第28話 <旅の行き先>
しばらく考えていたミリアが口を開いた。
「ねえ室長さん」
「西ってどんなところなの?」
「西の国って行けるの?」
室長は少し考えてから答えた。
「私も詳しくは知りません」
「ですが、一つだけ確かなことがあります」
「魔物はいつも西からやって来る」
ハンスが眉をひそめた。
「じゃあ西の国は魔物だらけなのか?」
「それも違うようです」
室長は首を振った。
「奇妙なことに、海を渡ってくる魔物を見た者はいないのです」
「ですが魔物はいつも西から現れる」
「魔犬を飼いならす程度の者は我が国でもいるようですが」
「西の国々には、もっと根本から異なる」
「魔物の生態を知り、操る国があると聞きます」
「西には魔物の誕生に関わる何かがある」
「我々はそう考えています」
しばらく沈黙。
室長は続けた。
「もっとも」
「危険な土地でもあります」
「我々が交易をしているのは幾つもある西の大陸の国々のうち、最も東側にある国。大陸にはそのほかにも複数の国があり、互いに争ったり同盟を結んでいたり複雑です」
「また、地域によってはこの国にはいない危険な魔物もいるようです」
「そのため、この国から海を渡って西へ行く人間は多くありません」
「それでも珍しい品々を求めて、交易や外交は行われています」
ミリアが身を乗り出す。
「じゃあ行けるのね!」
「ええ、この国では宰相が西の国とのやり取りを管理しています」
「貴方達が求める情報も」
「西へ渡る手段も」
「宰相なら力になれるかもしれません」
ミリアがさらに聞いた。
「それで!」
「リンみたいな人!」
「前にも西へ行かなかった!?」
室長は少し困ったように笑う。
「私は詳しく知りません」
「ですが」
「宰相なら知っているかもしれません」
「すぐに使いを出しましょう」
「宿泊先は?」
「ボロンのところだ」
リンが答えた。
室長が少し驚く。
「ボロンさんですか」
「なるほど」
「なら連絡もしやすい」
「数日以内には面会できるでしょう」
学術院を出る。
王都の夕暮れ。
ミリアは上機嫌だった。
「やっぱり西よ!」
「絶対そう!」
「あの人も西に行った!」
ハンスは頭を掻く。
「話がでかくなってきたな」
「まあいいや、西の国か。面白そうだ」
「変わった遺物やメシもありそう」
「西の国の女って美人かな」
「ったく、下品ね! エロハンス」
「食べることとそんなことしか興味がないの!」
ミリアとハンスが騒いでいる。
リンは黙っていた。
西。
そこに自分と同じ存在がいるかもしれない。
そこに答えがあるかもしれない。
一方その頃。リンらが去った後の学術院。
文化言語学研究室。
ニトロ・グリセリンは机に座っていた。
小さな通信板を取り出す。
そして短く告げる。
「EXらしき個体を確認しました」
「女性一名」
「男性一名」
「ただし男性は現地人の、単なる変異体である可能性大」
少し考える。
そして続ける。
「数日以内に面会の機会を作って頂きたい」
通信の相手は。
王国宰相だった。




