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崩壊世界の再生人類  作者: Beta
目覚め

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第5話 <遺物の街1>

 空は、すでに暗みを帯びていた。

 本来なら、まだ日が高い時間のはずだった。

 だが——意識を失っていた時間が、思った以上に長かったらしい。


「……二時間以上か」

 女は小さく呟く。

 体はまだ重い。

 だが、動く。

 止まる理由はない。暗くなる前に、壁が見えた。


 女は、少しだけ歩を緩めた。

 門をくぐると、街の空気が流れ込んできた。

 人の匂い。

 煙。

 獣脂。

 生きている匂いだった。


 女は迷わず、明かりの多い方へ向かい宿を探した。

 宿の印のついた建物に入り、短く言う。


「1泊いくらだ」

「20クレジット。ここらじゃ一番安い。嫌なら他に行きな」


 女は金を出す。

 店主が受け取る。

 その間、女は袋の中を見た。

 ——少ない。

 一瞬だけ、目が止まる。

「……減ったな」

 それだけ言って、鍵を受け取る。


 部屋に入る。

 荷を置く。

 武器を手の届く場所に置く。

 そして——座る。

(……)


 数秒。

 何も考えない。

 いや、考えないようにしている。

 やがて立ち上がった。

 腹が減っている。ほどなく、食堂のような場所に入る。


 中は騒がしかった。

 粗末な机、安い酒、荒い声。

 視線が一斉に向く。


 珍しいものを見る目。

 女は気にせず席に座った。

「うまいもの、適当にくれ。金はないぞ」


 短く言う。

 店主が、じっと見る。

「見ねぇ顔だな」

「……そうか」


「旅か?」

 少し間を置く。


「……似たようなもんだ」

 店主はそれ以上聞かない。

 しばらくして男が返ってきた


 皿を置く。

 煮込まれた肉と野菜のスープ。

 固いが焼かれたパン。

 それに、薄い酒。

 香りは悪くない。

 だが、豊かでもない。


 生き延びるための飯、という味だった。

「5クレジットだ」

 女は袋を開けた。

 中身を数える。

 指が止まる。

 ほんの一瞬。


「……これで、ほとんど終わりか」

 小さな声。

 誰にも向けていない。

 だが——確定した。

(……稼ぐ必要がある)


 女は黙って食べ始めた。

 味は悪くない。

 だが——記憶に引っかかるものはない。


 数口食べたところで、口を開く。

「“戻る”って話、聞いたことあるか」

 店主が面倒くさそうに答える。

「昔からあるおとぎ話じゃねえか、それがどうした」

「知ってるのか」

「子供のころにきいたことあるだろ」

 あっさり言う。


「英雄が世界の果てに旅をして、鍵を見つけてこの世界が元に戻る物語」

「……鍵」

「なけりゃあ、お話にならないだろ。」

 肩をすくめる。


「おとぎ話だよ」

 少しだけ間。

「だがな——遺物にゃあ妙なもんだらけだ。ひょっとしたら鍵?もあるかもな」


 女の手が止まる。


「どこにある」

「遺物か?」

 店主が笑う。

「そこら中にあるさ」

「なんだい、鍵でも探すのかい、んで、そりゃあどんな形してるんだい」

「こりゃあ、英雄サマだったかい」


「遺物が知りたきゃあ、発掘屋に聞け」

「発掘屋?」

 女はわずかに眉を動かした。


 店主が鼻を鳴らす。

「遺物、漁って食ってる連中だ」

 少しだけ考え、続ける。

「遺跡や森の中の崩れたところに潜ってな、遺物を拾ってきて売っている連中だ」


 女は黙って聞く。

「ただし——まともな稼業じゃねぇ」

 店主は布で皿を拭きながら言った。

「中で何が起きるか分からねぇ。遺物にゃあ壊れかけのもんもあるし、動くもんもある。だいたい良い遺物が出る辺りにゃあ魔物も出る」

 肩をすくめる。

「取りに行って戻ってこねぇやつも多い」

 少しだけ間。

「それでも手っ取り早く稼ぐにゃあいい方法だ」


 隣の卓から、笑い声が漏れる。

「おい、ねえちゃん」

 荒い声。

 酒の匂いが混じっている。

 男が数人、こちらを見ていた。

「発掘屋の話、聞いてたぜ」

 顎をしゃくる。


「あいつら、結構、金持ってる」

 周りが笑う。

「命削って掘ってんだ、そりゃ多少は貯まるだろうよ」

 酒をあおる。

 にやつく。

「ねえちゃんなら…」

 わざと間を置く。

「一晩かわいがってもらったらどうだ。遺物漁りに行くより稼げるぜ?」

 どっと笑いが起きた。


 下品な声は止まらない。

 だが女は咀嚼をやめなかった。

 肉を噛み、飲み込む。

 生ぬるい酒をあおる。

 それから、ようやく口を開いた。


「……発掘屋は、どこにいる」

「は?」

 男らは歪んだ笑みを浮かべる。

「……変な女だな」

 顎で外を示す。

「買取屋のとこだ。あそこに群がってる」

 また笑う。

「行ってみな」


 部屋に戻る。

 鍵をかける。

 体はようやく動くようになってきた。

 だが、今日はもう遅い。


 武器を手の届く位置に置く。

 横になる。

 ——すぐには眠れなかった。

 頭の中に残るのは、あの言葉。

「遺物」

「鍵」

 そして

「戻る」

 意味は分からない。

 だが——

 気になる。

 しばらくして、意識が落ちた。


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