第66話 <海路>
街道を馬車は進む。
背後には麒麟。
黒い兵士。
そしてゼノン。
振り返れば気になってしまう。
だから誰も振り返らなかった。
ハンスが手綱を握る。
「で」
「結局どこへ向かうんだ?」
ミリアが即答する。
「先生!」
「それは分かってる」
「シユウ帝国のどこだよ」
ハンスはため息をついた。
リンはエース商会から貰った地図を広げる。
皺だらけになった地図。
街道を北へ向かえばシユウ帝国との国境。
シユウ帝国の中心・大都に行くなら国境を越えた後、そのまま西へ向かうのが通常のルート。
だが国境をどうやって越えるか。
ハン王国もシユウ帝国も敵と思ったほうがいい。
リンらが逃げ出したことについて既に連絡は入っているだろう。
クロウが覗き込む。
青い瞳が点滅する。
「推奨ルートを提案」
「北進を中止」
「西進を推奨」
細い嘴で地図をつつく。
海岸線。
港町。
そして海路。
「ハン王国内を西進」
「海沿いに進み、この港から船に乗る」
「海路により国境を回避」
「しばらく南下した後、大河を遡上」
「シユウ帝国の商都のひとつテンの街へ到達する」
ハンスが顔をしかめた。
「お前、なんでそんなことを知ってるんだ」
「前回西行ルート情報」
沈黙。
ミリア。
「先生が通った道?」
クロウ。
「計画ルートだ」
「Unit-09はハン王国西部でルート変更」
「その後、消息喪失」
ハンス。
「当てになるんだかな」
クロウ。
「我々はこの辺りの地理に疎い」
「麒麟も現地政府も高確率で街道沿いにシユウ帝国に向かうと予想する」
「海路なら国境での警戒も回避できる可能性が高い」
「ハン王国人を装い入街する」
フロム。
「他に案もないわ」
リンは地図を見つめる。
ゼノンも見た景色。
ゼノンも歩いた道。
そう考えると少しだけ近付いた気がした。
◇ ◇
馬車は西へと方向を変えて進む。
小さな山を越える。
草原。
森。
村々。
時折旅人とすれ違う。
不思議だった。
魔物もいない。
黒い兵士もいない。
追手もない。
ミリアが呟く。
「静かね」
フロム。
「それはそれで怖いわ」
ヨウド。
「嵐の前の静けさという言葉もある」
ハンス。
「お前が言うな」
リンは少し笑った。
久しぶりだった。
こんな時間は。
そして馬車は二日ほど西に進み。
午後になって海が見えてきた。
青い海。
遠くまで続く水平線。潮風。
リンは思わず息を呑んだ。
広い世界。
ミリアが立ち上がる。
「海!」
ハンス。
「落ちるなよ」
港町に入る。
漁船。
商船。
荷車。
市場。
人々の喧騒。
異国へ続く玄関口。
クロウ。
「第一目的地到達」
港には幾つもの帆船が停泊していた。
貨物船。
客船。
馬車ごと乗れるような大型船もある。
「シユウ帝国の方へ行く船はねえか?」
船から降りてきた水夫、荷物を運ぶ作業者らにハンスが聞く。
「あっちに停まってるぜ」
一人の男が答える。
その船の近くに髭もじゃの男がいた。
男に向かってハンスが聞く。
「テンの街に行きたいんだが」
髭もじゃの男が叫ぶ。
「おーい船長」
船べりから男が顔を出す。
この船の船長のようだ。
リン達を見る。
「テンの街なら途中で通るぞ」
「明日の朝出航だ」
「乗せて頂戴」
「馬車も一緒だけどいいかしら」
「少し高くなるが運べるぜ」
「今日のうちに乗っちまうかい?」
ハンス。
「助かった」
クロウ。
「計画通り」
フロム。
「珍しく役に立ったわね」
クロウ。
「常時役立っている」
一行は船に乗り込む。
馬車も積む。
翌朝、船は出航した。
風は穏やかだった。
波も高くない。
帆が広がる。
船体がゆっくりと進み始めた。
ハン王国を離れる。
リンは甲板に立ったまま、それを見つめていた。
有難うございます。
第65話までで2000PVを超えることが出来ました。
頑張って更新していきます。
この後も是非読んでください。




