第41話 <西へ>
日が暮れる。
だが馬車は走り続ける。
ひたすら走る。
やがてクロウとフロムが追い付いた。
二匹は馬車に飛び乗る。
あらためてフロムを見る。
白狼。
しなやかな躯体。
光沢のある白銀の毛並み。
だが、生き物にしては均一すぎた。
さらに足や胴体の一部に金属。
そして——
眼が青く光っている。
フロムがブルブルと体を震わし伸びをする。
「無事?」
ミリアがフロムを見る。
「あなたは何者?」
「先ほど情報提供したわ」
「識別名フロム」
「リンの支援のために派遣されたの」
ハンスも聞く。
「お前もクロウと同類か」
「同類ではないわ」
「私は地上移動型。飛行型とは異なる」
「そこの鳥よりかなり優秀」
「却下だ。誤った情報はミスリードを招く」
「またかよ…お前ら」
「それよりフロムって言ったな」
「お前はしゃべる狼か」
「誰から派遣されてきたんだ、どっから来た」
「最初の質問」
「リンとのコミュニケーションのため言語を解する」
「次の二つの質問」
「情報供与不可」
「チッ、こいつも一緒だ」
「まあいい、それで俺たちの味方なのか」
「敵ではない。現生人には」
「敵対しない限り」
「この後同行をする」
「この鳥よりかなり優秀。安心して」
「却下だ! 誤った情報」
「お前も付いて来るのかよ…」
そうこうしているうちに馬車は森を抜け小さな丘を越えた。
東の空が白み始める。
やがてずっと先に海が見えた。
海の手前に港町。
高い石壁。
潮の匂い。
無数の帆船。
ミリア。
「海よ!!」
初めて見る海。
大興奮。
ハンス。
「おいおい、落ちるなよ」
「失礼ね!」
馬車は街へと入る。
港町
行き交う荷車。
怒鳴り声。
鐘の音。
馬車は走りエース商会の支店に滑り込んだ。
裏の倉庫に馬車を付ける。
そこで初めて休憩。
しかし――。
クロウ。
「休憩は推奨しない」
「追跡継続中」
フロム。
「珍しく正しいこと言ったわ」
クロウ。
「訂正を要求する」
「珍しい≒低頻度の発生事案。よってクロウの発言は“珍しい”ではない」
「論理回路に問題。俗にいう“頭が悪い”状態」
フロム。
「頭が悪い≒高頻度で不快さを生じさせる単語。すなわち“悪口”」
「問題解決につながらない発言は推奨しないわ」
二匹は頭が痛くなりそうな口論を始めた。
一方、ここでリン達は状況を整理する。
宰相。
敵。
王国。
でも戻れない。
西へ進むしかない。
リン。
「私のせい?」
「なぜ追われる」
「私は何者なの」
誰も答えられない。
ただ、フロムだけが言う。
「追われているということは」
「価値があるということよ」
例の若い兄ちゃん。
「急いでくれ」
「追っ手が来る」
食料そのほか、渡海に際し幾ばくかのものを受け取る。
「商会の船があります。西方大陸との貿易船です」
「急いでください。夕刻には出航します」
休む間もなく港へ向かう。
船が見える。
大型商船。
エース商会の交易船。
西方大陸行き。
馬車は桟橋へと向かう。
倉庫街を走る。
もう少しで埠頭だ。
だが後ろから馬車と兵士の姿。
宰相側。
こちらに向かってくる。
「あそこだ!」
車止め。
ここから先は馬車では行けない。
三人と二匹は馬車を降り、船へと走る。
波止場での逃走。
ハンス 荷箱を蹴り飛ばす。
後ろから迫る兵士にぶつける。
リン 剣を抜き追い付いてきた兵士に峰打ち。
ミリア 地図死守。そのほか食料やら抱えて走るが遅れ始める。
やばい! 追い付かれてしまう。
フロム ミリアの側に行く。
ミリアを咥えると自分の背に放り投げる。
背に乗せて走る。
クロウ 空へ。
「右だ」
「左だ」
「そっちは違う船」
「そっちは行き止まり」
珍しく大活躍。
エース商会の船。
船は出航時間。
船員がタラップに手をかける。
先に到着したエース商会の兄ちゃんが船員に言う。
「待って下さい。彼らが乗ります!」
一方で役人が叫ぶ。
「その船、出航中止だ!」
リンとハンスは走る。
ミリアを乗せたフロムが続く。
その後ろから兵士が来る。
岸壁に着く。
二人はタラップを走る。
渡りきると同時に船員はタラップを外す。
ロープが外れる。
船が岸壁から離れ始める。
「待って!」
フロムが駆ける。
船はもう岸壁から二メートルほど離れている。
フロムが跳ぶ。
ミリアを背中に乗せたまま。
「ひゃああああ」
華麗な跳躍。
ミリアの悲鳴。
そして甲板への着地。
フロムは無事、リンの横に立った。
船は出航する。
岸壁からもう十メートルほど離れた。
呆然と船を見る兵士たち。
誰も追えない。
手を振るエース商会の兄ちゃん。
港が少しずつ遠ざかる。
ミリア。
「やったぁぁぁ!」
ハンス。
「疲れた……」
リン。
黙って離れていく港を見る。
王都。
ボロン。
ニトロ室長。
全部小さくなる。
日が暮れる。
誰もいない船上。
リンはひとり海を見る。
クロウが肩へ降りる。
しばらく沈黙。
リン。
「西は危険なんだろ」
クロウ。
少し沈黙。
「そうだ」
「非常に危険だ」
リン。
「それでも行く」
クロウ。
青い目が光る。
「認識した」
「引き続きリンを支援する」
船は西方大陸へと向かう
◇ ◇
麒麟。
「追跡を継続せよ」
マザー。
「対象の保護を最優先とする」
「AI+49所管基地への出頭指示」
ようやく第一章終了です。
次は西方大陸を西に進みます。




