第32話 <クロウの不運>
大量の金属缶。
中には何かの液体が入っているようだ。
「何かしらこれ」
ミリアが一つを開ける。
ツンと鼻を突く匂い。
「薬品かな?」
「触らないほうがいい」
リンが言う。
「大丈夫よ」
「ちょっとだけ」
ハンスも言った。
「やめろ」
「嫌な予感しかしねえ」
「平気平気」
ミリアは別の缶を開けた。
液体を少し混ぜる。
変色し始めた。
少し考える。
「見て――!!」
「面白そう!!」
さらに大量に混ぜ始める。
「これとこれかな?」
液体からブクブクと泡が出始める。
「やめろ!」
「訳わかんないもん混ぜるな!」
「大丈夫よ、ちょっと臭うけど遺物だもん」
顔を上げたミリア。
そう言いながら、ミリアは先ほどポケットに放り込んだ不思議な長方形の道具を取り出す。必要も無いのにいじり始める。
缶からはツンと鼻を突く臭いの蒸気が出続けている。
ミリアは何の気なしに、親指でその長方形の道具にある丸い部品を回した。
「パシュ!」
部品の辺りから火花が散った。
その瞬間。
ドォォォォォン!!!
閃光。
爆音。
遺跡が揺れる。
天井の一部が崩れた。
煙。
土埃。
沈黙。
「失敗」
ミリアが言った。
「失敗じゃねぇ!!」
ハンスが叫ぶ。
「バカ野郎! 死んじまうぞ」
咳き込むハンス。
やがて土煙の中からミリアが現れた。
「失敗失敗」
照れくさそうに笑っている。
その姿を見てハンスが叫ぶ。
「それでさ、こんなことばっかりやってて」
「なんでお前はいつも無傷なんだ!」
「おかしいだろ!」
「これ、実験用の防護シード」
「ミリアスペシャルよ」
透明なフードで顔を覆っている。
「この服だって燃えないのよ」
「見た目は変わんないけど」
「これもミリアスペシャル」
「ふざけんな、なんでてめえだけ」
「でも危ないからやめてね」
リンもさすがに注意をする。
「これ以上、天井が崩れたら本当に無事で済まないわ」
ようやく煙が晴れていく。
瓦礫の山。
崩れた壁。
その中になぜかクロウが埋まっていた。
「クロちゃん!?」
ミリアが走る。
「何してるの!?」
「自殺願望!?」
足を掴む。
ずるずる引っ張る。
クロウが瓦礫から抜けた。
片目が点滅している。
「……」
リンも心配そうにのぞき込む。
「クロウ?」
薄く目が開く。
そしてミリアに向かって一言。
「いい加減にしろ…」
沈黙。
「鳥が喋った!?」
「いや、いつものクロウだろ」
ハンスが突っ込む。
クロウはよろよろと立ち上がる。
「識別名ミリア」
「危険人物」
「接近を推奨しない」
「…」
◇ ◇
少し時間は遡る。
遺跡二階。
クロウは壁の縁に止まっていた。
青い瞳が光る。
通信開始。
AI+81 接続
識別番号CROW
状態診断開始
修復プロトコル送信依頼
対象生存
任務継続中
マザーより応答。
異常を検出。
通信制御モジュール損傷。
対人応答アルゴリズム異常。
現地人との交信制御に問題が確認された。
推定原因:外部衝撃。
推定原因候補:爆発。
識別名ミリア周辺における爆発発生頻度は基準値を大幅超過。
これ以上の衝撃を避けるように。
CROW応答。
了解。
今後の外部衝撃を回避する。
AI+81より修復プロトコルを受領。
自己修復を試行する。
そのとき、下の階から声が聞こえてきた。
「見て――!!」
「面白そう!!」
「これとこれかな?」
「大丈夫よ、ちょっと臭うけど遺物だもん」
クロウ。
警戒。
推奨行動:退避。
退避を……。
ドォォォォォン!!!!!
爆音と閃光が二階にまで届いた
そして現在。
瓦礫から引きずり出される。
識別名ミリア
危険人物。
接近を推奨しない。
ミリア周辺における
爆発発生確率が異常値を記録。
生存率が低下する。
今回自己修復失敗。
再度の試行を必要とする。
識別名ミリア。
危険度判定を更新する。
“危険”から“非常に危険”




