第34話 <百年前の剣士>
「西へ行ける」
満面の笑顔を浮かべるミリア。
その姿に微笑みながら、そして宰相は机の引き出しを開き、古い資料を取り出した。
かなり年季が入っている。
「さて」
「魔物についてですが」
「一つ興味深い記録があります」
資料をリンへ差し出す。
「百年ほど前のものです」
リンは受け取った。
ページをめくる。
カーボが続けた。
「ここに」
「貴方と似た人物の記録があります」
「優れた剣士の一行」
部屋が静かになる。
リンが顔を上げる。
「彼らは西へ向かったようです」
ミリアが机へ身を乗り出した。
「西?」
「やっぱり!」
「数年前にもいたでしょ?」
宰相は首を振る。
「数年前?」
「残念ながら、最近のことであれば…」
「私は西方に向かった人物のことを存じていません」
少し間。
「ですが」
「百年前には確かにいました」
宰相は静かに語る。
「当時、魔物が大量発生し、多くの街が滅び」
「人々は絶望していました」
「その時」
「七人の剣士が現れたのです」
沈黙。
「彼らは魔物に襲われても魔人になることはなかった」
「常人離れした力を持っていた」
「魔物より早く動き、鋭利な剣を持ち、その神業のような剣技で魔物を討伐して回った」
リンの瞳が揺れる。
ハンスも黙って聞いていた。
「この国の魔物の処理を終えた後、彼らは言いました」
宰相は資料を閉じる。
「西へ向かう」
「仲間が待っている」
「魔物のいない世界を作る」
「人々が平和に暮らせる世界を作る」
「そう言って海を渡ったそうです」
「その後」
「どうなったかは分かりません」
「残念ながら今でも魔物が生じていることを考えると」
「彼らは目的を達成できなかったのかもしれませんね」
部屋が静かになる。
ミリアは拳を握っていた。
恩人。
西へ消えた男。
リン。
すべてが少しずつ繋がっていく。
リンは考える。
百年前。
自分と同じ存在。
西。
仲間。
そこで何があったのか。
「鍵」も。
「戻る」も。
そこにあるのかもしれない。
宰相は一枚の地図を広げた。
「急がないのであれば、一か月後に西行きの使節団が出ます」
「安全に渡るならばそれが良い」
港町。
航路。
西方の地図。
丁寧に説明する。
「それまでは王都でゆっくりされると良いでしょう」
「私の客人として扱います」
「必要な支援は致しますよ」
「百年前の、この国を救った方々につながる者とあれば」
「あなた方はこの国の大切な恩人です」
穏やかな笑顔。
誰も疑わなかった。
会談後
三人は再び馬車に乗り王城を出る。
帰り道、ミリアはずっと興奮していた。
「西よ!」
「絶対西!」
ハンスは頭を掻いた。
「本当に行くのかよ」
リンは黙ったままだった。
西。
だが、そこに答えがある気がした。
一方、三人が去った後、自身の執務室に戻った宰相。
引き出しを開く。
手鏡のような黒い板。
それを取り出した。
青く光る。
しばらく沈黙。
そして。
カーボは穏やかな表情のまま言った。
「EXらしき個体を確認しました」
少し間。
「女性一名」
「男性一名」
「ただし、男性はEX様形質を示しているようですが、現地人の変異体である可能性が大きいと見られます」
再び沈黙。
そして微笑む。
「ええ」
「数日中に引き渡します」
もう一度だけ口を開いた。
「EXをお届けします」
宰相の会話は終了した。
その手に持っていた鏡のような板はただの黒い板に戻った。




