第52話 <逃走>
翌朝。
リン達は砦を後にした。
王都へは寄らない。
目的地はシユウ帝国。
黒い剣の男ゼノン。
その足跡を追う。
馬車は街道を北へ。
シユウ帝国との国境方面へ向かう。
そして――。
ミリアは相変わらず黒い剣を抱いていた。
ハンスが呆れる。
「まだ持ってんのか」
「先生のだもん」
即答だった。
「返す相手がいるのはいいな」
ミリアは答えなかった。
ただ剣を強く抱きしめる。
◇ ◇
同じ頃。
王都セオル。
ハン王国国王リチームは上機嫌だった。
フサール市領主からの報告。
四年前の剣士を追う一団。
黒い鳥。
白い狼。
そして再生人。
さらに。
砦隊長からの報告。
『対象を確保予定』
それだけで十分だった。
「これは大手柄だ」
王は満足そうに笑った。
「麒麟様もお喜びになるだろう」
即座に命令が下る。
「回収部隊を出せ」
騎兵二十名。
輸送用馬車二台。
王にとっては護送任務。
それ以上でも以下でもなかった。
◇ ◇
夕方。
騎兵隊は砦へ到着した。
隊長室。
扉を開く。
沈黙。
兵士達が固まった。
そこには。
縛られた隊長。
「遅いぞ!」
「早くほどけ!」
「私は砦の隊長だ!」
◇ ◇
リン達はさらに北へ。
移動を急ぐ。
ヨウドが空を見る。
「追跡部隊発進済みである」
ハンス。
「何で分かる」
ヨウド。
「経験である」
ハンス。
「参考にならねぇ」
だが数時間後。
クロウの瞳が光った。
「後方二十名」
「接近を確認」
ヨウド。
「ほら見ろである」
ハンス。
「たまたまだ」
リンは首を振る。
「戦う必要はない」
「王都には近付かない」
しばらく走ると街道が分かれている。
ミリアが地図を見る。
「シユウ帝国へはこのまま真っすぐよ」
「左手に取ると海の方に行っちゃうわ」
リンが言う。
「左に行きましょう」
「追手は私たちがシユウ帝国を目指していると思っている」
「フサール市の領主、それに王都近くの砦の隊長」
「この国は私達を捕えたい」
「もうきっとあちこちに手配は回っているわ」
「いつまでも走り続けられないし、いったんどこかに隠れてこの国からの脱出方法を考えましょう」
ハンスは手綱を操作する。
左に折れる。
しばらく走る。
陽が沈み辺りは真っ暗だ。
「追手は引き離したかな」
ハンスが言う。
馬車の速度を落とした。
やがて放棄された古い村跡が出てきた。
崩れた塔。
朽ちた石壁。
「今日はここで一旦休むか」
ハンスは街道から離れ、村の中心だったと思われる広場に馬車を進めた。
広場横の石壁の側に馬車を停める。
馬を外し側の木につなぐ。
傍らに井戸がある。
水を汲む。
飲めそうだ。
ハンスは水を汲んで馬にやる。
「お疲れ」
「頑張ったな」
リン、ハンス、ミリアは夜営の準備をする。
クロウは辺りを見回すように石壁の上にとまった。
フロムは馬車の横にうずくまった。
ヨウドもその辺りにしゃがみ込んだ。




