第64話 <敵兵の女>
黒い兵士の横
ハンスがしゃがみ込んだ。
軽く頬を叩く。
「おい」
「起きろ」
女性がゆっくり目を開いた。
青い瞳。
冷たい視線。
ハンスは言った。
「答えろ」
「お前ら何者だ」
「ゼノンはどこだ」
「麒麟って奴は何なんだ」
女は何も答えない。
ただ睨み返してくる。
「聞こえなかったかぁ」
ハンスが女の胸ぐらをつかみ顔を近付ける。
すると次の瞬間。
ゴッ!!
頭突き。
「いてぇ!!」
ハンスがのけぞる。
「こいつ!」
女は起き上がろうとする。
縛られているのに。
必死だった。
リンが押さえ込む。
「暴れるな!」
女はなおも睨む。
「あんまり好きなやり方じゃねえけど」
「こいつを人質に盾にして逃げよう」
「戦略上致し方ないのである」
「同意」
「仕方ないわね」
女は顔をしかめた。
初めて声を発する。
「無駄だ」
「そうか?」
「じゃあ試してみるか」
ハンスは女を肩に担ぎ上げる。
◇ ◇
クロウが先導する。
リン、ヨウドが続く。
その後ろは女を抱えたハンス。
最後尾にミリアを載せたフロム。
一行は廊下を駆ける。
クロウが言う。
「出口への最短ルートから一時的に離れる」
「リンのEXソードKATANA、それにハンスの剣の回収が必要」
「遠いのか」
「それほど遠方ではない」
クロウに従ってしばらく廊下を走る。
最初に目を覚ました部屋。
中に入る。
片隅にリンの刀、ハンスの剣、ミリアのリュックもあった。
それぞれ手に取ると再び走り出す。
長い通路。
交差点。
階段。
リンが言う。
「よく分かるわね」
「偵察済み」
「ふむクロウは優秀な支援機である」
少しだけ得意そうだった。
遠くに出口が見える。
その時。
前方から足音。
カッ カッ カッ。
曲がり角から黒い兵士達が現れる。
「いたぞ!」
「現生人ども!」
「ケイ!」
担がれた女が叫ぶ。
「リード!」
先頭の黒い兵士が足を止めた。
仮面越しにも驚いているのが分かる。
「ケイ!」
「何をやっている!」
「すまない!」
黒い兵士達が立ち塞がる。
出口はその向こうだ。
リンが舌打ちした。
「まずいわね」
黒い兵士が持つ小型通信機のディスプレーが光る。
ノイズ。
そしてあの声。
「状況を確認」
全員が足を止める。
「拘束対象脱走」
「逃走経路予測完了」
「閉塞」
「H兵05_Kei」
「現生人による捕獲状態」
「回収可能」
「拘束対象物たち、おとなしく再度拘束されることを推奨する」
冷たい声。
やはり感情はない。
「断る」
ハンスが吐き捨てる。
「理解不能」
即答だった。
「何故生存確率の低い選択を行う」
「そりゃ生きたいからだ」
「論理不成立」
「お前と話していると頭が痛くなる」
麒麟は少し沈黙した。
「生存確率においては降伏が最適解である」
「それは出来ないわ」
リンが言う。
「麒麟さん」
「先生を返して」
ミリアも続く。
麒麟。
「不可」
「Unit-09は現在シユウ帝国内で活用中だ」




