第57話 <黒い兵士>
やがて雨が止んだ。
「出発するぞ」
ハンスが手綱を握る。
馬車が再び動き出す。
走らせながらハンスがしゃべりだす。
「なあ、前にカーボとかいう宰相に捕まりそうになったろ」
「その後、魔物に追われて港に逃げてギリギリ脱出」
「それでこの国に来たらまた捕まりそうになって」
「逃げたら魔物が襲ってくる」
「まるで国の奴らが魔物を使っているように見える」
さらに。
「ヨウドはリンの味方なんだろ」
「それで前は魔物と戦ってたんだろ」
「国の偉い人は魔物の仲間なのか」
「ヨウド、クロウ、フロム、お前ら何か知ってるんだろ」
だが三体とも何も答えない。
数秒後。
「確証はないが現地政府は敵対している可能性が高い」
「高確率で作戦施行に魔物を活用していると考えられる」
クロウが答えた。
「珍しいじゃねえか」
「お前が答えるなんて」
ハンスが言う。
「それくらいの情報共有は許されるでしょう」
「魔物を操る魔人」
「それに魔犬、魔熊、この国では魔虎も」
「現地政府と魔物の勢力はつながっていて」
「私たちの敵である可能性が高いわ」
フロムが答える。
「魔物って人間の敵じゃなかったの」
「いない世界を望んでいるって…」
「じゃあ“戻る”とか“鍵”って何なの?」
「そもそも私達は何と戦っているの?」
リンがつぶやく。
ミリアもじっと考え込む。
沈黙。
誰も答えられない。
しばらく馬車は走る。
だが。
やがて。
クロウの目が光った。
「警戒」
全員が反応する。
「後方より物体多数」
フロムも立ち上がった。
「魔物よ」
「大量」
その瞬間。
森が揺れる。
岩山の背後から魔犬。
さらに魔熊。
そして魔虎。
ハンス。
「またかよ!」
「これも俺たちを捕まえるために放ったものなのか!?」
馬車が加速する。
だが。
多い。
多過ぎる。
ミリア。
「追いつかれる!」
馬車は走る。
左は海。
右は森と岩山。
逃げ場は無かった。
その時。
クロウが叫ぶ。
「退避地点を発見」
「右方向」
「石質の構造物」
細い脇道。
岩山の裂け目のような通路。
ハンスは迷わない。
馬車を突っ込ませた。
左右は岩壁。
馬車一台がようやく通れる。
後ろから魔犬。
吹き込む潮風。
ヨウドが後方へ向けて銃を撃つ。
タタタタタッ!!
魔犬が怯む。
追撃の速度が少し落ちる。
ようやく見えてきた。
古い施設。
崩れた門。
巨大な遺跡。
「あの中へ!」
リンが叫ぶ。
馬車は門を突破した。
そして。
遺跡内部へ。
遺跡の中。
少し開けている。
幅十メートルくらいにまで広がった。
だが。
ヨウドが停止する。
瞳が赤く変化した。
「警告」
「警告」
「敵施設である」
「えっ?」
前方。
五人の兵士が現れる。
黒い軍服。
黒い剣。
黒い仮面。
これまでに見たこの国の兵とは全く異なる。
馬車は止まる。
一方背後からは。
魔犬。
魔熊。
魔虎。
そして。
最後尾に立つのは。
やせ細った男。
「ミリアは馬車に隠れてろ!」
ハンスは岩壁の横に馬車を付ける。
リン、ハンス、フロム、それにヨウドが降りる。
馬車を守るように展開した。
左手には魔物軍団。
右手には不気味な黒い兵士。
動かない。
互いに睨み合った。
ハンスが小さく呟く。
「何だよ……」
「こいつらも敵なのか?」




