第19話 <魔犬使い2>
ミリアの放った弾丸は魔犬使いの胸を打ち抜く。
魔犬使いは木から落ちる。
銃を撃った反動で尻もちをつくミリア。
ハンスが叫ぶ。
「気をつけろ、あぶねえ」
「お前はひっこんでろ!!」
「馬鹿ハンス! 助けてやったんだから感謝しなさいよ!」
だが。
落ちた男が立ち上がる。
胸を撃たれていた。
それなのに。
血が止まった。
傷が閉じ始める。
「……おい」
ハンスが顔をしかめた。
「こいつ人間じゃねぇぞ」
フードが外れた。
そこから現れた顔。
痩せた、枯れ枝のような。
その口元が嗤うように吊り上がった。
濁った眼。
人のような魔物のような。
ハンスに向き合う。
「魔人か!? だた、こんな魔人見たことねえ」
その瞬間。
右手にいたリンが動いた。
剣一閃。
静寂。
男の上体と下体が乖離する。
「チッ、EXか――」
それを最後に、今度は息絶えた。
ミリアが目を見開く。
「すごい……」
「なんて切れ味」
斬ったというより通り抜けたというほうがいい。
そう見えた。
リンは無言で、ただ剣についた血を払った。
ミリアはその漆黒の、やや反りのある不思議な剣に目を奪われた。
あとは作業だった。
リンが剣を振るう必要もなく。
残りの魔犬は、何匹いようが関係ない。
ハンスが大剣をぶん回すたびに、切られたのか殴られたのか。
残骸があたりに転がった。
全てが終わった後、ミリアは血の付いた地面を見た。
魔犬使いの死体を見る。
だが不思議だった。
恐怖より先に、疑問の方が大きかった。
「ありがとうございます」
「本当にどうなることかと思いました」
馬車から1人の男が現れ、戦っていた若い男と共にやってきた。
「災難だったな」
「怪我はねえか。兄ちゃんも噛まれちゃいないか?」
若い男。やや精悍。剣をもって馬車を守っていたのはこの男。
もう一人は少し太った中年の男性。
「お陰様で二人とも無事です」
「私は仕入れでよくあちこちに出向くのですが」
「さすがに交易都市と王都の間だと魔物に会うこともないと思って」
「先日より特に護衛は雇わず、彼と二人で移動していたのです」
「が、まさか、こんなに王都に近いところで襲われるとは。油断致しました」
中年男性が笑顔で答えた。
「それにしてもお二人ともお強いですな。あれだけの魔物をモノともしない」
「そうそう、申し遅れました。私は王都で遺物を扱っているボロンといいます」
「お名前をお伺いしても」
「俺はハンス、こっちはリン、それにミリアだ」
「おお、その体格、強さ。なるほど貴方が『不死身のハンス』さんですか」
「お噂は常々聞きます。どうりでお強いわけだ」
「死に損ないのハンスよ」
「ミ―リ―ア―、お前なあ…」
「それを言うなぁぁっ!」
「ははは、いずれにせよ素晴らしい腕前ですな」
「それに、そちらのお嬢さんの剣術も神業のよう」
「リンさんですか。寡聞にして存じませんが、名だたる剣士とお見受けします」
「どちらかの剣士団にご所属で?」
「いや、一人だ」
リンは軽く微笑み、それ以上は答えなかった。
「私はミリアよ!」
「見たでしょ、私の銃。弓なんかよりずーっと強い」
「それによく不発を起こす遺物の発掘銃と違って、完璧に機能するわ!」
「百発百中、ミリアスペシャル」
ミリアも負けじとPRする。
「いやあ、素晴らしい方々です」
「これならば魔物にも阻まれず旅ができる訳ですな」
「ところでこの後は何処においでですか」
ボロンは3人に問いかけた。
「俺たちゃ、王都に行く予定だ」
「それで向かってたら、アンタらと魔犬が見えたんだ」
「王都ですか。であれば、私らも王都に向かう途中でして」
「出来れば… 一緒に行って頂けません?」
「王都までまだ少しありますし――」
「また魔犬が出たら困るので…」
「もちろん幾ばくかの護衛料と、今夜の食事も提供します」
3人は申し出を受け、ボロンらとともに王都に向かうことにした。




