第30話 <再起動>
「私は識別名クロウ」
「それは聞いた」
ハンスが苛立つ。
「そうじゃねぇ」
「何なんだ、お前は」
数秒の沈黙。
「質問の意味が不明瞭」
「何であるかを認識する点については回答済み」
「何を為す存在かについては回答可能」
青い瞳が小さく光る。
「識別名リンの支援」
「援護のため派遣された個体」
「以上」
「派遣?」
ミリアが反応した。
「誰に?」
「情報供与不可」
「どこから来たの?」
「情報供与不可」
「なんで喋れるの?」
「識別名リンとの情報交換を可能にするため」
「私の恩人の鳥さんとは友達?」
一瞬だけクロウが止まる。
「形式は異なる」
「しかし同型」
「同型?」
「仲間ってこと?」
「定義が曖昧」
「近似値としては正しい」
ミリアが身を乗り出す。
「じゃあどこにいるの!?」
「連絡は許可されていない」
「誰に?」
クロウは沈黙した。
青い瞳が点滅する。
「情報供与不可」
ハンスが舌打ちした。
「チッ」
「何にも分かんねぇ」
「お前、何を知ってる」
クロウは答える。
「不明瞭なプロンプトでは正しい回答ができない」
「もういい」
ハンスが頭を抱える。
「こいつ話が通じねぇ」
ミリアはまだ諦めない。
「ねえクロちゃん」
クロウの羽がぴくりと動く。
「識別名クロウだ」
「クロちゃんお願い」
「修正を要求する」
「クロちゃん」
「修正を――」
突然。
青い瞳が明滅した。
「マザーの指令……」
「制限……」
「再起動……」
ノイズが走る。
「Error」
三人が顔を見合わせた。
クロウは続ける。
「クロちゃんという名称は識別名では――」
「Error」
「……」
そこで止まる。
長い沈黙。
「おい」
ハンスが声をかける。
返事はない。
「クロウ?」
「……」
羽根を震わせる。
ようやく口が開く。
「識別名ミリア」
「問題がある」
「え?」
「爆発回数が多い」
部屋が静まる。
ミリアだけが反応した。
「は?」
クロウは続ける。
「過去の観測から」
「識別名ミリア周辺では高確率で爆発が発生する」
「接近は推奨されない」
「ちょっと!?」
ミリアが立ち上がる。
クロウは真面目に答えた。
「事実だ」
そして少しだけ間を置く。
「非常に危険」
沈黙。
クロウ自身も動きを止めた。
青い瞳が点滅する。
「不明な発言を検出」
「ログ修正を試行」
「失敗」
「再起動」
「……」
「何だ今のは」
ハンスが呟く。
クロウは答えない。
しばらくして目を青く明滅させると
ただ窓の外へ視線を向けた。
その夜。
全員が眠った後。
クロウだけが起きていた。
青い瞳が闇の中で光る。
通信回線接続。
AI+81 接続
識別番号CROW
状態報告を要求
クロウは静かに答える。
対象生存
進路予測
西進傾向
東進推奨
理由を報告せよ
クロウは答えなかった。
代わりに内部診断を開く。
通信制御モジュール
損傷
対人応答モジュール
異常
原因推定
爆発
識別名ミリア
要注意
自己修復再開
再起動
そして誰にも聞こえない声で呟いた。
「西は危険だ」
瞳だけが静かに光っていた。




