第68話 <上陸>
二日ほど行くと船は大きな河の河口に至った。
海の青は消え。
視界いっぱいに黄色く濁った水が広がる。
川幅は広い。
対岸は霞んで見える。
ハンスが手すりにもたれた。
「でかいな」
ヨウドが頷く。
「大河である」
「大規模文明の成立には水資源が重要である」
「急に賢そうなこと言うな」
「吾輩は元々賢いのである」
ミリア。
「突撃する軍曹のくせに」
「戦術的判断である」
「絶対違うわね」
流れは非常に緩やか。
船は帆を張り河をさかのぼる。
半日も行けば大きな港が見えてきた。
昼過ぎ。
船員が前方を指差した。
「テンの街だ」
全員が前を見る。
巨大な港。
何十隻もの船。
高い石壁。
川沿いに並ぶ倉庫。
荷車。
人。
叫び声。
ハン王国の港とは比べものにならない。
ミリア。
「大きい……」
リンも思わず見入った。
フサール市ともヤマシロ王国の王都とも違う。
ここは商業都市だった。
船はゆっくりと接岸する。
馬車が降ろされる。
馬も無事だ。
ハンスは胸をなで下ろした。
「よし」
「とりあえず入国だな」
その時だった。
港の奥から役人が数人やって来る。
クロウ。
「警戒」
ヨウド。
「吾輩は隠れるのである」
即座に荷台へ潜り込む。
ガサガサ。
木箱の奥へ。
「隠蔽完了」
「早いな!」
ハンスが突っ込んだ。
次。
クロウ。
「先行偵察実施」
空へ飛び立つ。
そして。
残されたフロム。
リン、ハンス、ミリアが見つめる。
フロム。
「何よ」
ミリア。
「ペット」
「却下」
リン。
「お願い」
「却下」
ハンス。
「頼む」
沈黙。
数秒後。
フロムは毛布を被っていた。
頭だけ出ている。
御者台の上にお座り。
「屈辱だわ」
「犬のふり頼む」
「もっと屈辱ね」
「仕方ねえだろ」
「狼を連れた商人なんていないだろうが」
役人が近寄ってくる。
「お前たちはどこから来た」
ハンスが笑顔を作る。
「ハン王国からでっさ」
「遺物商でしてね」
「商売で来ました」
「大都に店がありましてね」
「そこに行く途中です」
役人が眉をひそめる。
「商人か」
「そうそう」
「真面目な商人っす」
役人の視線がリン達へ向く。
「そっちは?」
「妹っす」
リン。
ミリア。
無言。
能面。
二人とも明らかに納得していない。
「お前、名前は?」
「俺はハンス」
「こっちはリン」
「ミリア」
役人が書き留める。
そして。
フロムを見る。
沈黙。
フロム。
舌を出して役人を見つめる。
精一杯愛想よく見えるよう努力している。
ハンス。
「犬っす」
フロム。
「ワン!」
沈黙。
役人。
「……」
「変わった犬だな…」
リン。
顔を背ける。
ミリア。
肩が小刻みに震えている。
フロムの眼が二人を睨む。
(後で覚えてなさい)
心の声が漏れてきそう。
役人がハンスに向き直る。
「紹介状はあるか」
ハンスが固まる。
うろたえ始める。
「えーっと」
「どこにやったかなぁ」
リンがヤマシロ王国でのボロンの言葉を思い出す。
懐から金属板を取り出した。
ボロンにもらった紋の入った板。
役人はそれを見る。
しばらく眺める。
「ふむ」
「ここでは聞かない商会だな」
全員緊張する。
だが。
役人は頷いた。
「商人登録証には違いない」
「よし」
「通れ」
ミリア。
ガッツポーズ!
役人は続ける。
「エース商会は大都にあるのだな」
「大都で正式な紹介状を発行してもらいなさい」
「そうしないと君たち、帰国が面倒になるよ」
ハンス。
「助かります」
役人。
「気を付けろよ」
「最近この辺も物騒だからな」
馬車がゆっくり動き出す。
テンの街へ。




