第56話 <弾け玉>
しばらく休憩を取った後。
一行は再び移動を開始した。
ヨウドは携帯缶を手に無言で座っている。
それを見てハンスが聞く。
「ところでさ」
「そりゃ酒か?」
「お前、酒を飲むのか?」
ヨウド。
「アルコールには違いない」
「否定はしない」
クロウ。
「充電のためだ」
「ギ酸やヒドラジン、メタノールの方が適しているが」
「エタノールでも可能だ」
「成分からすると人間が言うところの酒だ」
ヨウドの胸部ランプが点灯する。
「太陽光だけでは充電量が足りない」
「必要に応じ燃料補給を実施するのである」
「良好である」
「稼働時間48時間延長」
また携帯缶に口を付ける。
グビッと中の液体を飲む。
「ハアァァー」
ヨウドは反応で生じた水蒸気を口から吐き出した。
ハンス。
「美味いのか?」
ヨウド。
「不明」
「だが」
少し沈黙。
「昔は燃料補給のたびに」
「ローレンスが文句を言っていた」
「副分隊長である」
「アルコールは人間に飲ませておけと」
ヨウドは携帯缶を見る。
「ローレンスはいつも隠れて燃料補給をしていた」
「だが補給のしすぎで発電ユニットを痛めて交換する羽目になった」
「ノーベは爆発実験のために燃焼させた」
「メンデはアルコール濃度や不純物量にうるさかった」
「フェルは普段は飲まないくせに作戦成功の時のみ皆と一緒に補給をした」
「アインは発電より基地からの充電を好み飲まなかった」
ハンス。
「ろくでもねえ連中だな」
「だがみんな良いヤツっぽいな」
やがて海が見えてきた。
荒れた波。
今にも泣きだしそうな灰色の空。
天候が怪しい。
ハンスがぼやく。
「海の方に行けば見つからねえと思ったんだがな」
ミリアも頷く。
「そうよね」
「でもこっちの道まで監視されてるってなんか変だわ」
「それにさっきはこの国の兵士がいなかった」
「魔物ばっかり」
リンは前方を見る。
「警戒していきましょう」
街道は海岸沿いを北へと続く。
一行は街道に沿って海のそばを走る。
そして。
しばらくして雨が降り始めた。
ぽつり。
ぽつり。
やがて本降りになる。
だんだん激しくなる。
馬車を走らせながらハンスいう。
「こりゃたまらん」
「どこかで雨宿りしよう」
しばらく行くと街道沿いに岩山が現れる。
昔、波によって削られたのだろう。
岩壁が削られ岩盤が屋根のように張り出していた。
「あそこなら雨宿り出来そうだ」
馬車を中へ入れる。
雷が鳴り響いた。
「ここで休もう」
全員が頷く。
焚火を起こす。
濡れた服を乾かす。
クロウは近くの岩に止まる。
フロムも馬車から降りて火の近くで丸くなった。
傷はすっかりふさがっている。
大分元気になったようだ。
ヨウドは装備を外して点検を始めた。
唐突にクロウが言う。
「リン」
「有機物を要求する」
「私も欲しいわ」
フロムも続く。
ミリアが吹き出した。
「何その言い方」
リンは干し肉を二匹に渡す。
クロウ。
「補給完了」
フロム。
「良質ね」
「傷の補修にはタンパク質がたくさん要るの」
一方。
ヨウドはまた携帯缶を取り出した。
グビッ。
胸部ランプが光り始める。
「充電である」
ミリアが興味津々で近付く。
「どういう仕組みになっているの?」
「化合物中の水素を酸化させ発電するのである」
「ふーん」
ミリアが荷物から何か取り出す。
小さな缶詰のようなもの。
手で握れるサイズ。
「ねえヨウド」
「これ見て」
「改造弾け玉」
「新型ミリアスペシャル」
全員が固まる。
クロウ。
「警告」
フロム。
「まだあんまり走れないの」
「やめて」
ヨウドが缶を受け取る。
数秒眺める。
「駄目である」
即答だった。
ミリア。
「ええっ!?」
ヨウド。
「起爆薬がない」
「これでは爆発しない」
ミリア。
「起爆薬って何?」
ヨウド。
「これである」
荷物から部品を取り出す。
「これが信管」
「これが導火索」
「その燃焼を起爆薬へ伝え」
「爆薬に火をつけるのである」
ミリア。
「へぇー」
目が輝いた。
嫌な予感しかない。
ヨウドは説明を続ける。
「最新型では二液混合式もある」
「劣化しにくい」
ミリア。
「それちょうだい」
沈黙。
ヨウド。
「却下である」
クロウ。
「同意」
フロム。
「同意」
ハンス。
「絶対駄目だ」
リン。
「危ないからやめましょう」
ミリア。
「ケチ」
「このバラしたヤツなら貰っていい?」
ヨウド。
「それは劣化した部品である」
「もう機能しない」
「いいの!」
ミリアは部品をつかむと自分の荷物の方へ戻っていった。




