第40話 <白い影>
魔熊が襲い掛かる。
馬車が横転する。
地図が飛ぶ。
ミリアが慌てて飛びついた。
「これは持ってく!」
「今それ大事か!?」
「大事よ!」
魔犬。
魔熊。
魔人。
追撃兵。
リンが跳躍。
助走なしで一気に三メートルほど。
「凄い」
ミリアが目を見開く。
そのまま剣を斜めに一閃。
一瞬で魔熊が真っ二つ。
着地とともに橫なぎ。
魔熊二頭目深手、倒れる。
「災害級の魔物だぞ。人間業じゃねえ」
ハンスも目を奪われる。
だが、後ろから三頭目が現れる。
その時、
「ピューイ」
後ろにいた魔人のような男が笛を吹いた。
前にも見たことがある痩せた男。
魔犬が三匹。それが三群の計九匹。
そろって襲ってくる。
一組目、二組目、三組目。
連続して何度も何度も三頭ずつの波状攻撃。
簡単には切らせてくれない。
ギリギリの攻防が続く。
その間にも魔熊が迫る。
さらに新型魔人。
魔人の一人が剣で襲い掛かる。
もう一人は弓を打とうとする。
ミリアが眼鏡を下す。
補助レンズセット。
改造拳銃、照準、発砲。
ドォン!!
新型魔人が吹っ飛ぶ。
ミリアも吹っ飛ぶ。
ハンスが受け止める。
「気ぃ付けろ!」
「サンキュ! 助かった」
その隙に魔犬がハンスに襲い掛かる。
魔熊も来る。
ハンスはミリアを後ろに突き飛ばす。
そのまま体勢を入れ替え、右手で飛びかかってきた魔犬にパンチ。
魔犬は二メートルほど吹っ飛ばされるが一回転して器用に着地。
再度、ハンスに襲い掛かる。
ハンスは両手で大剣を持ち直し魔犬に向き直ると。
「俺のクレイモア、味わってみやがれ!」
「うおいりゃああぁ」
右下から左上へと振り上げる。
巨大な質量を持った剣が走る。
「ギャン!」
飛びかかってきた魔犬。
上半身と下半身がそれぞれ別々の方向に吹っ飛ぶ。
ハンスはそのまま剣の勢いを殺さず半回転。
今度は魔熊に対し右上から袈裟懸けに切り下す。
「ガスッ!」
胴体の中ほどまで大剣が食い込む。
魔熊は動きを止める。
「ふんぬっ!」
ハンスは大剣を抜き下がる。
「ガーッ!」
魔熊が咆哮を上げ倒れる。
立とうとするが立てない。
「へへへっ、リンのようにゃあ切れねえや」
「ピューイ」
また笛の音。
右手の森から新手の魔犬が現れた。
正面には新型魔人を先頭に二十人近い兵が迫る。
左手からは倒れた馬車を乗り越えて、さらに三頭の魔熊が来る。
三人はじりじりと後ずさり。
「ダメだ、キリがねえ」
「撤退勧告! 退避優先!」
クロウが叫ぶ。
リンが剣を構える。
そして言う。
「ハンス、ミリアを抱えて逃げて」
「私が相手を引き付ける」
だが―――。
「ピューイ」
笛の音がまた響く。
それに合わせるかのように後方からも魔犬が現れた。
「手遅れみたいだぜ」
「囲まれた」
ハンスはリンを背に後方から迫る魔犬を見る。
ミリアを自分とリンの間に来させ大剣を構え直した。
「さすがにちーとばかし…」
「しんどいかな」
その時だった。
森の奥から走り出る白い影。
一瞬だった。
影が走る。
魔犬に重なる。
吹き飛ぶ魔犬。
さらに一匹。
さらに一匹。
白い影が止まる。
巨大な狼、白銀の体毛。
再び走り出す。
流れるように宙を舞い魔犬を切り裂く。
そして青い瞳。
「飛行型! しっかりしなさいよ」
「フォローが悪いわね」
声が響く。
「もっと早く来い地上移動型! このポンコツめ!」
上空からクロウが答える。
リン達が固まる。
ミリア。
「クロウの友達?」
「違う」
クロウは即答。
「だが友軍だ」
「ポンコツだが多少の助力にはなる」
白狼が三人を見る。
「識別名フロム」
「リンの支援のため派遣された」
「そこの“ポンコツ”よりかなり優秀」
「西が危険だから支援に来たの」
「それにそこの“ポンコツ”に不安を感じた」
フロムは三人を軽々と飛び越えると、そのまま先頭の新型魔人に襲い掛かる。
一瞬で魔人の頸動脈をかみ切り、さらに前足で魔人を敵兵の真ん中に突き飛ばす。
フロムは口に付いた魔人の血を振り払う。
背を伸ばして振り返る。
「フロムの性能評価に対する重大な誤りを確認」
「飛行型に訂正を要求する」
眼を点滅させるクロウ。
「不快だ」
さらに。
「却下だ」
クロウは二メートルほど上空で羽ばたいている。
さらに五メートル上昇するとそのまま右手の魔犬に向かって急降下、槍のように突っ込んだ。
魔犬は半分ほど頭を消失。
動かない肉塊に変わった。
そのまま地上すれすれで方向を変え、再度舞い上がるクロウ。
上空から。
「クロウに対する不適切な評価および地上移動型による不当な訂正要求」
「どちらも改めて是正を求める、ポンコツ狼」
「事実よ、ポンコツ鳥」
戦いの最中にもかかわらず、思わずミリアが笑いそうになる。
一方でハンスは頭を抱えた。
「なんだお前ら、いい加減にしろ!」
その時。
街道の向こう。
馬車が現れる。
商会の紋章。
ボロンの商会だった。
御者台。
見覚えのある精悍な男。
以前助けた男だ。
「おーい!!」
大声で叫ぶ。
「早く乗れ!!」
クロウがすかさず答える。
「私が手配した」
さらにフロムを見ながらクロウが主張する。
「そこの“ポンコツ狼”よりかなり優秀」
「分かった分かった」
「ありゃあ、あの時の兄ちゃんじゃねえか」
「こりゃありがてえ」
ハンスが叫んだ。
リン達は走る。
背後では魔熊が咆哮する。
フロムが足止めをする。
新型魔人が武器を構える。
再びクロウが矢のように飛びかかる。
三人は馬車に飛び乗る。
そして、西へと逃げる。




