第21話 <リンの謎>
魔犬とあの男。
昼間の戦いの中で、ミリアはもうひとつ気づいたことがあった。
あの剣のすごい切れ味。
斬った――そう見えなかった。
触れた
それだけに見えた。
「ねえ、リン」
「その剣、見せて」
リンは顔を上げ、ミリアを見た。
横に置いていた剣を手に取ると、鞘ごとミリアに投げた。
ミリアは鞘からそっと剣を抜く。
少し反った形状、刃こぼれ一つない。
吸い込まれるような黒さ。
不思議な片刃の剣。
数時間前、あの不気味な男や魔犬を切ったばかりの剣とは思えない。
材質は――
金属じゃない。
「この剣は何なの?」
「色は違うけど私の白いナイフと同質のものに見える」
「こんな剣、他では見たことない」
ミリアはリンを見つめた。
「これはどこで手に入れたの?」
「誰が作ったの?」
リンは眉をしかめ、やや悲しそうな顔をした。
「分からない」
「気が付けば持っていた」
その言葉を聞いて
木の上のクロウが、
ほんの少しだけ目を開いた。
だがすぐ閉じる。
誰も気づかない。
そういえば、ミリアはリンのことを何も知らなかった。
分かっているのは、恩人と同じ種類の人間だろうっていう確信だけ。
「ねえ、リンってどこから来たの」
「こんな剣、持ってるし古代文字も読める」
「どこで習ったの?」
だがリンは何も答えなかった。
焚火の揺れる炎が3人の顔を照らす。
無言のまま、夜が更けていく。
やがてハンスとミリアは焚火のそばで横になった。
しばらくして、規則正しい寝息が聞こえるようになった。
リンだけが、まだ一人うずくまっている。
焚火の火が、静かに辺りを照らしている。
「私は何者なんだ…」
「何をしたいんだろう」
あらためて思った。
リンはミリアの問に何一つ答えられなかった。
3年より前の記憶はない。
リンの記憶は森で義父と出会ったところから始まる。
その時には既にこの剣を持っていた。
戦い方を知っていた。
体が自然に動く。
魔物に噛まれても死なない、魔人化しない。
今日の魔人のように傷もすぐ治る。
習った覚えはない。
だが古代文字を読める。
遺物――銃も。
扱い方が頭の中に浮かぶ。
でもそれだけ。
それ以上は分からない。
義父に言われたこと。
『お前はな……人じゃねぇ、“何か”だ』
『この世界を、どうにかできるやつがいる』
『……お前かもな』
世界を戻したい? 戻る? 鍵? おとぎ話の勇者様?
リンは知りたいと思った。
自分が何なのか。
魔物をなくす。
世界の秘密を知る。
そこに自分の秘密もある気がした。
魔物をなくしたい。
それは本当だ。
だが、なぜそんなことを思うのかさえ、リンには分からなかった。
夜は静かに更けていく。
遠くから何かの鳴き声が聞こえる。
クロウが首を伸ばす。
眼が青く光る。
誰も見ていない。
「進路確認」
「対象生存」
「計画修正」
「東進推奨」
それだけ、反復復唱のようにつぶやくと、
クロウは再び眼を閉じた。
翌朝、一行は街道を東に。
王都へと向かった。




