第55話 <ヨウドの思い出>
馬車の中。
フロムが横たわる。
リンがフロムの傍に来る。
「ひどい傷」
「手当しなきゃ」
フロムが少しだけ目を開く。
もう呼吸は落ち着いている。
小声で答える。
「大丈夫よ」
「今は動けないけど」
「これくらいの傷ならすぐに治るわ」
「あなたも同じ」
「リンならわかるでしょ」
「少しだけ休ませて」
一方、馬車の奥に座り直したヨウド。
左腕を見る。
関節のギアが外れている。
配線が切れている。
「戦闘能力低下」
「不覚である」
数秒の沈黙。
そして静かにつぶやく。
「ローレンスなら怒るのである」
やがて大きな川にさしかかった。
橋がある。
川を越える。
ハンスが言う。
「もう大丈夫だろう」
「少しあそこで休憩しよう」
「馬も限界だ」
河原に下りる。
馬車を止める。
ハンスは馬を外し水辺に連れていく。
リンとミリアも馬車から降りた。
クロウは馬車の上にとまって警戒をする。
フロムはそのまま馬車で休んでいる。
ヨウドも馬車を降りた。
岩にもたれて座る。
左腕はぶら下がった状態。
配線が切れて腕から飛び出していた。
工具を持ったミリアが近づく。
ヨウドの側でしゃがみ込む。
「ちょっと見せなさいよ」
ヨウド。
「不要である」
「これくらいの損傷は――」
ミリア。
「うるさい」
工具を取り出す。
ハンス。
「やばいかも」
クロウ。
「爆発確率上昇」
ヨウド。
少し目を見開く。
黙る。
そしてミリアを見る。
「二等兵ミリア」
「誰が二等兵よ!」
「なぜ吾輩に続かなかった」
「命令不服従」
「規律違反」
「軍法会議」
「処罰対象である」
ミリア。
「あんたの部下じゃないし」
「直すのやめるわよ」
ヨウド。
「撤回する」
ミリアは作業を続ける。
切断された配線を繋ぐ。
破損した部品を直す。
ヨウドはぼんやり見ている。
「救護兵であったか」
「違うわよっ」
「ただ放っておくと面倒だから」
ヨウド。
しばらく沈黙。
そして珍しく静かに言う。
「不覚である」
「あの程度の敵兵に損傷を受けるとは」
「ローレンス」
「ノーベ」
「メンデ」
「フェル」
「アイン」
リンとハンスがヨウドを見る。
クロウとフロムも興味を向ける。
「我が分隊である」
「彼らがいれば」
「この程度」
そこで言葉が止まる。
沈黙。
ヨウドはポケットから古びた携帯缶を取り出す。
キャップを開く。
中の液体をグビッと飲む。
「優秀な兵だったのである」
「口うるさい者」
「怠け者」
「爆発物好き」
「無口な者」
「新兵」
「良い分隊だったのである」
修理をしながらミリアが言う。
「ヨウドの仲間?」
「どれが誰なのよ」
ヨウド。
「説明すると長くなるのである」
「36528日前」
「AI+82における東部防衛戦」
「きゃつらは吾輩をAI+82守備にと最深部に行かせ」
「自身は西ゲート防衛に徹し機能停止に至ったのである」
「お前らも見たであろう」
「指令室入口の隔壁付近で機能停止した我が部隊を」
「敵の司令部突入を立派に阻止したのである」
ミリアは静かに聞いている。
やがて顔を上げる。
「直ったわよ」
「元通り動くでしょ」
ヨウドは腕を動かす。
問題ない。
「ミリア殿」
「かたじけない」
「これでまた戦線復帰ができる」
「機能停止した部下どもにも顔向けができるのである」
クロウもフロムも何も言わない。
しんみりとした空気が流れる。
ヨウドは無言で再度、携帯缶の中の液体をグビッと飲んだ。




