第25話 <文化言語学研究室1>
職員が道を開ける。
研究者たちが振り返る。
そこにいたのは、
五十代ほどの男だった。
灰色の髪。
痩せた身体。
整った身なり。
穏やかな表情。
「その答えを――」
「私も知りたいですね」
資料室の入口に立っていた男がゆっくり歩いてくる。
王立学術院文化言語学研究室。
室長。
ニトロ・グリセリン。
この国の旧文明研究の第一人者だ。
研究員たちが道を開ける。
室長はリンの前で立ち止まった。
「その文書を読んだのですか」
「そうだ」
「理解した上で?」
「たぶん」
研究員たちがまたざわつく。
「たぶんってなんだ」
「理解していないのか」
「理解しているから読めるんじゃないのか」
リンは少し首を傾げた。
「読める」
「だが知らない言葉もある」
「地球とは何だ」
ノアの目がわずかに細くなる。
研究員たちは顔を見合わせた。
「地球?」
「聞いたことがない」
「古代の地名か?」
室長だけは何か考えている。
「なるほど」
室長はリンを見る。
だが。
すぐには話しかけない。
先に展示ケースへ向かう。
白い銃剣。
横の資料。
そこへ視線を落とす。
「そこを読んだのですか」
「そうだ」
「何と?」
リンは答える。
「220式 多用途銃剣」
沈黙。
研究員がざわつく。
室長の目が細くなる。
室長は、若い職員が持っていた、先ほどの古びた紙束をもう一度リンに手渡した。
「では、こちらを」
リンは受け取る。
開く。
少しだけ黙る。
そして読み始める。
「地球温暖化防止対策」
「森林域の拡大による環境保全」
「森は多様な生物の生息地であり……」
「人々のレクリエーションの場としても重要である」
リンは読む。
「植生回復を推進する」
「予算は……」
そこで止まる。
部屋の誰も声を出さない。
若い研究員が再び口を開く。
「我々もまだ断片的にしか読めていません」
「本当にそんなことが書いてあるのですか」
「だとしても信じられない。森を増やすなんて魔物が増えるだけだ」
「レクリエーション? 森で?」
室長だけは静かだった。
全員を見つめる。
「私は――」
「二千年前には魔物が存在しなかったと考えています」
ミリアが反応する。
「そんな世界があったの?」
「可能性です」
室長は答える。
「確証はありません」
「だが遺物や文献を見る限り」
「森は恐れる場所ではなかった」
「共に生きる場所だった」
ハンス。
「信じられねぇな」
室長は職員へ目配せした。
「三人を研究室へ」
「詳しい話を聞きましょう」




