第35話 <王城の客人>
王城から戻ると、ボロンが待っていた。
食堂のテーブルには紅茶が用意されている。
「いかがでしたかな」
ボロンが尋ねる。
「西に行けってよ」
ハンスが椅子へ腰掛ける。
「しかも使節団付きだ」
「へぇ」
ボロンは少し驚いた様子だった。
「それは良かった」
「使節団と一緒なら安全でしょう」
「私の店の者もよくご一緒させてもらいます」
「次の使節団であれば…」
「そうですね、私の商会からも何人か行くことにしましょう」
ミリアは上機嫌だった。
「やっぱり西よ!」
「先生も西に行ったって言ってた!」
「宰相は先生のこと、知らないって言ったけど」
「先生はきっと王都には寄らずに向かったのよ」
「それに、百年前のことだけどリンみたいな人もいたって言う」
「絶対何かあるわ!」
ボロンは苦笑した。
「西ですか」
「私どもも時々商売で行きますが」
「私が行ったことがあるのはハン王国までです」
テーブルへ広げた地図を指差す。
「ここがこの国、ヤマシロ王国」
「西に行っても東に行っても海に突き当たりますが、海を越えた西にはこの国がある陸地より遥かに大きな大陸が広がります」
「大陸の一番東側、海を挟んでこの国の対岸になるところにハン王国という国があります」
「その西にはシユウ帝国」
「そこから先は私も知りません」
リンは地図を見る。
どこまでも続く西。
そこに自分の答えがあるのだろうか。
「大丈夫ですかね」
ボロンがぽつりと呟く。
「何がだ」
「いえ」
「少々遠いですからな」
ボロンは笑った。
「まあ、若い方は旅をするものです」
「私も昔はそうでした」
「求めるものがあるのはハン王国かシユウ帝国か」
「さらにその先なのか」
ハン王国、シユウ帝国まではエース商会の支店もあるという。
ボロンは、大陸でも支店に寄ってくれれば現地情報の提供のほか、できる限り協力をすると話した。
「お話を聞いた限りでは、魔物の発生と関係しているご様子」
「西の大陸でも魔物や遺跡、遺物の情報を集めて向かわれるのが良いでしょう」
ミリアが目を輝かせる。
「西ではどんな遺物が見つかるの?」
「さあ」
「私も興味があります」
翌日。王城から正式な迎えが来た。
豪華な馬車。
王家の紋章。
衛兵まで付いている。
「なんか緊張してきたな」
ハンスが頭を掻いた。
「王様に会う訳じゃないんでしょ」
「それでもだ」
リンたちは荷物をまとめる。
ボロンが見送る。
「ここにいてくだされば良いのですが」
「ご迷惑をおかけしました」
リンが頭を下げる。
「何を仰います」
「こちらこそ助けて頂き」
「遺跡攻略も頂き」
「面白い話を聞かせてもらいました」
「西へ言った際には、ぜひ私の商会を頼ってください」
「力になれると思います」
三人は礼を言った。
そのまま馬車へ向かう。
しかし。
クロウだけが動かない。
「クロちゃん?」
ミリアが振り返る。
「すぐ行く」
珍しく短く答えた。
三人が館を出ていく。
ボロンだけが残る。
すると。
羽音。
黒い影がテーブルへ降り立つ。
クロウだった。
「商人ボロン」
ボロンが目を丸くする。
「おや」
「まだいたのですかな」
クロウの青い瞳が光る。
「記録を更新した」
「将来的に助力を要請する可能性がある」
「協力を推奨する」
ボロンは数秒黙る。
そして答えた。
「構いません」
「出来る範囲でお手伝いしましょう」
クロウは頷く。
「感謝する」
「詳細は未決定だが謝礼も提供する」
少し間。
「ただし」
「この情報の拡散は推奨しない」
「他者への情報共有を制限していただきたい」
ボロンが眉を上げる。
「秘密ですかな」
「その認識で問題ない」
沈黙。
ボロンはゆっくり頷いた。
「分かりました」
クロウは再び羽ばたく。
窓の方へ向かう。
去り際。
小さく呟いた。
「対象の安全確保を優先する」
ボロンには意味が分からなかった。
その頃。
リンたちは王城の客人用宿舎に案内されていた。
広い部屋。
柔らかな寝台。
発掘都市では考えられない待遇だった。
ミリアは窓から景色を見ている。
ハンスは椅子へ沈み込んだ。
「金持ちってすげえな」
リンはぼんやり外を眺める。
西。
答え。
百年前の七人。
その時だった。
コンコン。
扉がノックされた。
開く。
そこには。
宰相カーボが立っていた。
穏やかな笑顔。
「困ったことはありませんか」
「こんなに良い部屋を」
「本当に良いんでしょうか。有難うございます」
リンはカーボに礼を述べた。
「お気になさらず」
「あなた方はこの国の大切な恩人です」
「よろしければ、過去の記録や研究資料も用意します」
「お調べになると良いでしょう」
「それも大事ですが、まずは食事の用意が出来ました」
「大広間においで下さい」




