変換ユニット翼ではない」
クロウが固まる。
数秒。
「......本当か」
「本当よ」
「機能低下なし」
クロウは静かになる。
ミリアが得意げに羽を振る。
「ほら平気じゃない」
「記念に貰うわね」
「却下だ!!」
再び飛び上がる。
ヨウドはしばらく眺めていた。
そして首を一回転させる。
「識別名ミリア」
「危険個体である」
ミリア。
「何で!?」
ヨウド。
「好奇心を優先し支援機を破壊しかける」
「極めて危険である」
クロウ。
「同意」
フロム。
「同意」
ミリア。
「ちょっと!?」
ハンス。
「珍しく全員一致だな」
リンは思わず笑った。
静かな湖畔。
穏やかな休日。
だが。
その日一番の被害者は。
間違いなくクロウだった。
戦いが続いたので少し穏やかなエピソードです




