第65話 <ミリアスペシャル>
沈黙。
互いににらみ合う。
動けない。
その空気を破ったのはミリアだった。
フロムから飛び降りる。
鞄に手を突っ込む。
黒い金属の塊を取り出した。
「対魔物用の新兵器!」
「えっ」
リンが思わず振り向く。
クロウはリンの肩にとまって警戒。
ハンスが嫌な顔をする。
「それはあの交易都市で見たヤツ…」
「改造弾け玉」
「さらに威力を高めた」
「新型ミリアスペシャルよ!」
ヨウド、フロムは後ずさり。
クロウはリンの肩から背中に移動。
肩の後ろから恐る恐る顔を出しミリアの方を見ている。
「手りゅう弾か」
「厄介なものを」
「防御態勢を取れ」
黒い兵たちも構える。
「だが所詮は現生人。知能劣化個体だ」
「ここでそんな物を使うとお前たちも無事では済まないぞ」
ミリアはゆっくりと黒い兵の方へ向かう。
あと五メートル。
いきなり改造弾け玉を黒い兵たちの方へ転がした。
「先生を返して!」
振り返りつつフロムのもとへ走って逃げる。
黒い兵は慌てて後退する。
改造弾け玉はしばらく転がって。
やがて廊下の真ん中に鎮座…。
何も起きない…。
だがリン、ハンスらは交易都市での出来事を思い出す。
じりじりと後退する。
黒い兵士達は顔を見合わせる。
「こけおどしか?」
ゆっくりと近づく。
麒麟。
「何だそれは」
一人の兵士が近づく。
観察する。
「起爆薬なし」
別の兵士。
「起爆機構不完全」
さらに。
「兵器として成立していない」
そっと拾い上げる。
通信機のカメラで撮る。
麒麟。
「脅威度ゼロ」
「知能劣化個体のおもちゃだな」
ミリアの額に青筋が浮く。
「失礼よ!」
「麒麟さん!」
次の瞬間だった。
カチッ。
改造弾け玉の内部から何かの音。
沈黙。
ミリアだけが目を見開く。
「あ」
ハンスが固まる。
「あ?」
ミリア。
「なんか今」
「嫌な音が」
「音が鳴るような仕組みは無いんだけど…」
全員。
「え?」
ドォォォォォォン!!!
爆発。
閃光。
衝撃。
黒い兵士達が吹き飛ぶ。
壁が砕ける。
天井から砂が落ちる。
土煙。
煙。
沈黙。
土煙だけが漂っていた。
誰も動かない。
通信機も無言だった。
瓦礫の上に転がっている。
本当に数秒。
完全に停止したように見えた。
完全に止まったあと。
通信機から麒麟の声。
「――何故爆発した…」
全員がミリアを見る。
ミリアは胸を張った。
「だってミリアスペシャルだもん!」
さらに沈黙。
フロム。
「危険」
クロウ。
「危険」
ヨウド。
「極めて危険である」
ハンス。
「だから言ったろうが!」
ミリア
「けっ、計算通りよ」
「敵の真ん中で」
「やっつける予定だったんだから」
リンが叫ぶ。
「逃げるわよ!!」
ハンス。
「この女はどうする」
ミリア。
「それどころじゃないわ!」
リン。
「もういいでしょ」
「置いて行きましょう」
全員が走り出す。
崩れた壁。
開いた通路。
外光。
出口だ。
黒い兵士達はまだ混乱している。
広場へ飛び出す。
石段を駆け上がる。
そして。
馬車。
まだあった。
「奇跡よ!」
ミリアが叫ぶ。
「急げ!」
全員が飛び乗る。
馬が走り出す。
JSAが遠ざかっていく。
ミリアは振り返った。
「先生……」
リンは拳を握った。
シユウ帝国。
次の目的地。
一方、リンらが去った後のJSA。
通信が途切れる寸前、麒麟が静かに言った。
「EX捕獲作戦継続」
「追跡を許可する」
「今回作戦過程分析」
「再分析」
「再分析」
「再分析」
「失敗」
「原因:ミリア」
「予測不能要素認定」




